モノクロワールド

きょんきょん

モノクロワールド

 遠い遠い昔のお話です。

 まだ人が、理性もなく争いに明け暮れ、そこかしこが血のイロで染まっていた混沌とした時代。

 どこからともなく現れた一人の魔女の手によって、長く続いた争いは終わりを告げました。

 争いを止めたものの、このままだと再び争いが起きてしまう。そう案じた魔女は言いました。

「この世界には血のイロしか存在しないから人間は争うのだ」と。

 血のイロは人間を興奮させる。その他のイロもたくさん作れば、人間の心は落ち着くだろう。

 そう考え、平和を届けるために世界中にイロを届ける旅に出掛けることにしました。

 様々なクニを渡り歩き、争いを止め、イロを与える。また争いを止め、イロを与える。

 そんな旅を五百年ほど続けると、いつの間にか世界中がイロで溢れました。

 イロの美しさに感動した人々の心に平穏が訪れ、争いは無くなったのです。

 魔女は満足しました。皆がイロを大事にすれば、永遠に世界は平和でいられると確信したのです。

 ですが、平和な時代はそう長くは続きませんでした。


 一部の人間が、美しいイロを自らのものにしようと、争い始めたのです。

 魔女は言いました。

「イロは独り占めするものではありません。皆で共有する財産なのです」

「ならば、そのイロにワレが名前を付けてやろう。さすればワガ物になる」

 そう言って、悪い人間は、初めてイロに名前をつけてしまったのです。

 それが血の『赤』

『赤』と名付けられたイロを、皆欲しがるようになりました。

『赤をくれ』『赤をくれ』

 皆が赤を自らの物にしようと争い始めると、五百年前よりもたくさんの血が流れ始め、クニを覆うほどの真っ赤な血で染まってしまったのです。

 世界中で起きた争いを食い止めようと、魔女は再び旅を始めます。

 過酷な旅でした。いくら止めようとしても人間達は争いを止めません。

 何十年も何百年も、諦めずに旅をした結果、最後は守ろうとしたはずの人間達に殺されてしまいました。

 その頃には赤一色の世界となっていたのです。

 自らの行いが全て無駄に終わったと魔女は嘆き、あらゆる争いの元になってしまったイロを、再び無くすことにしました。

 せめて争いがなくなるように。

 命の灯火が消える間際にこの世界に呪いをかけ、『白』と『黒』だけが存在する世界に変えたのです。

 魔女が死んだことを知った人達は、大いに嘆き、自分達が犯した罪の大きさに涙を流しました。ですが時間は元に戻せません。

『白』と『黒』

 白と黒だけの世界では、どんなに時間が経っても何も変化しません。

 何も変化しない世界では、人間もまた変化をすることを止めてしまいました。

 何の感動も覚えなくなり、終いには何も考えない無感情な生き物になってしまったのです。

 ここに魔女の願いはやっと叶ったのです。

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モノクロワールド きょんきょん @kyosuke11920212

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