第9話 そこを抜けて
僕は、もうそこには居るべきではない。そう思って誰にも気づかれないように、会場の外へ出た。このまま帰ってしまおう。それでもう一生彼女とは会わない。それが正しいように感じた。
会場の外へ出ていると、あの新幹線で出会ったお婆さんがいた。
「あら、どこか出会いましたか?」
「いえ、初めてでしょう」
「そうですか、そこの結婚式場から来ましたね。」
「はい、実は昔からの友人が結婚しまして」
「私が見たことないということは、優香さんのお友達かなにかですか?」
「まぁ、そんなところです、そちらは確かに旦那さんのお母様ですかね?」
「ええ、そうです。あの子が結婚なんてねぇ」
「そういうものですよ」
「そういうものですね」
「では、これで」
「あら、もうお帰りになるの?」
「はい、ぼくがいるべきじゃないような気がして」
「いえいえ、そんなことないわ、でもあなたを止めることもできない」
そうですね、とぼくは心の中で呟き、少し微笑み彼女の前を通り過ぎた。
きっと中ではまだ楽しそうな彼女の姿があるのだろう。僕はその姿を思い浮かべながら、目の前のタクシーに乗り込んだ。
額縁に飾られた 犬歯 @unizonb
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