002

「セバスチャン……なんで……」

「ん? セバスチャン? あ、ほんとだ!」


 俺の声に反応したアリシアもセバスチャンの方を見つめる。

 フウは相変わらずマイペースに甘噛みし続ける……。緊張感もなにもあったもんじゃない……。


「アリシアさんもゼクス君もおはようございます♪ なんだか、こうして一人ずつ子どもを抱えていると親の集まりみたいですね♪ ゼクス君の子だけ特殊な性癖っぽいけど♪」


 ほれ見たことか……。セバスチャンが新しい話のネタを見つけたような、やけにバカにした表情をこっちに向けてきたじゃないか……。


「は、早く下ろしなさいよ! あんたゼクスの敵なんでしょ!」

「ふふっ♪ 魔王でも子どもの姿だと可愛いねー♪」

「か、可愛くないし……! っていうか私の話を聞きなさいよ!」

「はいはい♪ よしよーし♪」

「ひゃわっ……んっ……うぅ……ひゃうっ……」


 マオがセバスチャンの手に落ちた瞬間だった……。

 もはや撫でてくれるなら誰でもいいのかもしれない。


「おい、セバスチャン」

「ん? なんだい?」

「あんたが来たってことは王様が来るんだろ?」

「ああ、連れて来たよ♪」


 その言葉に広場を見渡してみるが、俺たち以外――――――


「誰も居ないぞ」

「ああ、ごめんごめん♪ 指を鳴らせばすぐなんだけどー……」

「ん? なんだ?」


 セバスチャンがじっと俺の方を見つめてくる。

 マオは溶けそうなほど気持ちよさそうな顔をしているが大丈夫だろうか……。


「いや、ずっと耳を噛まれているけど、その状態で呼んでいいのかい?」

「あ……」


 当たり前のように甘噛みされ続けていたせいで感覚がなかった……。


「フウ、一旦下りてくれ」

「はむぅ……」

「こら、フウやめ――」

「おりるのやだもん」

「あのなぁ……」

「むぎゅう……」


 甘噛みは終わったが離れる気はないらしい……。


「はっはっは♪ あのゼクス君がたじたじじゃないか♪」

「う、うるさい……」


 はぁ……。


 エンとスイがここに居なくて良かった……。

 あいつらが居たらセバスチャンにいじられかねない……。


「とりあえず呼ぶかい?」

「そんな軽い感じで呼んでいい相手じゃないだろ」

「どうせただの王様だよ♪」


 ただの王様ってなんだ……。


「ねえセバスチャン!」

「ん? アリシアさんどうしました?」

「お父様をここに呼んで!」


 アリシアはライを抱きしめたまま、力強くセバスチャンに言った。


「おやおや? アリシアさんも戦うんですか?」

「ううん、お父様と話し合うの!」

「うーん……ちょっとそれは予定と違うんですけど……」

「おい、予定ってなんだ?」

「え、ああ♪ こっちの話です♪」


 ニコニコと、いつものごまかしの笑顔を俺とアリシアに向けて――――


「んじゃ、呼びますか♪」


 と軽い感じで言うセバスチャン。


「ちょっと役者が多いので、早めにお城に返しましょうかね♪」

「おい、テレポートで飛ばすのはやめ――――」


 言い終える前に、蕩けていたマオが消えた。


「――あれ、ライちゃんが消えた⁉」

「子どもたちに大人が言い争っているところなんて見せちゃいけませんからね♪」

「そっか!」

「そうですよ♪」


 いや、納得するところじゃないだろ……。

 あれ、くっついていたフウもいつの間にか消えている……。


「ライちゃんたちはどこ行ったの?」

「お城に返しただけですから安心してください♪」

「お城に返したっていつの間に?」

「えっとー、今の間に?」

「……」


 ようやくセバスチャンを警戒し始めたアリシアが、そっと俺の後ろに隠れた。


「あれ、あれれ……? もしかして私って嫌われてます?」

「そりゃ、いきなりテレポート使われたら誰だって構えるだろ」

「あーそういうことか♪ 私、触ったことあるものしか飛ばせないので♪」


 触ったことのあるもの?


「ですから、アリシアさんは大丈夫ですよ♪」

「そ、そうなんだ……」


 後ろでホッと息を漏らすアリシアだが――――


「セバスチャン」

「ん? なんだいゼクス君♪」

「あんたもしかして一回四天王と戦ったことが――――」

「はーい! 話が長くなりそうなので王様の登場!」

「おい、人の話を――」

「ゴッホゴホゴホ……! おいセバスチャン! 一体これはどういう……」


 遠くの広場に、急に現れた王様。


「あ!」

「……」


 目が合ってしまった……。

 武器もなにも持っていない、いつも通りの王様の姿……。


「おのれゼクス! 私の娘を攫った挙句、魔王城で可愛い子たちとイチャコラしているらしいではないか! 本当に魔王にでもなるつもりか! 私の娘に手を出したことも許せん! 今すぐ地下牢にぶち込んでくれるわ!」


 王様の後ろでは、セバスチャンが腹を抱えて笑っている。

 あいつは本当になにが目的なんだ……。


「クソジ……王様、ちょっと話を聞いて――」

「ええい! 黙れ黙れ! 変態ロリコン魔王め!」

「なに……?」


 とても聞き捨てならない言葉が聞こえたような……。


「変態ロリコン魔王と言ったのだ!」

「殺す……今すぐ殺してやる……」

「ゼクス! 待って!」

「アリシア放してくれ……あいつだけは許せない……、誰が好きこのんでこんな生活をしていると思っているんだ……」

「でも、ここに来てからゼクス楽しそうだよ?」


 うっ……。

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