30.それは適切な判断ではない
過去、
生まれた混血児が男子であった場合も殺害することで、三世代六十年程度で、特徴的な遺伝形質は現れなくなる。
荷台に乗っている女達は、兵士達との生殖行為が終わった直後なのだろう。
恐らく
胎児が確認できれば、あるいは
三年という時間は、短くはない。
立ち上がりかけたマリリの腕を、クジロイがつかんだ。
「なんのつもりだ?」
「やめさせる……っ!
「のぼせ上がるな!」
クジロイも、マリリも、顔をゆがませていた。
「小っさくとも大将だろうが! 戦う場所を、間違えるんじゃねえ!」
「……っ!」
にらみ合う二人に、ジゼルが少し驚いていた。
そして笑った。
「安心しました。二人とも、仲良くするんですよ」
するりと、立ち上がる。
「私が参ります」
「……え……?」
「おい、なにを……っ!」
「頃合いをはかって、ロセリア帝国軍兵士を見つけて
「ふざけんな! だったら俺が……」
「
確かにジゼルの
知っている者が見れば、上官に判断を
だが
「私とは同調済み、生体情報を
ジゼルの言葉に、
原因はわからない。とにかく情報を整理し、
「ジゼル、それは適切な判断ではない。作戦行動全体の
「適切ですね」
ジゼルが、口に手をあてた。
「ですが人間の、特に女性にとって、生殖行為というのは特別な意味があるものです。正義の味方の侵略者としては、知った以上、やはり
「ならば、共に行こう」
「それこそ、適切じゃありませんよ」
「でも、ありがとう……その言葉で充分です。あなたはマリリと一緒にいて、私の位置情報が固定された地点を
また、回答ができなかった。
原因が不明だった。
「クジロイ様、お聞きの通りです。チルキス族の
「
「マリリ、あなたは……」
マリリはジゼルの服をつかんで、震えていた。
「……ジゼル様、そんな……私……そんな……」
服をつかんだマリリの手に、ジゼルも手を重ねた。
「軍人なら、いいえ、戦うと決めたのなら……死ぬことも、誰かに死ねと
「いや……いかないで、下さい……ジゼル様……っ!」
「街の誰か、信用できそうな相手に作戦のことを伝えて、攻撃が始まったら、可能な限り街の人の
「……っ」
マリリの手をほどいて、音もなく、ジゼルが階下へと走り出た。
叫びかけたマリリが、自分の両手で口をふさいだ。
身体を
ほどなく通りの方から、兵士達の
何かがぶつかる音、倒れる音、走る足音、女達の驚く声と
誰もまだ、この場を動くことができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます