魔王を倒したのに王に「追放する」と告げられたので、お姫様と一緒に魔王城で生活することに～王様が嘘をついた結果、外の世界で俺は魔王になっていたらしい～

003

「やはりロリコンではないか！」

「違う！　すぐにそういう方向に持って行くなクソジジイ！」

「く、クソジジイだと！？　この無礼者めがぁああ……！　おいセバスチャン！」

　笑っていたセバスチャンが涙を拭きながら立ち上がる。

「……はぁ、なんですか？」

　明らかに俺よりバカにしている気がするんだが、王様はそれでいいんだろうか……。

　俺よりもひどい気がするぞ、あの執事……。

「兵士たちと冒険者たち、戦える者たち全員をここに呼べ！　魔王の討伐じゃ！」

　王様が戦うんじゃないのか？

　いや、戦える体型ではないのは分かっているが……。

「えーでもー、それって卑怯じゃないですかー？」

「セバスチャンもやられた（・・・・）のだろう！　全員でやらねば勝てぬ！」

「……え？」

　セバスチャンに「どういうことだ？」と目で問いかけるが、無言でウインクされた……。

「王様♪」

「なんだ！」

「強いやつは先に一人ずつ派遣したので、あとは弱いのしか残っていませんよ♪」

「なんっ……だと！」

「だから、あとは王様とゼクス君の一騎打ちでいいかなーと思いまして♪」

　喋りながらそっと王様に剣を握らせるセバスチャン。

　そつなくこなすその動きは一切の無駄がない……。

「ぐ、ぐぬぬ……！」

「はい王様♪　とことん暴れていいですよ♪」

「くっ……か、かつては私もけけ剣を握っていたのだ……。まままま魔王くらい倒せるに決まって……」

　両手で握った剣が震えているんだが……。

　あんなので本当に戦う気なんだろうか……。

「お父様！」

「ア、アリシア……ほら、こっちに来なさい！　そんな変態ロリコン魔王から離れるのだ！」

　くそっ……。

　これがアリシアの父親じゃなければすぐにでも吹き飛ばしてやるんだが……。

「お父様！　私はゼクスとここに住みます！」

「な、なにをバカなことを！　セバスチャン！　ゼクスは魔法で娘を操っておるぞ！　どうにかせんか！」

「いえいえ♪　ゼクスは移動系や操作系の魔法は使えませんよ♪　そっちの方はめっきりなので、それに教えてないですし♪」

「なんだとっ！？」

　しれっとバラされた……。

「お父様！　私、王城で暮らすよりもここの方がとっても楽しいの！」

「魔王城で生活など言語道断だ！　絶対に許さん！」

「ならゼクスの追放を取り消して！」

「っ……！　そ、それは出来ん！　そやつは魔王を倒した男、国に置いておくには危険すぎる！」

「なら私も追放でいい！」

　キッパリと王へと言い切るアリシア。

　いつもは可愛いのに、こういう時はハッキリと自分の意見を言う。

　可愛くて勇ましいなんて、守ってやりたくなるに決まってるだろう。

「それはならぬ！」

「なんでダメなの！？」

「それはそやつが……！」

　恥ずかしそうにする王の顔がキッと俺の方へと向いた。

「なんだ？」

「くっ……、貴様さえ居なければ、私の国は平和になるのだ！」

「なぜそうなる……」

「お前にやられた恥辱……必ず責任を取ってもらう！」

　恥辱……？

「あの時、貴様が私に剣を突き立てたがために私は……」

「ああ、恥辱ってもしかして、あの時に漏ら――」

「言うでない！　娘の前で言うでないわ！」

「……」

　セバスチャンは王の後ろでずっと笑い転げている……。アリシアが「もら……？」と俺に尋ねてくるが――

「と、とにかく！　アリシアは返してもらう！　お前は追放する！　殺さないだけマシだと思うがいい！」

「お父様！　話を聞いて――」

　俺はアリシアを左腕に抱きしめた。

「ゼ、ゼクス？」

「き、貴様！　アリシアを放さんか！」

「追放するならそれで構わない。だが、アリシアを連れて行くって言うなら俺は戦うぞ」

「ゼクス……」

「むぐぐ……！」

「さぁ、どうするんだ？」

　王から娘を攫って魔王城で生活……。

　冒険者たちも追い返して装備を剥ぎ取って、今更だが本当に魔王みたいになってないか……。

「な、ならばおぬしは剣を使うな！　それで対等だ！」

「え？」

「『え？』ではない！　私は剣を握るのが久しいのだ！　それくらいのハンデはよかろう！」

「……」

　剣を握ろうと握らなくとも変わらないんだが――

「どうした！　剣がないと戦えぬのか！」

「いや、そういうわけじゃなくてだな……」

　セバスチャンを見る。

　地面を叩いて、泣いて、笑って……涙を拭いてを繰り返している……。

「ほれ、剣を捨てて素手で戦うのじゃ！」

「いや、それは……」

「ゼクス、大丈夫？」

「ああ、俺は大丈夫なんだが……」

「なにをしているんだ！　早く武器を捨てんか！」

「お父様、素手なんてそんなのひどいわ！」

「卑怯者など、素手でやるのが当たり前じゃ！」

　会話をするのが面倒になってきた……。

「ああもう、分かったから……素手でやればいいんだな……アリシア、すまないが刀を持っていてくれ」

「でも……」

「大丈夫、武器を奪って脅すだけだ」

「う、うん……でも、気を付けてね？」

「ああ」

　アリシアに刀を預けて一歩前に踏み出る。

　剣の間合いに入らない手前で、王と正面から向かい合った。

「ふん。ようやくやる気になりおったか」

「まぁ、一応な……」

「では、いざ――」

「待ってくれ」

「なんだ！　怖じ気づいたか！？」

「いやいや、そういうことじゃなく……そっちが条件を出したんだから、こっちからも条件がある」

「な、なんじゃ？」

「この勝負、俺が勝ったらアリシアを貰う」

「……」

　言ったはいいものの無言で呆然とされると恥ずかしいんだが……。

　せめて声に出して反応して欲しかった……。

「ほら王様♪　ゼクス君があんなこと言ってますけどどうするんですか♪」

「え、ええい！　セバスチャンは黙っておれ！」

「では、私はアリシアさんと観覧しておきます♪」

「ん？　どういうこ――」

　王が振り向いた時には既にセバスチャンは消え、アリシアの隣に立っていた。

「王様ー♪　とりあえずがんばってくださいねー♪」

　まるで子どもを応援するかのようなセバスチャン。

　あんなテキトーな執事をずっと雇っている王が心配になる……。

「ええい……武器無しの剣士に負けるワシではないわ！」

「んじゃ、勝てたらアリシアは貰っていいんだな」

「好きにするがいい！　あとで泣いて謝っても知らぬぞ！」

「よし……」

「お二人とも決心が着いたようですのでー、私が手を叩いたら試合を始めてくださーい♪」

　剣を両手で構える王に、左手足を前に構えて制止する。

「ではでは～♪　よーい――」

　パンッ！

「変態ロリコン魔王ゼクス！　ここで死ぬがいい！」

「クソッ……！　俺が勝ったらそれも訂正しろ！」

「断る！」

　突き刺してくる攻撃を後ろにステップして回避。

　両刃なら、剣の表面を両手で挟んで……そのまま砕くか。

「はっはっは！　素手の相手に負けるほど弱くはな――」

　ズサーッ……！

　カランカラン……。

「……え」

　王が小石に躓いて勢いよくこけた……。そのまま剣も手から離れて俺の足元に……。

　と、とにかく、今のうちに取り上げておこう。

「いたた……、おのれ魔王め……！　こんな小細工を！」

「いや、勝手にこけただけだろ……」

「う、うるさい！」

「どっちにしろ、剣は貰った。さぁどうする？」

「お、おのれ……！」

「もう勝負はいいだろ？」

「セ、セバスチャン！　なんとかしろぉおお！」

　王と一緒にアリシアとセバスチャンが居る方を向くと――――

　カーペットのようなものを敷いてピクニックをしていた。

「このピザ美味しい！」

「喜んで頂けて良かったです♪　実はこのピザ、王城の地下で何回も練習してようやく成功したんですよー♪」

「セバスチャンすごい！　でも、ライちゃんたちにも食べさせてあげたいなぁ……」

「今度、作ってお持ちしましょうか♪」

「え、いいの？」

「ええ♪　どうせ暇なので♪」

　…………。

　あいつ、王城の地下でなにを作ってるんだ……。ってか、この間、急いで帰ったのはピザのためだったのか……。