58.そんな下手は致しません
広間に、ジゼルが入って来た。大した
「バララエフはどうした」
「アルメキアの軍用車は運転が難しかったようで、外でへたばっています」
考証が雑な気もするが、まあ、どうでも良いことだ。少しして、マリリも戻る。ユッティ達は、まだ沖合いだ。
ナドルシャーンが
隣の部屋から、不明瞭な
病人のような足取りで現れたチェスターの、前髪はでたらめに乱れていた。
「お兄様は……マリネシアを、どうなさるおつもりですか?」
ルシェルティの声に、ナドルシャーンは立ち上がって、マリリに歩み寄った。
「フェルネラント、イスハバートの両国と、
「れん、ぽう……?」
マリリの手を取り、ルシェルティに向き直った。
「政治、経済、法制、軍事……様々な分野で協調しながら、他国と異なる強い
ナドルシャーンの言葉が進むにつれて、
それぞれの君主を頂き、それぞれの政治体制を持ちながら、
内政にあたっては
離れていながら密接な民間交流と、
これは、長い植民地支配で近代化の力を奪われた国々にとって、身を寄せ合いながらでも立ち上がる、一筋の光明になり得るものだ。
フェルネラント帝国とイスハバート王国、マリネシア皇国がその
また、裏を返せば、植民地支配の経済利点である
いち早く同調し、
もちろん、旧植民地同士が
こんな途方もない策が、ナドルシャーン一人の頭から出て来たはずがない。
エトヴァルトの
もっとも、ナドルシャーンとマリリの
制度上の必然ではなくとも、姿勢と覚悟を国内外に
「これが私の決断だ、ルシェルティ」
「素敵です……お兄様」
ルシェルティが微笑んだ。
「は……ははっ、はは……っ! お、驚きました! 驚きましたよ、皇子様……っ!」
調子の外れた笑い声が、チェスターの口からもれた。
「どうしてこうなったのか、
恐る恐る、銃口を下にむけたまま、拳銃を取り出して床に置いた。
「
「諜報員は、現実主義でして……負けた戦いに、こだわりは致しません……ですが……」
押しのけられて、床に座り込んだルシェルティを
「彼女は……私に、
「チェスター……?」
ルシェルティが、両手を上げるチェスターの、引きつった
「アルメキア軍を手引きしていたのも、私です。彼女は……なにも関与していません。幕引きのための罪人なら、私一人で充分でしょう。で、できれば、死刑だけは
ナドルシャーンが
誰も、言葉を発せなかった。視線を動かすことも忘れたようだった。
ルシェルティが床の拳銃を拾い、チェスターの前に立った。穏やかな笑顔で、銃口をナドルシャーンに向けた。
「私も愛しております。お兄様」
ふ、と、
白い衣装の、右脇腹から左胸にかけて線が走り、赤く
ルシェルティが、
「いけません、お兄様……もう……子供では、ないのですから……」
「構わん」
ナドルシャーンが、ルシェルティを抱く手に力を込めた。ナドルシャーンの服にも、赤い
「最愛の妹よ……おまえが眠るまで、こうして抱いていよう」
「嬉しい……お兄様……」
ルシェルティも震える手を伸ばし、ナドルシャーンの首に、懸命に抱きついた。
そのまま、二人とも動きを止めた。ジゼルが、静かに
一呼吸、二呼吸が過ぎた。
呼吸が十を超える頃、ナドルシャーンが
「お、おい……これは……?」
「そんな
ジゼルが、口に手を当てて微笑んだ。
「少しの間、傷は残るでしょうが……罰としては、
ナドルシャーンが立ち上がろうとして、首にかじりついたルシェルティに引きずられ、よろめいた。
ぽたぽたと血を
「ああ、お兄様……愛しております……このまま、ずっと……抱いていて、下さいませ……」
「いや、待て、そうもいかん……き、傷にさわるぞ、こら……離れろ……っ!」
チェスターは
マリリは
リントが、にゃあ、と鳴いた。
そろそろカラヴィナの煮込み料理が食べたくなってきた、と、
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