27.胸を張りなさい
翌朝のジゼルの顔は、
口の両端を下げっぱなしで、とにかく何度も水を飲む。
「ああ、もう、ひどい目に合いました……大事な交渉の席で
確かに武門の
メルルが、にゃ、と鳴く。マリリは
「ジゼル様……私は……」
抱えた膝に、顔を埋めた。
「申し訳ありません……私は、なにも……今度もまた、なにも……できませんでした……」
「おかしなことを言いますね。タトラへの道案内どころか、
「それは全部、ジゼル様が
「あなただけが、わかっていないのですね。年齢とは言いませんよ。経験の差でしょうか」
ジゼルが、背筋を伸ばす。
「チルキス族の
「そう……でしょうか……?」
「胸を張りなさい、マリリ。あなたには、人を動かす力があります。あなたの目には、心に届く意志が……あなたの言葉には、心を燃やす火があります。あとはほんの少し、伝え方を覚えれば良いだけです」
ジゼルが
「ありがとう……ありがとう、ございます……ジゼル様……」
マリリの深い緑の目に、また涙が浮かんだ。
だがそれを、もう流すまいと、懸命に力を込める。
「よお、大将。いい雰囲気みてえなところ、邪魔するぜ」
「構いませんよ。
なかなか言う。クジロイが、苦笑して鼻の頭をかいた。
顔を上げたマリリが、目を見張った。
クジロイと、後ろに続く五十人余りのチルキス族の男達全員が、
「どうだ? 俺達がいまだに、獣の皮を着て木の上で寝ているだけと思ってただろう?」
確かに過去、チルキス族の男が雇われ兵士として、地域紛争に参加した記録はある。
だがそれだけでは、
クジロイは例外のようだが、チルキス族は皆、
三年前のあの時、せめて自分達が間に合っていれば、今ほどの準備ができていれば、心を合わせて戦うことができていれば、と、ずっと閉じ込めていた
「こいつはもう、俺達の戦争だ。昨日はひでえこと言って悪かったな……これからは、よろしく頼むぜ! 小っせえ大将!」
「……小さい、とか……言うな……っ!」
せっかくこらえたはずの涙が、流れ落ちた。
ジゼルも、クジロイも、チルキス族の男達も全員が、それを見て何も言わず微笑んでいた。
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