50.おもしろくはなりそうだな
東の水平線に、
前後左右、猫の視点の高さでも、視界がよく開けている。人間は一人だ。
「こうも部外者が多いと、あなたと話すにも気を使います」
「賢明だ。ヤハクィーネが言うには、私ほど自我と積極性を示す
リントが、にゃあ、と鳴いた。訳すような意味はない。ジゼルへの応答を、
ジゼルが、口に手をあてて微笑んだ。
「では、その
この島には同族が存在しない。一個体の行動範囲には限りがあった。
それでも森の
宮殿と政務中央は東岸、やや北寄りだ。軍港は南岸の端、本島の北西にはマリエラ群島が連なり、その先にはフェルネラント帝国領とカラヴィナがある。
アルメキア共和国本土、アルティカ大陸は遠く外洋を
フェルネラント帝国海軍がマリネシア本島を離れたこと、創設直後のマリネシア海軍にまともな
マリネシア本島に、アルメキア軍が
昨日の集団繁殖地には、マリネシアの星を持った個体はいなかった。
目標個体は別の生活集団に属しており、時間はかかったが、情報だけは得られた。
外せない重量物に
無論、報酬は新鮮な食事の提供で、順調に進行すれば昼の前というところだろう。
「いつもながら、あなたの働きには頭が下がります」
ジゼルがリントを抱き上げ、顔を寄せる。
「先生とマリリにも、情報を共有して下さい。可能な限り他者のいない状況で、会話も避けるようにお願いします。相手は情報部です、細心の注意を」
「了解した」
すぐさま行動しようとしたリントを、だが、ジゼルが妨害した。
的確に動きを制して、
「それはそれとして、もう少し良いでしょう」
文脈は理解できないが、まあ、満ち足りた表情をしているので良しとした。
朝食には、さすがに麦酒は並ばなかった。
カザロフスキーだけは青黒い顔でうめいていたが、ユッティ、ヒューゲルデンを始め、他も全員けろりとしたもので、ジゼルとマリリが、またあきれた顔を見合わせていた。
カザロフスキーもバララエフも、今となってはロセリア軍の、薄茶色の
アルメキア軍の予想上陸地点については、認識が一致した。
ユッティが、一応心配する。
「二人だけで大丈夫なの?」
「場合によっては斬り込みます。機動性と柔軟性を重視しました」
「またまた! 冗談きついな、ジルは」
バララエフは笑ったが、やはり、他の誰一人として笑わなかった。どうもこの集団には、冗談で他者を笑わせる能力が欠落しているらしい。
「他の方々は、私達からの連絡があるまで、ここで待機を。アルメキア軍がいなければ秘宝の
「ふむ。まあ、どっちに転んでも、おもしろくはなりそうだな」
「私は宮殿に戻る」
のんきなヒューゲルデンと対照的に、ナドルシャーンが、思いつめたような声を出した。驚くマリリと、そしてジゼルを、順に見る。
「おまえは昨日、私に決断をさせなかったな? ロセリアもアルメキアも、結局は
ナドルシャーンの言葉をさえぎって、ジゼルが自分の唇に、一本指を立てた。
「せめて今日の一日、私達に
ジゼルがマリリに向き直る。マリリが、力強く
「お兄様を頼みましたよ、マリリ。先生も、以後の指揮をお任せします。特にカザロフスキー……元少佐には、おかしな
「う……うるさい……っ! 遠回しに、
「はいはい。まったくうちは、
ユッティとマリリが
隠密行動、周辺警戒、観察力、そのすべてにおいて、全生命の
リントが、にゃあ、と、メルルが、にゃ、と鳴く。
ジゼルの言葉を借りれば、すでに最善を尽くしている。後はただ、生きるか死ぬかだ。
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