9.さらっと言うわね
どことなく、
「なんか、嫌みに切れ味がなかったわねえ。犯人捜しが上手くいってないのかしら?」
「厳しいだろう。爆発物の持ち込みはともかく、基地内で銃を使用している以上、複数の協力者がいることは明白だ。撤退を支援するはずの狙撃手が、状況を
「そこまでして、まだまともに稼働してない実験機を壊したい理由なんてある?」
「国家や、正規の軍隊にはない。
「ますます大がかりねえ」
「本来の目標が別にある
「その割には、こんな襲いやすい状態なのに、放ったらかしじゃない」
「こう見えて仕事している。夜間警戒には、協力的な三匹の雌猫も加えて、
「あ、本当によろしくやってたんだ。一匹増えてるし」
リントは今、風通しの良い枝の上で、ずっと眠っている。
時折耳を動かして、ジゼルの打撃音を確認する。もう慣れたものだった。
ユッティの上半身が、
「放ったらかしと言えば、ジゼルもどうなのよ。あれでそれなりの見込みとか
「順調すぎて驚くほどだ。もうすぐ限界に達するだろう」
「んん? あんたの言い方を真似するみたいだけど、前と後ろがつながってなくない?」
「木を切り倒すというのは、確かに行動目標の設定だが、
充分に太い
正しく体重を乗せた打ち込みであれば、その衝撃を腕と胸、腹部の筋肉を締めて受け止めることになる。
特に胸から腹にかけての
「全力の打ち込みを続けることができれば、肉体の自然回復力を超えた細胞破壊が
「さらっと言うわね」
「武術が伝える普遍的な
人体が通常行っている歩行、
ジゼルが見抜いた通り、前後がつながらない動作や姿勢の制御を、動きの中で重心を自在に移動させることで、流れるように実行する。
「本来、
その上で、細胞破壊から回復への転換が速やかに、かつ充分に行われるだけの肉体的素質を備えていた場合に限って、実際に動きを再現できる筋組織と神経が再構築される。
「そりゃあ、今さら
「今頃は全て体感している。そうでなければ、教えても無駄だ。対して、ユッティに説明した目的は別にある」
「あたしに説明した目的? なによ、引っかかる言い方するわねえ」
「重心移動、と言葉にしたが、理屈としては知っていたはずだ。確認したい」
人体と完全に同一ではないリベルギントの機体構造が、重心移動を再現できたことは、偶然ではあり得ない。
筋肉の構成と動作の関係性を分析し、機体構造に再構築する過程で、認識と理解を経由しているはずだ。
「人体と動きの、
「んー、ちょっと買いかぶりかな……確かにいろいろ参考にしたけど、あんたが言ったほど明確な知識じゃなかったよ。実際に壊されるまで、どこにどんな負荷がかかるか、想像できてなかったしね」
ユッティが、
「ウルリッヒ=フリード侯爵、
「
「確認しなくても良いのよ? つけ加えると、侯爵夫人の亡くなった後だから、真っ当な恋人とは言わないまでも不道徳じゃないわ」
「考慮する」
「よろしい。もともと
「経緯は
「なによー、そっちから振ってきた話題じゃないの」
口をとがらせながら、それでも方向修正は受け入れられたようだ。
「あたしみたいな物好きはともかく……武門だ武術だってのに先がないのは、その通りだと思うわ。銃だ大砲だ、戦車だ戦艦だって、効率的な道具はどんどん増えていくもの」
ユッティが、肩をすくめて
「まじないと人の魂で、
「おおむね同意する」
「それでもこだわって、引っ張られて、こんなところに行き着いちゃってさ。ジゼルのこと、笑えないわ。クロイツェルだって……あたしとは、んー、まあ、遠縁なんだけどね」
ユッティがまた、力なく笑った。
「あんにゃろうにとっちゃ、世話になった
「影響力の大きい人物の場合、そういうこともあり得るだろう」
「ありがと。あんた、優しいことも言えるのね……。ね、この際、情けないついでに聞いちゃうけど、あんたもしかしてウルリッヒの生まれ変わりとかじゃない?」
「もちろん神霊の一部として含有している。だが、以前もなぞらえたように、煮汁に溶けた成分と原材料の固体を同一に定義はできない」
「やっぱ基本、優しくないわ」
ユッティの主観的評価はともかく、補完しておきたかった情報は得られた。
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