5.親睦を深めます
東西に向き合う位置関係のオルレア大陸とアルティカ大陸、その北方全域を総称する
航海技術と兵器の発展、燃料としての地下資源採掘、機械化による工業の革新を
支配者と被支配者の差は絶対的なもので、今やほぼ全ての大地と海洋が帝国主義列強、
白色人種による全世界の支配体制は、完成を目前にしている。フェルネラント帝国は、その最後の邪魔者という立ち位置だった。
滅亡は時間の問題であり、事ここに至って、フェルネラント帝国は自身の存亡をかけた、無理を承知の大方針に打って出た。
「弱きを助け、強きをくじく正義の味方! そこに秘密兵器も加われば、もう隙がない。隙がないわ!」
尻が、威勢よく叫ぶ。
「文脈の前後が理解できないが、つまり、戦略的勝利を確信したということか」
「まさか。いくら先生でも、そこまで頭に花は咲いていません」
「だめだめ! そんな勢いじゃ、道理は引っ込まないよ? あたしらが
なるほど、一面の真理と言えた。
生存能力の優れた個体が生き残る、強い者が勝つ、勝った者が多くを手に入れる、それは自然の
存在しないものを提示して常識を変えようとするならば、まず自身が常識を
人間は、人種や能力によらず、平等に尊重されるべき権利を持つ。
民族は、自治を保証されるべき国土を持つ。
新しい正義の
植民地や保護領、特に地政学上の
自国民も属領民も
「そういう発想の自由さが、うらやましいです」
ジゼルが感心したような、あきれたようなため息をつく。それはそれとして、膝の上で昼寝するリントの背中をなでながら、ジゼルは満ち足りた表情を浮かべていた。
ジゼルから聞こえたため息に、ユッティがようやく、リベルギントの
「なによ、もう。ちゃんと、花に実もつけるわよ? 搭乗試験、明日からね。余裕ないけど、あなたのがんばりに期待させてもらうからね」
「無論です」
「余裕がない、というのは」
「大演習よ。
「ご自由に。では、私達は退出しましょう」
リントが、ジゼルの膝を降りて、軽く伸びをする。
元来が狩猟型生物種のため、睡眠効率は良く、覚醒も早い。
「あれ? リント、連れてっちゃうの?」
「
「あたしにも深めさせてよー。差し向かいでさ。この子と話してるの楽しいし、その方が兵隊さんにも迷惑かからないし、ね?」
「迷惑というのは」
「先生、お酒を飲むと難しい話が止まらなくなるんです。そのせいで、綺麗なのに、誰からも苦手にされていて」
「わざとじゃないのよ。気持ちがゆるんでくると、ほら、楽しい方に、楽しい方に行くじゃない? いろいろ深く考えるのが楽しいのよ。そうでなきゃ、こんな仕事やってないって」
「わからなくもありませんが、想像すると、完璧な病人です」
一人と一匹、猫と向かい合って飲酒し、長時間話し続ける女性という光景は、確かに重度の精神疾患を想起させるだろう。
ジゼルの言葉には経験者の重みがある。
余計な矛先が向く前に、ここは、早急に議論を妥結へ導く必要があった。
「個々の申し出はありがたいが、同族は
「そうだけどさ。なに、先約でもあるの?」
「現在は発情期だ。交尾の誘いを受けている
「……」
「……」
「幸いにして、それを果たす能力と意思がある。今後の状況変化を想定すると、
「うん、まあ……すごい、適切なんだけど……」
「なんでしょう、この敗北感……」
「理解に感謝する」
にゃあ、と鳴いた声を
あえて伝える必要もないだろう。
夕食は先に済ませておきたかったが、こちらから言い出すのも、さすがに少しはばかられた。
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