36.まさかとは思ったが
大剣と
左右横なぎ、右下段すり上げ、左上段逆ななめ、機体を回転させて二振り平行横一閃、左下段ななめ斬り上げ、右片手平突き、速く、鋭く、もっと速く。
ただ打ち合えば、大きく重い大剣が勝つのが
刃先の一点、
時間を圧縮し、空間のきしみを押し通る。打ち合う
今まで見えなかったものが、はっきりと見えてくる。
その距離の無駄を
次に来る攻撃がわかる。そしてこの攻撃特性は、後ろに
前に出る。極限まで集束した光の線を描き、大太刀を打ちつける。
押されて、敵性機体の足が
左下段逆ななめ斬り上げ、強引に大剣をなぎ払う。折れた左の大太刀を放りながら、右の中段内払い、大剣に食い込んだ刀身をそのまま
真正面、
右腰の最後の大太刀を抜き打ちざま、突く。
一心、一閃、
間合いが離れる。地を蹴り、もう一度跳んで、さらに離れた建物の上に降り立った。
機体同士が、
兵器なら、装甲や各部構造の損傷程度であれば、稼働を続けられる
だが、この場合の損傷は、
今回の決着はついた。敵性機体の、なんの起伏もない金属の
「ジゼル、無事か」
「……困りました」
「問題が発生した、ということか」
「このまま一つでいても良かったのに……と、思ってしまいました」
大太刀を、右腰の
「人喰い山の魔女……
男の声で、思いもかけない人物の名を聞いた。敵性機体の胸部、
「まさかとは思ったが、あんただったのか。ジル」
「バララエフ中尉……」
ジゼルも、驚いた顔をした。
一呼吸して胸部装甲を開け放ち、立つ。
「ここで
まだ燃え残る街の炎に、民族衣装と黒髪が照らされて舞い踊る。
「良い勝負でした。次は最後まで致しましょう」
ジゼルの笑顔に、バララエフも半壊した
「ロセリア帝国陸軍特殊情報部コミンテルン所属、イザック=ロマノヴィチ=バララエフだ! まずいな、本気で
大声が消える間もなく、黒い巨体がまた
最後に、いびつな翼のような腰部装甲が、淡く
ジゼルが、大きく息を吐いた。
「さすがに疲れました……マリリも、ありがとう。あなたがいなければ、勝てませんでした」
すぐ後ろに歩み寄ってきたメルデキントの、胸部装甲が開いた。
くしゃくしゃな顔のマリリが、落ちそうなほどに身を乗り出した。
「は、はい……っ! ジゼル様、その……良かった……っ!」
「涙をふきなさい。あなたにはまだ、やることが残っているのでしょう」
「え……?」
ジゼルの目が、庭園に炎のくすぶる王宮を見た。
マリリが少し驚いて、何かを言いかけて、それでも言葉を飲み込んで、顔を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます