14.ならば問題ない
三連射が、
飛び込みの勢いで、重心が引き戻せない。そのまま行く。右か、左か。
クロイツェルが向かって左、右構えに開いたリベルギントの正面側に
首の断面から血流があふれるより早く、
破壊された右足首を地に突き立てて制動し、転倒だけはこらえたリベルギントの左脇腹に、銃口が接触した。
「ここなら、撃ち抜けます」
少し角度を上げれば、
クロイツェルは、続く言葉を途切れさせた。
「最後まで、本気で殺そうとは、して下さらないのですね……ですから私も、こんな終わり方は不本意ですけれど」
ジゼルの穏やかな声に、初めて、クロイツェルの目が
リベルギントに、もはや反撃の手段はないように見えただろう。
「
外見上の動きはない。制動時、機体の内部で充分に引き上げていた重心を、落とす。左脇腹に、接触したままの銃口に、その先に落とす。
特殊な
リベルギントの重量が、ほぼ直接、打撃の波動となって
長銃が粉々に千切れ、人体が大きく弾け飛んだ。血か、肉片か、骨か、無数の
ほとんど同時に、リベルギントも膝をついた。
操作はなかったが、勝手に胸部装甲を開いた。少し前傾姿勢で停止している。
しばらく、ただ一つの呼吸音だけが、
「状況は……どうなっていますか」
「身体のためには、失神を期待したのだが」
「意地でも裏切ってやろうと思いました」
どうだ、と言わんばかりの顔だが、まだ起き上がる力もないのだろう。
寝転がったままのジゼルを観察して、行動の判断をつけかねていると、すぐ横の
「ありゃ。良かった、あんた達か。なんだか
ユッティが泥だらけの顔と尻を見せ、隣でリントが、にゃあ、と鳴いた。
「先生。よくご無事で」
「この子が隠れ場所に案内してくれたのよ。まあ、出るとこ出てるお姉さんには、ちょっとせまかったけどね……それよりあんた達こそ、なんで戻って来ちゃってんのよ?」
言われてみれば、この混乱した状況で、ユッティが長距離を移動できるわけがない。
あの戦闘の中、誘導され、敵性部隊が向かっている左翼側の国境方面から引き離されていた。
「器用な真似をする。今確認しているが、統合軍も敵性部隊の撤退に合わせて、戦線を
中央と左翼の敵性部隊は何とか合流を果たし、崩壊を踏み止まりながら、撤退の先端が山岳部に到達しようとしている。
「なし崩しに
ジゼルが上半身を起こし、呼吸を整える。ユッティがジゼルを見て、リベルギントを見て、軽く肩をすくめた。
「右手首は丸ごと予備と交換できるけど、左腕は、この場じゃどうしようもないわ。いっそ
「了解した」
「細かい作業はこっちでやるけど、重いものは自分で持って。あと他に、油くらいは差せるから、動きの悪いところがあったら言ってね」
「手伝います」
「あんたはこっち」
ユッティが、やけに大きい
中身は、まあ、想像に
とにかく時間がない中、ユッティの
二人とも、今さら無駄な悲壮感はない。戦争が、世界大戦が、今ここで始まったのだ。
「あんたさ……自分がどうやって作られたか、興味ある?」
右手首、左腕、右足首と、作業速度を少しもゆるめず進めながら、ユッティがつぶやいた。
質問の形式だが、違う。肯定とみなせる無言を返す。
「ほんと、あんたの変わりっぷりには驚くわ。あたしも、まじない関係は専門外だから要約するけれど、つまり人の
「先生」
「こうなったからには、いつ、どこが死に場所になるかわからないしね。
ユッティの声の調子に、変化はなかった。
「適当な
最後に各関節部に機械油を差し、動車輪の内燃機関に燃料を補給して、ユッティが
残った大太刀は二振り、一振りを左腕に固定し、一振りは左腰に
「だからあたしは、人間に生まれるはずだったあんたの
「意義のある行動とは言えないが、一考しよう」
「するんですか」
ジゼルが苦笑する。胸部装甲を閉じて、脚部の動車輪を展開する。
「敵性部隊のしんがりも、もうじき戦線を
「では、あれを
今は
後方斜め上に向け、右腕との干渉を最小限に抑える。なるほど、ここまで時代がかれば、いっそ
「確認する。これまでの戦闘経験から推測して、既に消耗している敵性部隊の戦力は脅威にならないとしても、最善の場合は
敵性部隊の最高位が誰か判断するのは難しく、戦術目標である外国勢力との接触を防ぐためには、戦意の有無に関わらず皆殺しにする必要がある。
また、外国勢力が予測行動で進撃を開始していれば、真正面から遭遇する危険性もある。その時は、こちらが
「全て、承知しました」
「ならば問題ない」
戦場の狂気、いくさの
「この身は
風と雲に
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