8.これから関係を進めよう
だが、無意味とは何か。
種が絶滅に
ジゼルの意志が指向する強さも、死も、ジゼルにとっての無意味ではない。
それだけのことだった。
「何も得ることなく死ぬ可能性もあるが」
「人は、あれほど簡単に死ぬのだと知りました。自分だけが特別などと思いません」
穏やかな笑顔の底に、黒い影が沈んでいる。
決して消えない、
「リベルギントの調整日程に影響が出るだろう。ユッティの
「祝福は、してもらえないでしょうけれど」
搭乗試験を始める前から余裕がないと言っていた上に、機体に余計な修理が加わり、ジゼルまで持って行かれるとなれば、冗談めかしている場合でもないだろう。
だが、話を聞いたユッティは、少し目を閉じただけであっさりと
「まあ、仕方ないね。こうなったら悪いけど、あの
「理解と協力に感謝する」
「正直な話、あたしも興味あったのよね……あんたがこの機体を、どう使ったのか。どう使えば、こんな状態に壊れるのか。これからどう使いたいのか。あたし達が予想した以上の潜在能力を、あんたはリベルギントから引き出して見せた。それを、なかなか無視はできないわ」
ここぞとばかり、リントの顔をくしゃくしゃとなでる。
「で、当のジゼルはどこ行ったのよ?」
「教練に使う木刀を、なるべく多く持ってくるよう指示した。そろそろ戻ってくるだろう」
「木刀?」
「持ってきましたよ」
ジゼルが、木刀の束を
髪をまとめて
まあ、やる気はないより、あった方が良い。
「足りなければ追加します」
「後でも良い。では、そうだな……これぐらいが妥当だろう」
周囲を見渡して、手ごろな木を選んだ。
「この木に打ち込む。上段、左右の斜め打ちだ」
「
「そうだ。切り倒す」
「切り倒す? え、だって、木刀も木でしょ? 同じ木でいくら叩いたって、細い方が折れるだけじゃない?」
ユッティが、調子はずれな声を出した.
「それを道理とすれば、リベルギントは同種の
ふと、ジゼルが言っていた、
「フェルネラントは国も人も、無理を通そうとするばかりだ。今さら道理など口にしても、腹の足しにならないだろう」
「おっしゃる通りです」
ジゼルが一呼吸で左右、姿勢の良い斜め上段を打ち込んだ。
「続けて良いですか」
「良く出来ている。ではユッティ、せめて調整を手伝おう」
「いや、でも……それだけ? 後は放っておくの?」
「何事も
「構いません。男子健康にして不在を
「ああ、もう、若者はこれだからなー。ちょっと目を離してる
「ユッティも若い。これから関係を進めよう」
ジゼルとユッティは互いの顔を見合わせた後、一しきり大声で笑っていた。
********************
七日が過ぎた。
早朝から夜半まで打ち込みを続けているジゼルの
始めの頃は
ジゼル本人は、
胸元と、肩から
胃液を吐けば、水か、例の煮汁をすする。
身体が動かなくなれば、調整室の
うめき声も発さず、
「なにをしているのか、とは聞きませんが、彼女の無理をどこまで容認するべきですかね」
クロイツェルが、やや非難する目をユッティに向けた。
ユッティはユッティで、クロイツェルの穏やかでない心情を、どこか良い気味と思っているようだ。
「えらそうだねー。まあ、実際に上官なんだろうけど」
「ええ。それはもう、当然えらいですが、えらぶってはいませんよ」
「そういう自然な
ユッティは相変わらず、極彩色の下半身をリベルギントから生やした状態で、器用につま先でクロイツェルを差し示した。
「あんた誤魔化してもしょうがないから白状するけど、あたし達、もう大演習どころじゃないのよね。あんたや警備への文句は置いといて、そこは謝っとく」
「必要ありません。御指摘の通り、すべて私の責任です」
「まあ、こっちはこっちで、なんとかよろしくやるからさ。そっちはそっちで仕事してよ」
「無論です。必ず事の次第を、明らかにして見せますよ」
クロイツェルは
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