エルフ酒

本日の課題:ドランクエルフ


むかしむかし、あるところに酒を好むエルフがいました。

彼女はエルフの長命さを活かして、数年をかけて色々な種族の里を渡り歩いては種族特有の酒を飲ませてもらい、その記録をつけていました。


そんな彼女がどうしても飲めないと嘆く酒がありました。

それが「ドワーフの火酒」です。


エルフとドワーフは仲が悪く、敵対まではいかずとも、少なくとも友好的ではないのでした。ドワーフの里に伝わるという名酒については数十年かけても飲む機会がないままです。


ドワーフの火酒を飲ませてほしいとお願いするたびにドワーフたちは何度もその申し出を断り続け、彼女は自分の里に戻ってはエルフの名酒「森の雫」で喉を潤し酔いふける日々を過ごします。


「森の雫」は名前の通り、非常に美しく透き通る水のような見た目をしていますが、

その酔いは凄まじく、毒に耐性のあるエルフ種族でなければとても飲めないような強い強い酒なのです。


ある日のこと、彼女は人里に向かう途中に土砂崩れの跡を通りがかります。

先日の雨で地盤が緩んでいたのでしょう。

彼女はその道を避けて別の道へと方向を変えようとしました。


しかし、彼女の長い長い耳が「誰か誰か」と呼ぶ声を聞き取ります。

土砂の下に何者かが埋まっているのです。


彼女は大地の妖精に語り掛け魔法を使い土砂をかきわけます。

埋もれていたのはひとりの女ドワーフでした。


女ドワーフは土だらけになったひげをこすりながら彼女に感謝します。

命の恩人だ、何かお礼がしたいと申し出ます。


そこでエルフは「ドワーフの火酒」について教えてほしいと頼みます。

荷物袋から「森の雫」を出して、これと交換してほしいと頼み込みます。


女ドワーフは渋い顔をしますが命の恩人の頼みとあっては断れません。

このことは絶対に他言無用だと約束するのなら「ドワーフの火酒」の秘密を教えようと言います。


約束する。彼女がそういうとドワーフは彼女を自身の住む山小屋に招待しました。

そして牛乳鍋ミルクパンを取り出して、そこに「森の雫」を注ぎ、火にかけます。


「そんなことをしたらアルコールが飛んでしまう!」とエルフが言うと

「飛ばしているんだ」とドワーフは顔を赤くして言いました。


「ドワーフの火酒」の正体はアルコールを飛ばして代わりにスパイスで香りづけをした「森の雫」だったのです。


ドワーフは酒に強い種族だという誇りがあり、またエルフの事をライバル視しています。ところがエルフたちが自慢する「森の雫」はとても強い酒で、ドワーフの酒豪でもなかなか飲める者はいません。

それが恥ずかしくてドワーフたちは「森の雫」のことを避けていました。


ある時、ドワーフの料理人が「森の雫」を火にかけてアルコールを飛ばして弱くしたものを飲んでみました。

酔わずに飲む「森の雫」はあまりおいしいとは言えませんでした。

そこでドワーフの料理人は厨房のスパイスを酒に加えて味を変えああでもない、こうでもないとしばらく悩み、特別なスパイスを調合することでアルコールのとんだ「森の雫」にうまみを加えました。


これをドワーフたちが旅の人間に飲ませたところ「舌馬鹿なエルフたちには分からない味の深みのある酒」だと絶賛されその噂が広まります。


後に引けなくなったドワーフの料理人はそれを「ドワーフ秘伝の火酒」として製法をひた隠しにしていたのでした。


この由来を知るドワーフたちは決してエルフにその話をしようとしなかったのです。


女ドワーフはスパイスの調合を教えながら命の恩人に「ドワーフの火酒」を出して恥ずかしさに顔を赤くしました。


けれどエルフにとって数十年かけてやっとたどり着いた「ドワーフの火酒」は本当においしくて、約束通り彼女はその製法を記録せずに味だけを書き残しました。


それ以来、彼女たちは吞み仲間となり、各地を巡って酒を飲んだ記録をつづり本にします。

その本は「森の雫」から始まり、「ドワーフの火酒」で終わるのでした。

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豆猫さんのワンドロ小説 青猫あずき @beencat

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