53.なんとなくわかるけどさ
病院は三階建ての
ナドルシャーンを見て軽く騒ぎになりかけたが、ヒューゲルデンは
そして三階の端の、研究室の札がかかった扉を、やはり無遠慮に押し開いた。
部屋の中で
「珍しいな、
「ぬかせ、
その
「おまえまで、なんの用だ? 嫁の顔でも見せに来たか?」
「え? 嫁? 誰、あたしのこと?」
「ざれ言だ、気にするな」
ユッティの横でナドルシャーンが、
「プリルヴィット先代皇帝、父だ。こんな所に
「なんだ、知ってて来たのではないのか。どこぞに出かけていれば良かったわ」
口をひん曲げたプリルヴィットの眼前に、ナドルシャーンがマリネシアの星を突きつけた。
マリネシア皇帝位継承の
やがて、大きく
「おまえには、皇帝位を継承する気がないと思っていたが……」
「あなたがこれから吐く、ざれ言の内容による」
「……我らマリネシアの
ナドルシャーンも含めて、プリルヴィットの問いに答える者はいなかった。
「男子が皇帝となって嫁をとり、子供が生まれる。男子であれ女子であれ、この子供は
「ええと……お嫁さんやお
ユッティが代表して、まとめた。
「そうだ。
「他の国も似たようなもんじゃないの?」
「違うな。特に
ヒューゲルデンが笑う。対照的に、プリルヴィットは一層、口をひん曲げた。
「ここまでなら、まだ古くさい伝統で話がついた。私は、皇帝になる前から医学をかじっていてな。それで退位した後は、ここで隠居していたのだが」
壁に並んだ本棚から、研究記録のようなものを引っ張り出す。
「最近、あちこちの国で、
プリルヴィットの説明を要約すると、個体生命が生殖活動を
この内の1組が性別の情報を含み、男の場合はYとXの二種、女の場合はどちらも同じXと
23組の片方ずつを両親から受け継ぐ仕組みのため、性別は男親からYとXのどちらを渡されるかで決定する。
つまり、男親と男子のY
マリネシアの
「んー、そりゃ人類文化的にすごいってことは、なんとなくわかるけどさ……ぶっちゃけ、どんな現実的な価値があるのかしら? その
「当たり前だ。現象は現象であって、その本質に意味も価値もない。そういうものを後付けするのは、人間の価値観だ」
ユッティの
「価値を認識しない者にとっては、あってもなくても良いものだ。おまえ達や、息子のようにな。だが、伝統や継承に大きな価値を認識する者にとって、それらは
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