57.やっぱり愛なんじゃないか

 島国への上陸作戦は、継続的けいぞくてきな支援がなければ成立しない。


 奇襲きしゅうに近い作戦内容であれば、宮殿があり人口も多い東海岸、軍港のある南海岸、マリエラ群島からのフェルネラント帝国海軍の行動範囲である北西方面を避けて、西海岸南端からの上陸となる。


 これは図に当たった。


 次に考えられるのは、支援艦隊の、アルティカ大陸からの直接侵攻だ。


 恐らく第一段階で上陸部隊によるマリネシアの星の確保、第二段階としてルシェルティ皇女おうじょを皇帝位につけることによる間接統治かんせつとうち施行しこう、それらが失敗した場合の第三段階として支援艦隊と追加の陸戦兵力による制圧、の構えだろう。


 最低限の建前たてまえを捨てた段階なのだから、東海岸を人質におどすと踏んだ。


 そしてこれも、図に当たった。


 アルメキアの国民性なのか、考えることが単純で良い。


 着水ちゃくすいし、砂浜に乗り上げた大型輸送飛行艇おおがたゆそうひこうていの格納庫から、リベルギントとメルデキントが降りていた。


 整備兵達が走り回り、両膝をついたリベルギントの操縦槽そうじゅうそうからメルデキントへと、多くの信号伝送線しんごうでんそうせんをつないでいく。


 神霊核同士しんれいかくどうしの同調をけながら、必要な大容量の情報を共有するための作業だ。


 宮殿を出たマリリが到着する。


 相変わらず銀灰色ぎんかいしょくの短い髪といかつい顔のヤハクィーネが、メルデキントに換装かんそうした、新型の大口径超長距離砲だいこうけいちょうちょうきょりほうの最終調整を終えた。


「それでは神霊様、お願い致しますわ」


 リベルギントの駆動電力をすべて切り、神霊核しんれいかくの出力を情報処理に集中する。


 同調していたすべての海猫うみねこの視覚情報を並列演算へいれつえんざんし、認識を拡大した。


 沖合いを進むマリネシア海軍の老駆逐艦ろうくちくかん甲板かんぱんに、海猫の群れが次々と着艦ちゃっかんする。


 食料の補給と休息を終えた個体が、それらと入れ替わりに次々と発艦はっかんする。


 マリネシア海軍の兵士達が、船倉せんそうからなく魚をおけで運び出して、甲板にぶちまける。


 艦橋かんきょうではユッティが、海猫達の情報を受けたメルルの肉球に従い、海図を塗りつぶしながらヒューゲルデンに進路を指示し、目覚ましい勢いで索敵範囲さくてきはんいを広げていく。


 海猫達を直接指揮しているのは、艦橋の上を飛ぶ、マリネシアの星を着けていた個体だった。


 猫魔女隊マリネシア分隊、海猫航空偵察隊うみねここうくうていさつたい哨戒網しょうかいもうが、ほどなく外洋がいようを航行するアルメキア艦隊を捕捉した。


 戦艦一隻、巡洋艦二隻、駆逐艦六隻の、堂々たる陣容だ。


 マリネシア皇国を制圧後は駐留ちゅうりゅうし、そのまま南海方面の根拠地こんきょちにする狙いに違いなかった。


 各艦の艦橋に海猫達が取りつく。


 どこの海岸からも遠く離れていることに、もしかしたら違和感を覚えた兵士も、いたかも知れない。


 生体情報から位置を確認、座標を解析する。


 海猫達とメルルの中継だけに出力を制御していたメルデキントに、すべての情報を共有した。


 マリリが操縦槽そうじゅうそうに乗り込んだ。


脈拍みゃくはくがやや早い。支障ししょうはあるか」


「あ、ありませんっ!」


 ほお紅潮こうちょうしているが、本人が言うのだから、問題ないだろう。


 マリリが大きく、深く呼吸する。


 メルデキントが出力を解放し、静かに、ゆっくりと立ち上がった。


 大口径超長距離砲を腰だめに構える。


 メルデキントの全長の、二倍に達する砲身だ。後端こうたんを砂浜に突き刺し、翼のような放熱板を展開した。


 マリリはすでに、ジゼルから手ほどきを受けている。


 目を閉じ、呼吸を繰り返しながら、自らの意思で心拍数を早めていく。


 自我を強く持ち、心の形を確かめながら、同じく相手も強く想う。


 生命の熱を交感こうかんさせ、身体を、たましいの奥を開いて、互いの力を導き、受け入れ、一つに束ねていく。


 これが愛と定義されるなら、愛は戦う力になる。


「共犯者、か。なんだ……それも、やっぱり愛なんじゃないか」


 マリリが微笑んだ。


 開いた目がメルデキントの目となり、すべての海猫の目となり、彼方まで認識を拡大した。


 腕がメルデキントの腕となり、空間座標を把握はあくし、砲身がわずかに角度を変える。


 後頭部の積層装甲せきそうそうこうから燐光りんこうが全身に広がって、メルデキントを深緑しんりょくの光と熱が包む。


 引き金をしぼる。引くではなく、しぼる。


 わずかな瞬間が過ぎて、アルメキア艦隊中央、戦艦の右舷後方うげんこうほうに巨大な水柱が立った。


 水柱に向かって一羽が飛び、位置情報の変化から測距そっきょ弾着修正だんちゃくしゅうせいする。


 アルメキア海軍の兵士には不運だが、徹底的に、完膚かんぷなきまでに撃滅げきめつする必要があった。


 海猫達を一斉に退避たいひさせ、戦艦に十六発、巡洋艦に各五発、駆逐艦に各三発、計四十四発の特殊徹甲榴弾とくしゅてっこうりゅうだんをメルデキントが立て続けに放つ。


 弾着を確認する、ではない。すべての標的の轟沈ごうちんを確認した。

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