第20話

「お腹が空いたり着る服がないくらいじゃ死なない。いいか、メリシャ。誰彼構わず救いたい気持ちもわかるが、助けるのを我慢することも時には必要だ」

「助けられるのに、助けるのを我慢するの?」

「それは見捨てるんじゃない。優先順位をつける必要があるときは優先順位をつけなきゃいけない。それを俺の国ではトリアージと言う。心臓が止まりかけた人間と、手がちぎれた人間と、足が折れた人間、手が届く人間から順番に治療をするんじゃなくて、今にも死にそうな人間から治療をする。優先順位をつけることで一人でも多くの人間を救うことができる」

 メリシャの目がキラキラ輝きを取り戻す。

「さすが師匠です」

「いや、よく考えたら、これ、パーティーでダンジョンに潜っている奴らには普通のことだったわ。モンスターにも優先順位をつけて倒していくとか、味方の援護にも優先順位をつけて当たるとか……その時その時の一瞬の判断を間違えれば命を落とすことだってある」

 全体を見回して判断を下すの、エルクは絶妙だったんだよな。

 間違わない。指示も的確で支援魔法の発動のタイミングとかも魔法が切れる時間までも計算してかけたり、本当すごかった。

 今、どうしてるんだろう。もう冒険者辞めちゃったのかな。勿体ない。本当、エルクを追放したパーティーはクソ……と、言うのはやめておこう。

 彼らの様子はあれから鏡テレビで見ていないけれど、最後に聞いた彼らの声は悲鳴だったからな。エルクを追放したことで何かしらの報いを受けていることは間違いないだろうし。

「まぁいい。行くか」

 手鏡テレビを取り出し覗き込む。

「また、表情を見ているんですね。大丈夫です。不安で怯えた顔はしてないです。師匠はいつもかっこいいです」

 は?

 かっこいい?

 聞きなれない単語に驚いてメリシャを見る。

「う、うわぁ、あの、えっと、師匠は、さすが、と、言いたかったのでしゅ」

 あ、噛んだ。

 なんだ、そんな真っ赤な顔して否定しなくても……。

 そうだよな。

 周りにいるイケメンたちを見慣れてたら、俺の顔見てカッコイイなんて単語出て来るわけないもんな。よいしょするために出した単語だよな。

 まぁ、うん。あまりに白々しかったかと自分でも思ったわけだ。ははは。

「北門に、急ごう」

「は、はい、北門……ん?北門ですか?ドラゴンって北にいるんですか?」

 メリシャが首を傾げる。

 北門では、今まさに、1台の小ぶりの荷馬車が門番に通行料手形を見せているところだった。

 間に合った。

「おい、アレン」

 御者台に乗っている男の手をつかむ。

「ア、アレン?手形にある名前と違うな」

 門番が険しい表情を見せる。

「う、誰かとお間違えでは?私はしがない商人、ヒューズと申しまして……」

 つけ髭に帽子。めっちゃ下手な変装している。

「あの、アレン様はヒューズという名もお持ちだったのですか?」

 メリシャがボケをかます。

「怪しいやつだな」

 門番が構えていた槍を前に突き出す。

「い、急いでいるんだ、通してもらうよ」

 アレンが懐から金貨を1枚取り出し門番に差し出す。

 ああ、定番ね。定番。

 お金でなんでも解決でいちゃう適な。

「ますます怪しい」

 門番は金貨を受け取らずに仲間を呼んだ。

 って、門番、お前、立派だな。うん、立派だ。お金で動かされないなんてなんと立派な……。

 俺、すぐにお前、通してくれると思ってたよ。すまん。疑って。

 わらわらと数人の門を警備する人間が集まってきた。

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異世界転移ファンタジーで宇宙戦争は無理~オタク知識で何とかなる?~ とまと @ftoma

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