自殺志願者
@PIRORONIA
飛び降り
彼女に出会ったのはビルの屋上、脱いだ靴と虚ろな目、誰がどう見てもまさに飛び降りようとしている、そんな出会い方をした。
止めても無駄と騒ぐ彼女は、今から自殺しようとしてるって言うのに微かな笑みを浮かべていた。
生きることが辛く、ここから降りればラクになれると信じてるような表情。
でもひとつ言わなきゃいけないことがある。
「白」
俺の一言を彼女は理解できずにいた。
「屋上にずっといたでしょ?下から見えたんだよね。」
理解が追いついた様子の彼女は先程の困惑した顔を隠し、真顔でこちらに向かってきた。
「君の困り顔かわいかったのに」
おどけて見せるが表情は変わらない。
自殺の瞬間にまでお前みたいなのに会うなんて私の人生本当に最悪とこちらを睨み、そのまま屋上を出ていってしまった。
慌ててあとを追いかける。
「お願いがあってさ?」
「自殺しようとしてたんでしょ?だったらさ」
「やらせてくんない?」
頬が痛い。女性ってよく分からないね。ビンタされたみたい。
そして、生きたいと私に思わせることが出来たらいいよとひとこと残し、足早に歩いていった。またとないチャンスだ。今までどんなに金を積んでもこんなチャンスなかった。絶対逃さない。
彼女を僕は追いかけるのだった...ってのが30分くらい前までの話。今は牛丼を二人で食べてる。
何から話すべきなのかと考えている彼女の方から切り出した。
「あー、君に話しかけた理由かぁ...」
「僕さ、実は泣いてる女性にすごい興奮するんだよね。自殺しようとしてる君を見た時、屋上で君を見た時、涙は流れてないのになんてきれいに泣くんだろうって思って」
ドン引きさせてしまった。つかみとしては悪くないと思ったのに。
「さすがに冗談、ちゃんと話すね。」
「実際、あの屋上に上がる理由ってそんな無くない?」
「...俺も自殺しようと思って上がったんだ。君はその先客ってとこ。でも、なんて言うのかな、自分より怒ってる人を見ると怒れなくなるみたいな、客観的に自殺志願者を見ることで生きようかなって思えたんだ。で、そう思った瞬間にに思い出したんだよね。俺童帝だっ、て」
ドン引きされてしまった。デジャブかな?
帰ると言い出したのでついて行く。
「生きたいと思えた?」
彼女はゴミを見る目で見ている。質問にくらい答えて欲しい。
「帰るって事はそこで...?」
ため息をつかれた。明らかに僕へ向けたため息だ。泣きそう。
明日、例の屋上でと言ってマンションの中に入っていった。さすがに中までついて行くなんてことはしない。それで彼女を恐怖させてしまったら生きたいと思わせる所ではない。
大人しく明日を待つのがいいだろう。
しかし彼女は屋上には来なかった。
翌日も、その翌日も。
1ヶ月がたった頃、今日いなければ...と思って屋上に上がると、彼女が待っていた。
服は小綺麗なっていて、だいぶ印象の変わった彼女は、仕事見つかったと嬉しそうに話すのだった。
この1ヶ月の間に何があったのかは知らないし、僕の言葉で生きようと思ったのなら相当やばい人なのかなと思ったけど今日限りの人だ。どうでもいい。
よくこんなところ立ってたなーなんて、前回会った時からは想像出来ないような口調で喋っていた。生きようと思えた、ありがとうを伝えに来たと言ってくれた。だから僕は
彼女を突き飛ばした。
威力が足りなかったかな。彼女は屋上のへりに掴まってた。いや、これでいい。
彼女は困惑と驚きを混ぜたような顔をして、泣きながらなんでと訴えかけた。
「言わなかったっけ?僕、君の泣いてる顔見たかったんだよね。それにさ」
「そういう約束だったじゃん。」
僕はゆっくりと彼女の手を解いた。
自殺志願者 @PIRORONIA
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