第八話「やってきた王様」
001
夜中にアリシアと外で待ち合わせしたあと、色々と楽しんでそのまま寝てしまい――――――
太陽が昇るとともに、鳥たちがさえずっていた。
「――――あぁ……早朝からの風呂は気持ちがいいな」
「そ、そうだね……」
広い風呂にアリシアと二人きりで、肩を並べて湯に浸かる。
さすがに裸は気恥ずかしいのでお互いにタオルを巻いているが、アリシアの胸の谷間が目についてしまう。
「ねぇゼクス?」
「ん?」
「私ね、王城でずっと暮らしてきたからね、こうやって自由に過ごすことが夢だったんだ……」
「そうか」
「うん……、だからね……」
言葉を止めたアリシアの顔を見つめると、アリシアもこちらを見つめていた。
「今ね、すごい幸せなの。ライちゃんとかフウちゃん、マオちゃんにスイちゃん、エンちゃんも……みんな可愛くて本当の子どもみたいでさ。ずっとここに居たいって思っちゃった♪」
とびっきりのアリシアの笑顔。
やっぱりアリシアが俺の中で一番大切な人なんだ……。
セバスチャンがなにをしてこようとも、この場所は守らなければ……。
「ゼクス?」
「ああ、すまん……」
「どうしたの?」
「いや、なんでもないさ」
「ふーん……」
ジト目で見つめてくるアリシアが、なぜか不満そうにしていた。
「どうしたんだ?」
「ゼクス、昨日さ、セバスチャン来てたでしょ」
「な……なんで知ってるんだ?」
「なんかね、ライちゃんの部屋でゆっくりしてたら急にセバスチャンが来てね、『王様から手紙を預かったので渡しに来ましたー♪』って、すごい軽い感じで渡されたの」
「まじか……」
いつの間に……ってか、城の警備が甘すぎるだろ……。
魔王と四天王以外に誰も居ないって、今更だがどういうことなんだ……。
「それでね、手紙見たらお父様が明日迎えに来るって……。つまり、今日、来るんだよね?」
「まぁ、そうだな……」
「はぁ……帰りたくないなぁ……」
「そんなにここが気に入ったのか?」
「だって、向こうのお城にいるより楽しいもん」
まぁ、確かにあっちよりも楽しいだろうな……。
それに、俺もここの生活に慣れてきてるし、アリシアが居なかったら全員の面倒も見切れないしな……。
「あの王様に話が通じるとは思ってないが、とりあえず話し合ってみるか?」
「お父様は頑固だからなぁ……」
「まぁ、いざとなれば追い返すさ」
「怪我させるの?」
「いや、さすがにそこまではしない。ちょっと脅すくらいさ」
「でも……」
心配そうなアリシアの、その頭に軽く手を置いて――――――
「大丈夫だ」
と伝えた。
***
風呂場を出たあと、いつも通りフウの朝ごはんをみんなで食べ終えて、アリシアと二人で広場に待機。
「アリシアまで一緒に待つ必要はないんだぞ?」
「ううん、一緒に居たいからいいの」
「そ、そうか」
「うん!」
そんな笑顔で言われるとなにも言い返せないじゃないか……。
「危なくなったらすぐに城に帰ってくれよ?」
「うん、そうする!」
とは言ったものの、いつ来るかも分からな――――
「ぜくすー」
「お姉ちゃーん! お兄ちゃーん!」
「ん?」
フウとライの声に城の方を振り返ると――――
「ちょ、あんたたち待ちなさいよ!」
「エ、エンくん……やっぱり、恥ずかしいよぉ……」
「大丈夫だよ!」
まさかの広場に全員集合……。
「ぜくすー、なでなでー」
「お、おぉ……」
なんだか久しぶりな気がする……。
「お姉ちゃん! 遊ぼー!」
「ライちゃん、今はちょっと――」
「ゼクス! 訓練しなさいよ!」
「いや、だから魔力がないならダメだって――」
「兄ちゃん兄ちゃん!」
「エン……どうした……」
フウに抱きつかれ、マオには横から引っ張られ……、髪をオールバックにしたエンの目がキラキラと俺に向けられる……。
そのまま手招きされ、耳をエンに傾けた。
「スイとお揃いなんだ!」
「うん?」
服装はエンが半袖短パン、スイがワンピース。スイの前髪はいつも通り。「お揃い」の「お」の字もない。
「どこが違うんだ?」
と、エンに囁きかけると――
「コレだよコレっ」
見せてきたエンの手首には金の腕輪。そして、スイの手首にも同じものが。
「いいでしょー♪」
「ああ、よかったな」
「えへへ~♪」
嬉しそうでなにより――――
「あ、あの……!」
「スイどうした?」
「み、みんなの分も……作って、みたんです……けど……」
エンの顔が一瞬にして死んだ。
「いや、スイとエンだけでいいと思うぞ……」
「で……でもっ……」
「二人だけでいいんじゃないか?」
隣でエンが悲しそうにしているし……。泣きそうになっているし……。
「わ、分かりましたっ……!」
「よしよし、スイはいい子だな」
「ぜくすー、ぜくすー」
「フウ、どうした……?」
次から次へと忙しないな……。
「だっこ、だっこー」
「フウばっかりズルいわよ! 私だって!」
「まおーさま、じゃまー」
「なっ……! 邪魔ってなによ!」
「まおーさま、うるさいー」
「うるさいってなによ!」
「ぶーぶー……もういいもん」
後ろに回り込んだフウが俺の首に全体重をっ……。
「ちょ、フウ……首が締まる……」
「フウのていいちー」
がっしりとしがみ付かれ、もぞもぞと背中で動くフウ。
耳元で「んしょっ……」という声が……。
「定位置なのは、分かったから……大人しくしてくれ……――ッ!」
「ふぁぁい……はむはむ……」
「人の耳を甘噛みするな……」
「あまふぁみーふるー」
大きくなったフウにされると犯罪臭が……。
「ちょっと! 私も撫でたり抱っこしたりしなさいよ!」
「兄ちゃん兄ちゃん! スイとお城の掃除してくる!」
「い、行ってきますっ……!」
「あ、ああ……」
もう、好きにしてくれ……。
「ふぁみふぁみー」
「ほら! 早く撫でなさいよ!」
「ア、アリシア……助けて――」
「ライちゃーん♪」
「お姉ちゃーん♪」
「はぁ~可愛い♪」
「お姉ちゃんだいすきー♪」
横を向くと、アリシアは持ち上げたライに頬ずりしながら幸せそうにしていた。
俺も出来ればそうしたい……。
「――大変そうだね♪ そしたら魔王ちゃんは私が預かろうかな♪」
聞き覚えのある声にハッと振り向くと――――
「あ、あんたは昨日の――きゃっ……勝手に触るな! 持ち上げるなぁ!」
「セバスチャン……」
「どーもー♪」
セバスチャンが目の前でマオをお姫様抱っこしていた。
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