41.宝探しですよ

 帝国主義のばんをひっくり返し、世界を、新しい国際秩序こくさいちつじょたくに引きずり込む。


 どちらにしても勝ちの見えない博打ばくちだが、それを可能にする力があるとすれば、数だ。


 単純な人口ではなく、考える力と責任を持ち、ものを言う権利を勝ち取った、小なりともおくさず自主独立のできる国体こくたいの数だ。


 カラヴィナは陸上戦の最前線となり、独立どころの騒ぎではなく、イスハリもフェルネラント帝国陸軍の進駐しんちゅうで何とか支えている状態だ。


 新生イスハバート王国が独立国家としての体裁ていさいを整えるだけでも、一朝一夕いっちょういっせきの話ではない。


でも、というのであれば……いっそ死にかけるまで追い込んで、性根しょうねきたえ直してみてはいかがでしょう」


「そうですよ、ジゼル様! 結局、この国の皇族こうぞくも国民も、甘えているだけです。独立するか死ぬかまで、しごき上げましょう!」


「こらこら、肉体派。誰もが、あんた達みたいな頑丈がんじょうな造りしてりゃ、世話ないわよ」


 ユッティの言葉に、ジゼルとマリリの口の端が下がる。


 師弟というか姉妹というか、ひまを見ては穏やかでない方法で親睦しんぼくを深めている同士、発想も反応も似てきたようだ。


「まあ、それも追い追い考えるとして……仕方ありません、今回はここまでに致しましょう」


 エトヴァルトが大げさに両腕を広げ、薄い胸を張った。


「私は明日、一度本国に戻らなければなりませんが……せっかく御足労頂いたことですし、皆さんはもう少し滞在してもらって構いませんよ。休暇だと思って、楽しんで下さい」


「殿下の言葉をに受けるほど、つき合い浅くないわよ。ここからが本題なんでしょ? なにさせようってのよ」


「言ったでしょう。お楽しみです、宝探しですよ」


 ユッティもユッティだが、エトヴァルトも、しゃあしゃあとわるびれない。


 薄いあごひげを生やした年齢の大人が、笑顔で一本指を立てた。


「ここだけの話ですが、マリネシア皇国には古代から伝わる、南海の秘宝と呼ばれるものがあるそうです。最近のうわさでは、この戦局の行く末も左右するほどの、すばらしい力を秘めているとのことですよ?」


うわさって、また、適当ねえ」


「少し脚色きゃくしょくしましたが、軽んじたものでもありません。すでに、軍の情報部を動かしている国もあるようです」


「そ、それは……おめでたい国も、あったものですね……」


「戦局を左右するというのは、話半分に聞く必要がありますが……まあ、休暇の大義名分にはちょうど良いでしょう。面白い報告を期待していますよ」


 ユッティもマリリも、さすがにあきれた顔を見合わせる中、ジゼルだけが神妙しんみょうに立ち上がって敬礼した。


 そして自分の荷物から、いそいそと大太刀おおだち小太刀こだちを引っ張り出した。


「この子達を持って来た甲斐かいがありました」


「あ、やっぱり持って来てたんだ……しかも、増えてるし」


「小太刀を風切かざきばね、大太刀を水薙みずなどりと名付けました」


「名付けたんだ……」


 ユッティが、あきれたような顔をする。どこがおかしいのか、固有名詞を持つ兵器としては、理解が難しい。


 いい加減、夕暮れも濃くなってきたところで、にゃ、と鳴いてメルルが部屋に入って来た。


「あれ? そう言えば、あんた今までいなかったわね。どこ行ってたのよ?」


「昼間の一件がありましたので、すでに状況は開始していると考え、敵情視察てきじょうしさつに出てもらっていました」


 ジゼルが口元を手で隠し、ほおを赤くする。


痴話ちわげんか中だったもので、メルルにお願いしました」


 そういう認識はなかったが、この際、深入りはしないでおく。


「エトヴァルト殿下もいらっしゃいますので、私から口述こうじゅつを致します。面白いかどうかは向こう次第として、南海の秘宝作戦、初回報告というところですね」


 宝探しという非日常的な課題に、ひそかに乗り気だったのかも知れない。先刻までに比べて、ジゼルの声は、明らかに浮き立っていた。

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