アイ ライク ヒトカラ ベリーマッチ

紀伊谷 棚葉

アイ ライク ヒトカラ ベリーマッチ

 俺は【ヒトカラ】が大好きだ。

ヒトカラはその名の通り一人でカラオケに行くことで、

俺は高校の頃から初めて5年くらいやってるヒトカラベテランだ。

今日はそんな俺がより多くの人にヒトカラを知ってもらうために、やり方ってやつをレクチャーしようと思う。ヒトカラに興味のある人、行くのに踏ん切りをつけたい人はぜひ学んでいってくれたまえ。


 まずはヒトカラを行う時に一番の関門と言っても過言ではない、【受付】の攻略方法をレクチャーする。

初めに当たり前のことだが、カラオケの受付まで行く。ここで確認するのが『混んでいるかどうか』だ。正直に言うがヒトカラベテランの俺でも、流石にカップルや友人同士の集団の中でひとり寂しく待機するのは耐えられない。じゃあどうするのか。選択肢はただ一つ。


 撤退だ!


 今回は運がなかったということにしてお家に帰ろう。こうならないためにカラオケ店の混んでいる曜日や時間帯をあらかじめ調査し、避けるようにすること。それと撤退する時のワンポイントアドバイスを教えよう。『周囲をキョロキョロ見回し、小声で「あれ、この店じゃなかったかな?」とつぶやく』。これで周りの人には『ああ、あの人は待ち合わせ場所を間違えたんだな』と認識させることができる。俺もよく使う手だ。


 さあ、なんとか空いているカラオケ店に入ることができた。このまま受付を済まそう。受付する時はどうしても緊張してしまうかもしれないが、安心してほしい。カラオケ店員さんは俺たちの味方だ。この前立ち読みした雑誌にあった『カラオケ店員に聞いたヒトカラする人をどう思いますか』という特集には、ヒトカラ愛好家にとってそれはそれは好印象な意見ばかり書いてあったから間違いない。それになんといっても俺たちは客だ!お金という代価を払っているのだ!堂々とした面構えで受付を済まそう。

もちろん恥じらいなど感じてはいけない。ヒトカラは恥ずべきことではないのだから。


 見事に最難関である受付をクリアーしたらあなたのヒトカラタイムはもうすぐそこだ。指定された番号の部屋へ速足で乗り込もう。おっと、部屋に入る前にトイレを済ましておくのを忘れてはいけない。まあ、ヒトカラベテランの俺は家で済ましていることを基本としているのだが。

さて、部屋に入ったらまずすることは『飲料の確保』だ。気持ちの良いヒトカラを行うために『喉のうるおい』は必要不可欠。カラオケ店には飲料の調達として【セルフ式】と【注文式】の二つがメジャーなものとなっている。

【セルフ式】ならほぼ勝ったも同然。財布などの貴重品を持ってドリンクバーのコーナーへ向かおう。集団カラオケでも複数人でドリンクバーのコーナーへ向かうことは、部屋に入る前の時以外ほぼない。つまり、一人でドリンクバーに行ってもヒトカラしているとはまず思われないだろう。安心して好きなドリンクを飲みまくろう。

問題は【注文式】だ。この場合は部屋に入ったらすぐに歌うことは難しい。おそらくこの方式のお店では受付の際に飲み物を事前に聞かれることが多い。そしてその飲み物はしばらくすると店員が部屋に持ってきてくれる手はずになっている。つまり、部屋に入ってすぐ歌ってしまうと、飲み物を持ってきた店員と部屋の中で接触してしまうのだ。歌っている時に他人に介入されるのは恥ずかしいの極みだろう。じゃあどうするか。選択肢はただ一つ。


 待機だ!


 飲み物を持ってくる店員が部屋のドアをノックするまでひたすら待機だ。

店員が来た時は歌う曲を探すフリをしてごまかすのも忘れずに。歌う時間は減ってしまうが、必要経費と思い我慢しよう。

ちなみに、この飲料調達の時間を短縮できる素敵な方法として『飲料の持ち込み』をオススメする。持ち込み禁止のお店でも手荷物検査まで行うところはまずない。俺はいつも外の自販機で水をかってからカラオケ店に向かうようにしている。参考にしてほしい。


 お待たせしました!あとは退店時間まで歌おう!さあ歌おう!やれ歌おう!

喉が枯れるまで!満足いくまで歌い続けようではないか!音程を外そうが、同じ歌を連続で歌おうがお構いなし!集団カラオケでは楽しめない『自由な歌唱時間(フリーダム・ソングタイム)』をあなたは今、手に入れたのです!


 楽しい歌唱の時間は終わり、退店時間となってしまった。荷物をまとめて受付で精算を行おう。退店時に注意することは特にはない。最初の受付を突破したあなたなら、精算など容易いものだ。すみやかにお金を払って帰ろう。俺はその昔、清算の列に並んでいる時にヤンキー風の集団に絡まれたこともあるが、そもそも歌いまくった俺の声はガラガラでまともな返答はできないも同然。「君ヒトカラしてたの?」とか、「ヒトカラ寂しくねーの?」とかいう戯言に、俺は『無言スマイル』を貫き通してやったぜ!

…精算の列が混んでると思った時は、トイレで少し時間を潰すのもアリだ。覚えておいてくれ。


 これにてヒトカラレクチャーは終了だ。どうだったかな?

この動画を参考に、素敵な【ヒトカライフ】をエンジョイしてほしい!

それじゃ、どこかのカラオケ店の隣の部屋で会おうぜ!バイバイ!


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 動画を編集し終えた青年が小さな伸びをした後、部屋のベットに飛び込んだ。

「…っああー!俺も友達とか作って集団でカラオケ行きてぇー!飲み会の二次会とかで女子の歌声とか聞きてぇー!女子の裏声とか生で聞きてぇー!こう、男同士で肩組んで流行りの歌とか歌いてぇー!ああーいいなー。憧れちゃうなー。はぁ…、でもサークルとかなんか怖いし、同じ学部の人に声かけるの恥ずかしいしなぁ…」

枕に顔面を埋めながら憤りと寂しさをぶちまける、友達のいない孤独な大学生がそこにはいた。


「…ヒトカラ、行こ」

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