32.神の許しなど要りません
大聖堂の
もうすぐ日付も変わる
大聖堂は石造りだが、正十字の像は木製で、まだ新しい。
一度破壊されたのだろう。見渡せば、壁にも椅子にも、多くの破損があった。
広間のすみで、
マリリが背後から口をふさぎ、
基礎教練の通りの、無駄のない動きで、
声を止めた修道士達の、真ん中を進む。祭壇上の男に一礼した。
「お久しぶりです、
「ああ……覚えています。大きくなりましたね……ですが、罪深いことを……。彼の
「神の許しなど
マリリが、決然として言った。
「フェルネラント帝国陸軍、特務部隊として申し上げます。ロセリア、シャハナ両国の占領軍を
「それは……どうか、御容赦下さい。街の者の
「今は増えていないとでも、言うのですか!」
修道士達が、また祈りの言葉を始めた。
「街を見ました……。男達の姿はなく、女達は……哀れな姿ばかりでした。これが犠牲でなければ、なんなのですか?」
「それでも、
「秩序……? 平和……?」
「平和の対極は、
「暴力に
教主が、顔に深いしわを刻んだ。
「私は……私達は、
祈りの声が、震えるように大きくなった。
街の中、大聖堂からずっと聞こえてきた声に、広間を埋める数の修道士がいると推測していた。
だが、はるかに少ない。そして、その誰もが、身体が奇妙に
顔の皮膚も
「今は……彼らに
「教主様……っ!」
マリリが、叫びかけた声を飲み込んだ。目を伏せる。ほんの少し、呼吸が止まった。
だが、それでもマリリは、一歩を踏み出した。
自分の足取りを確かめるように、ゆっくりと祭壇に上がる。祭壇の正十字像に触れる。
教主を、修道士達を見て、頭を下げた。
「すまなかった……。三年間、本当にすまなかった……っ!」
教主が、驚いたように顔を上げた。修道士達が祈りの言葉を止めて、全員が、初めてマリリを見た。
「
マリリの、正十字像に触れていた手が離れ、こぶしを握る。
背筋を伸ばし、胸を張った。
「それでも言うぞ! 目を覚ませ! こんな物が今、なにをしてくれる? おまえ達の首の下にぶら下がっているのは、同じ
大聖堂の
「まだ生きている! まだ、生きているんだ! 生きているなら立て! 守るものに手を伸ばせ! それしか……それしか、ないじゃないか!」
「ラスマリリ……姫様、あなたは……」
「私は戦う! 戦うと決めた! 戦えない人達の代わりに……戦えなかった頃の自分の代わりに、罪と血と泥に汚れても、戦うと決めたんだ!」
教主がマリリを見つめた。
マリリは、背中を向けた。
「攻撃目標は王宮と、市街四ヶ所の軍施設です。せめて周辺からの避難指示を。攻撃開始は」
リントを
「たった今です!」
マリリの叫びに、遠く上方からの風切り音、
そして連動する
それは空から降り立ち死を振りまく、侵略者の
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