第51話 遅咲きの氷魔法師

 


 戦いは終わった。残る三人の【七選魔法師】と、ミランダ、アイロスを残して。


 結局、ブライがいないからには、本当のことなど知るよしなどない。真相は迷宮入りだ。その方がいいのかもしれないな、とヴィリスは思った。


 これまでのことを、振り返る。父にたどり着くために、ヴィリスは三人もの【七選魔法師】を殺してしまった。腹立たしいものたちを排除できた喜びはあるが、それは正しい死だったのか、少し考えてしまう。


 こんな状態であるから、【英雄パーティー】はもう壊滅状態だろう。この先、どうしていくというのだろか。


「みんな、お疲れ様です」


 ミランダの治療をフライスが終え、ひと段落ついたところで、ヴィリスはいった。


「これで、終わったんだよね」


「ヴィリス、貴様はよくやったと思う。自分の手で、父との因縁を終わらせたんだ。やはり私より強いな」


「強くなんかないよ。自分は、父を殺すことでしか終止符を打てなかった。生かしておく、というのもできないわけじゃなかったのに」


「私は、これしかなかったんだと思いますよ」


「リーナさん」


「あの男は狂っていたんです。もう、手のつけようがないくらいに。ヴィリスさんのやり方が、正しかったんだと思います。これが最適解です」


「そうですか」


 エルフの森は、もう散々なことになっていた。手につけようがないくらいに、荒れている。木々が折れ、家は崩れてしまって。その上ブライの遺体もある。エルフの方に被害はなさそうだった。


「これで満足か、最強になった魔法師。まだ高みを目指すか」


「いいや、ミランダ。僕は父と同じ道は絶対に辿ってはいけないんです。この力は、皆さんと一緒に使いたいんです。フライス、ミランダ、リーナさん」


「アイロスお姉さんのこと、もしかして忘れてなぁい?」


「忘れてませんよ、あなたみたいな癖の強い方を忘れるはずもありませんから」


「ねえ、私のどこが癖が強いっていうのぉ? 口だけじゃなくて、体で教え……」


「そういうところだと思います」


 そんなぁ、とアイロスがこたえると、ヴィリスたちは笑っていた。


「これから、きっと大変な日々が続くと思います。それでも、この仲間なら、楽しく過ごせそうだなとも思っています」


「私も同感かな、ヴィリス。一緒に追放されるっていう選択をとってから、ヴィリスを心の底から悪く思ったことはないから。うまくやれる人だな、って思ってた」


「貴様は俺のようにもっと横柄でもいいんだぞ? 謙虚すぎて気持ち悪いくらいなんだが」


「僕は僕のままなので。ミランダみたくは振る舞えないんです。あと、ミランダみたいになったら終わりだな、って思っています」


 なんだ、というと、ミランダはヴィリスの首を腕で締め、じゃれてきた。


「子供っぽいことはやめてくださいよ」


「いいじゃないか、ときには馬鹿みたいなことやらないと、肩の力が抜けないだろう?」


「今回はミランダさんの言葉が正しいのでしょうね」


「リーナさん、よりによってミランダの味方を……」


 ヴィリスはため息をつく。


「こんな平和な世界が、ずっと続くといいですね」


「私もそう思う。こんな優しい世界になると、みんなが心地よく暮らせると思う」


「そうすれば、きっとヴィリスは多くの女性に慕われると思いますよ」


「なぜその方向に……」


 ヴィリスはふと、氷魔法師の国のことを思い出した。なぜか人が群がっていたいたことが目に浮かぶ。


「貴様もまさにハーレムといったところだな。この幸せ者め」


「ミランダ、僕ってあなたとこんなに親しくしていた覚えはないんですけど……」


「いいだろう、だって大きな戦いを乗り越えた仲間なんだし」


 元の【英雄パーティー】は、居心地が悪かった。自分の力の弱さを悪く思われていた。今は、多分幸せなのだろう。父を殺してしまったのを考えると少しは胸が痛くなるが、これは決別なのだ。


 幸せを幸せだと思っていいはずだ。


「僕が偉くなったら、弱者に手を差し伸べられるような人物であり続けたいです。驕ることのないような人間に」


「きっと、なれるよ」


「貴様ならできるはずだ」


「お姉さんもぉ、そう思うかも」


「私の読みが正しければ、できないことではないだろう」


「みなさん、ありがとうございます」


 邪悪を打ち倒した。身内での無為な争いも終わった。


「ここから、新たな時代がはじまるんですよね」


「そうだろうな」


「たとえ歳をとってからの遅咲きでも、絶対に自分は高い位について、平和な世界をつくり上げたいです」


 自分の右手を見る。この手に込められた力も、使い方を間違えれば父と同じ。間違えそうになっても、自分には戦う仲間がいる。


 だから、前へ進んでいこう。


「これからも、よろしくお願いします」


「ああ、せっかくだから手でも重ねるか」


 全員の手が、重ねられる。


「これから、頑張るぞ」


 掛け声とともに手はかかげられた。


「それでは、みなさんいきましょう」


「そうだね、ヴィリス」


「もういっちゃうのぉ、君、はやいよ〜」


「貴様、いうのが遅いな。こちらは準備できてるんだよ」


「いきますか」


「僕たちの人生はこれから、ですからね」


 ヴィリスたちは、次の目標へと歩きはじめた。

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遅咲きの最強氷魔法師〜『無能』だとパーティーを追放された英雄の息子の俺、発動時間が一日の最弱氷魔法がついに覚醒!! ハーレムを築いて無双するほうが幸せなので、今更帰ってこいだなんて『もう遅い』〜 まちかぜ レオン @machireo26

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