25.こちらからも誠意を見せましょう
山に入って三日目の昼、
山猫達の
チルキス族は身体を洗う習慣がないので遠くにいても
野生の獣は
「ようやく現れてくれたようだ」
「もう少し、散策を楽しんでいても良かったのですが」
すぐに姿が消える。追ってこい、ということだ。
「ジゼル様、太刀をお
「招待されているのですよ。不要です」
「ですが……」
「それより、次に彼が姿を見せたら、あの
リントが、にゃあ、と鳴いて、山猫達にこれまでの礼と、自分の
隠れては現れ、ジゼル達を先導するようなチルキス族の男に、マリリが笛を聞かせた。
何も変化はない。また隠れては、現れる。
男を追い、
「さすがに
「その必要はない。しばらくは平坦だ。もうすぐ人間の目にも見えるだろう」
闇の先に、明かりが
近付いてみると、
周囲の樹上には、チルキス族の男達がいた。
マリリが笛を握りしめ、一歩進み出た。
「私は……イスハバート、タトラから来たラスマリリ=カラハル!
声が、響いて消えた。
しばらく待つと、先導してきた男が
「そう言えば、夕食がまだでしたね。なにか温かいものが出てくれば、嬉しいのですが」
「山猫達がまだ、遠巻きにこちらをうかがっている。
「なんですか、あなたまで」
ジゼルが苦笑して、マリリの肩に手を乗せて、並んで歩き出した。
陣屋の恐らく中央、見えるだけで十九人、柱や
板張りの床に、ジゼルとマリリが並んで正座する。
奥から、長い黒髪を後頭部で
強く
「懐かしい名前を聞いた。一番上の姉だ。どこで死んだ?」
思いのほか、
「は……はい。タトラの、父の家で
「ああ、いい、いい。親父がうるさいから聞いただけだ。俺は別に、興味なんかねえ」
機先を制されて、マリリが面食らう。なかなかに
「親父も、もうくたばる。実質的な族長は俺だ。で、話ってのはなんだ? 面白そうなら聞いてやる」
「は……はい! ありがとうございます!」
仕切り直して、マリリがここに至る経緯を説明した。
自分が父親の手引きでフェルネラントに逃げたこと、現在のフェルネラントが置かれた国際状況のこと、戦争の目的と今回の作戦の戦略目標のこと、そのために自分の一命を捨てて軍に参加したこと、イスハバートを占領と
マリリが語り終えると、男は感嘆したように
「イスハバート解放、か……こいつは驚いた! いや、途方もねえ話だな。面白かった! おまえ、苦労してんだなあ。道案内くらい、お安い御用と言ってやりたいが……」
「もちろん、
「俺はそいつを、どうやって信じたらいい?」
マリリが、
「おまえの話の一から十まで、本当か
「そ、それは……ここに、エトヴァルト様からの、署名の入った
「だから、そいつが本物かどうかを、俺がどうやって知ればいいのか聞いてるんだよ」
男の
「おまえ達がどこの誰なのか、なにもわからねえ。判断する材料がねえ。だがな、はっきりしてることが一つだけある。俺達しか知らねえはずの水源を、おまえ達が、正確に
「それは……」
「おまえ達が自分で言った通りの人間だったとして、タトラに案内した後はどうなる? もしシャハナの連中にとっ捕まって、
「……っ」
「シャハナの連中は、この時とばかりに、イスハリ全域を占領しようとするだろうなあ。水源の位置を全部知られていたら、俺達に勝ち目なんかねえ。チルキス族はみんな、女も子供もなぶり殺しだ。そんなこと、させられねえだろ?」
マリリが、唇を
「おまえ達を、山から出すわけにはいかねえ。水源のことをどこまで知ってるのか、正直に言いたくなるまで、時間も手間もかけてやる。なに、シャハナの連中よりは、
「……に……」
「あ?」
「そんなに……私達に、秘密をもらされることが……怖いのか……?」
「それなら……むしろ好都合だ! 道案内などと言わない! 私達を……おまえ達が、守れ! 守って、一緒に戦ってくれ!」
「な……っ?」
今度は、男の方が
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