Quest 3-14 頼み事
突然の事態に情報処理が追いついていないが、ここに口が回るキリカはいない。
とりあえず挨拶にされたのだから返すか。
「初めまして、ルドルフィア王女。冒険者の江越愛人です」
「お、同じく春藤優奈ですっ」
「マナトさん、ユウナさんですね。私のことは親しみを込めてミリアと呼んでいただいて構いません」
ブンブンと全力で首を振る。
なんと恐れ多い。
しかし、当の本人はなんとも不満げに口をとがらせた。
「遠慮などなさらないで? 同年代の方とこうやって気軽に名前を呼び合ったりしたかったの」
「ふ、不敬罪になったりしませんか……?」
その質問がすでに不敬なのでは、優奈さん?
「なりませんとも。さぁ、私についてきて――」
「王女様!? なんでここに!?」
「――ああ、そういえばすっかり忘れていましたわね」
フリーズから回復した夏沢の甲高い声が割り込む。
対して王女様は笑顔を崩さずに対応していた。
「言いましたでしょう? 彼らに会いたかったからです」
「い、いつから千雪の姿になってたの?」
「今朝からです。もちろん同意は得てますよ。本物の彼女は私の姿で勇者さんのもとに駆けつけているのではないでしょうか?」
「じゃ、じゃあ、アタシに話した乗り換え作戦って……」
「はい。私が勝手に考えた案です」
「そんな……!? ちっ……!」
舌打ちすると夏沢は身を翻して駆け出す。
大方、宮城がいる場所に向かったのだろう。
……これで王女様の狙い通り邪魔者はいなくなった。
「さて、お二方。私がこうして姿を現したのには目的があります」
「目的、ですか?」
「【勇者】ではなく、あなた方に話したい内容です。部屋までご案内しましょう」
体を翻し、王宮の中へと進んでいくルドルフィア王女。
上手く状況が飲み込めないが、断る理由もない。
優奈と顔を突き合わせて首をかしげながらも、彼女についていくことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あまり緊張なさらなくても大丈夫ですよ? あくまでプライベートな場ですから」
「え、えぇっと……」
「そんなこと言われても……」
緊張するに決まってる……!
俺と優奈の心の声が一致した。
場所は移って王女様の私室。彼女はあまり人に聞かれたくない話題だからといって俺たちを招き入れた。
現状、彼女の意図が読めない俺たちは流れに身を任せてここまで来てしまっている。
……これはあまりよろしくないな。
なぜなら、俺たちはとある可能性を検証する必要があるからだ。
「夏沢は自由にしてよかったんですか?」
「ええ。私に変装した千雪さんと敗北した【勇者】が別室に移動したのは確認しています。今ごろ二人で取り合いでもしているのではないかと」
それで話題は打ち切りだと言わんばかりに、パンと手を叩く王女様。
「さて、それでは本題に」
「ちょっと待ってください」
「あら? なにかございまして?」
「失礼ながら……あなたは本物の王女様なんですか?」
「ま、愛人くん!?」
「先ほどの完璧な変装。魔法やスキルの類とお見受けします。誰かが俺たちをはめるために用意した刺客かもしれない」
冷静に置かれた現状を分析するなら俺たちは宮城との戦いによる賭けでヘイトを買っている。
いくらセシリアさんが治めてくれていても一部の貴族は納得しないだろう。
確かにここは豪華な部屋だ。
けれど、俺は本物の王女様の部屋を知らない。
嘘をつきとおすのは実に容易なことなのである。
「私が本物だと信じられない?」
「確証が欲しいです」
王女様と視線が交錯する。
数秒間、お互いから目をそらさずにいたが先に折れたのは王女様の方だった。
「ふふふっ、素晴らしい観察眼だわ。さすがアリシアが認めた人ね」
「じゃ、じゃあ……!?」
「いいえ? 私は本物のミリア・アーレ・ルドルフィアよ。ちゃんと変装の原理も見せてあげる」
彼女は懐からミニサイズの仮面を取り出す。
そして、それを自分の顔に当てた。
「【マスク・チェンジ】」
呟いた瞬間、仮面が巨大化して王女様の顔に張り付く。
グニグニとうごめいたそれが止まると、王女様から冬峰の顔に変わっていた。
「どうですか? これが私のスキル【マスク・チェンジ】。仮面があれば誰にだって成り代われる。顔だけ、ですけれどね」
そう言って、彼女はぷくりと膨らませた頬をこちらに向けた。
「引っ張ってみてください。元に戻りますから」
「……はい」
言われた通りに優しくほっぺを引っ張る。
すると、仮面が外れて、元の王女様の顔に戻った。
「納得いただけましたか?」
「……もう一度、頬を引っ張っても?」
「ええ、構いませんとも」
同じようにするが、今度は変化は見受けられない。
つまり、彼女は正真正銘ミリア王女ということだ。
「……優奈、どうだ? あったか?」
「うん。私の【魔導図書】にもちゃんと載ってたよ」
ここまで証拠をそろえられては、こちらとしては何も言うまい。
腰を直角に折り曲げ、頭を下げる。
「申し訳ありませんでした。大変失礼な真似を……!」
「いえいえ。私は気にしていませんわ。むしろ、評価を上げたくらいです」
「そうは言いましても」
「押し問答になってしまいますから終わりにしましょう。時間もあまりありませんから」
「……わかりました」
王女様の強い語気に従って席に座り直す。
改めてたたずまいをただした俺と優奈。
それを確認した王女様は重たそうに口を開いた。
「……本日、ここに呼んだのは他でもありません。私と契約しているセシリアについて頼み事があったから。お願いします。どうか、どうか――」
「――セシリア・アルキメスの戦場での自死を止めていただきたいのです」
◇報告遅れましたがカクヨムコン中間突破していました。
みなさまありがとうございます!
あと更新遅れてすみませんでした、頭がおっぱいに支配されていました。
クラスメイトに無能とバカにされ、切り捨てられた俺は秘密のレアスキル持ちでした〜心から守りたい者が増えるたびに強くなるので、真の仲間と共に魔王を倒す。助けてくれと言われても「もう遅い」〜 木の芽 @kinome_mogumogu
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