004

「セバスチャン、なにをしているんだ! 早く助けんか!」

「私は現役を引退しているので、王様が頑張ってくださーい♪」

「ゼクスー! セバスチャンの手作りピザ美味しいよー!」


 ……はぁ。

 王のことはほっといて、アリシアとセバスチャンの所に行くか。


「お、おい! 変態ロリコン魔王、どこに行くつもりだ!」

「いや、もういいだろ……」


 戦っても戦わなくても一緒だし……。


 アリシアたちに近付くと、いい匂いがした。


「セバスチャン、俺も食べていいのか?」

「ええ、もちろん♪ いいですよ♪」

「んじゃ、お言葉に甘えて……よいしょっと」


 座った目の前には、二切れずつなくなったピザの皿。

 セバスチャンの隣では、嬉しそうにピザを食べるアリシア。


「さてさて、これがチーズ四種乗せと、こっちが肉とトマトと、バジルを使ったピザなんだよ♪」

「そ、そうか……」


 今まで見たことがないくらい嬉しそうなセバスチャン……。

 こいつはどこを目指しているんだ……。


「ほら、食べてみてくださいな♪」


 セバスチャンに促されてピザを見つめる。

 焼きたてなのか、魔法で熱々の状態を維持しているらしい。

 上る湯気ととろけるチーズ……ま、まぁ、確かに美味しそうだ。


「ほら、ゼクスも食べてみて! セバスチャンのピザすっごく美味しいよ!」

「ああ……」

「ほら、あーん♡」

「お、おい……」

「たまにはいいでしょぉー」


 アリシアが直接俺の口へとピザを運んでくれた。

 口に入れたチーズが、アリシアに引っ張られてうんと伸びていく。


「……ん、美味いなコレ……」


 チーズがとろけながらも、下の生地はサクッとしたまま……。オリーブとコショウの組み合わせもいい……。

 チーズの甘味とコショウの辛味が丁度いい感じになっている。


「あー、ゼクスが驚いてるー!」

「そ、そんなことはない……」

「えへへっ、別に隠さなくてもいいのにー。でも、セバスチャンが料理上手なんて知らなかったよー♪」


 アリシアはニコニコと嬉しそうに、俺の食べかけのピザを食べた。

 食いさしでいいのか……。


「ふふっ♪ 気に入ってもらえたみたいで良かったです♪」


 アリシアと一緒に、俺を笑顔で見つめるセバスチャン。

 セバスチャンに笑顔を向けられるのは悔しいが、これは美味しい……。


「セバスチャン! なにをしているんだ!」


 服に付いた土を落としながら王がこっちに歩いてくる。


「お父様もこっちに来て食べようよー!」

「アリシア! いますぐこっちに来なさい!」


 少し離れた位置で必死にアリシアを呼ぶ王だが、アリシアは動く気配がない。

 むしろ、同席って……。


 俺と王が仲が悪いのを知っていても、楽しそうにするアリシア。

 肝が据わっているというか、楽観的というか……。


「……」

「えへへ、美味しいから食べないともったいないよー!」


 ……、可愛いからいいか。


「ねぇねぇ、ゼクス君♪」

「ん?」

「ピザの残りはみんなで食べてね♪ よいしょっとー♪」


 そう言いながら、セバスチャンが立ち上がった。


「また感想聞かせてほしいから、みんなで王城に遊びに来てね♪」

「え? それってどういう――あれ……」


 目の前に居たはずのセバスチャンが、消えて王の隣に移動していた。



「セバスチャン! その移動魔法でアリシアも連れてこんか!」

「王様は負けちゃったのでまた次回にしましょう♪」

「な、なにを言っておる! おぬしが戦えばいいだろうが!」

「私は魔法使いでゼクス君は剣士……、戦う畑が違いますからね♪ それに現役は引退してるって言ったじゃないですかー♪ バカだなー、もー♪」


 王と執事だよな……。

 主従関係のはず、だよな……。


「バ、バカ!? 今バカって言わなかったか!?」

「はっはっは♪ 言う訳ないでしょー♪ 王様ったらバカだなー♪」

「今、絶対言って――」


 セバスチャンが王の肩に触れた瞬間――――――王が消えた。


「おい、セバスチャン、王をどこにやったんだ?」

「先に王城に♪」

「……あれ、お父様はどこ?」


 不思議そうにあたりを見回すアリシア。

 王へ食べさせるピザを準備していたらしく、アリシアはまったく見ていなかったらしい……。


「アリシアさん、王様はお城に返しただけなので安心してください♪ さてさて♪」


 投げ捨てた剣を拾うセバスチャン。


「お、おい……まさか今から本気でやるつもりじゃ――――――」

「んじゃ、やることも終わったし帰ります♪」

「…………え?」

「寂しいんですか?」

「そういうわけじゃねぇよ……」


 むしろ、こっちとしては早く居なくなって欲しいくらいだ……。

 とはいえ、本当にこいつはこれで帰るんだろうか……。


「なぁ、セバスチャン」

「はい♪」

「改めて聞くのもあれだが、本当にもういいのか?」

「ええ♪ ゼクス君を魔王にちゃんと出来たし、あとはゼクス君に勝てる冒険者を適当に育てようかなと♪」


 俺を魔王にする?

 俺に勝てる冒険者を……冒険者?


「……冒険者を育てるってどういうことだ?」

「そのままの意味ですよ♪」

「セバスチャン……あんた、本当になにがしたいんだ……」

「ただの暇潰しですよ♪ 最強の剣士はゼクス君なので……次は最強の暗殺者なんてどうでしょうか♪ 最強の騎士団とか剣闘士とか♪」


 ああ……本当に心の底から楽しんでる顔だ……。


「まぁ、とりあえず、当分は王様も手出ししないようにしておくから、二人でチョメチョメしつつ……じゃなくてみんなで仲良く暮らしてね♪」

「いやいや、待て――」

「アリシアさんとハメ過ぎないように……じゃなくて、ハメを外し過ぎないようにね♪」

「絶対わざとだろ……ってか話を――」

「あと、城下町の警備は緩めておくから、ゼクス君もアリシアさんも、あの子たちと一緒にいつでも遊びにおいで♪ いつでもピザをご馳走してあげるよ♪」


 アリシアが「あ、ありがとう!」と小さくお礼を言っているが――


「おい、少しはこっちの話も――」

「ではまたー♪」


 …………。


「セバスチャンが消えちゃった……帰っちゃった、のかな?」

「そうみたいだな……」


 本当に帰ったのかすら怪しいが……。


「残ったピザ、どうしよう?」


 アリシアが困った顔でこちらを見つめる。


 王のことやセバスチャンのこと、アリシアのこととか……色々考えることは山積みだが――――――


 はぁ……、考えるのもあとにしよう……。


「とりあえずフウたちを呼ぶか?」

「う、うん!」


 アリシアが嬉しそうなら、とりあえず今はこのままでいいや。


「私、みんなを呼んでくるよ!」


 立ち上がって塀の方へと向かって行くアリシアだったが――――


「あれ、みんな見てたの?」

「お姉ちゃーん!」

「ラ、ライちゃん!?」


 塀の壁から覗き込んでいたライに抱きつかれていた。

 アリシアとみんなが一緒に駆け寄ってくる。


「なにこれー」


 フウが背中に引っつきながらピザに興味を示し――――


「あの黒縁眼鏡の男は何者なのよ!」


 と、マオがプンスカと怒りながら声を荒げる。


「お姉ちゃん! これすごい良い匂いするよ!」

「食べていいよー♪」

「やったー!」


 アリシアとライは楽しそうに隣に座り――


「兄ちゃん! 大丈夫だったのかよ!」

「あ、あの……怪我はない……ですか……?」


 エンとスイが心配してくれた。


 アリシアと二人で暮らすつもりだった生活が、気が付けばこんな大家族みたいに……。


 あぁ……これから先どうなるんだろうか……。









 王様の執事であるセバスチャンから、アリシアと魔王城に住むことを許可してもらったゼクス。


 彼が魔王や四天王たちとドタバタと日々を過ごすのはまた別のお話……――――――

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魔王を倒したのに王に「追放する」と告げられたので、お姫様と一緒に魔王城で生活することに~王様が嘘をついた結果、外の世界で俺は魔王になっていたらしい~ 忍原富臣 @bardain

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