第57話:文化祭当日、やっぱりこうなるの…?

 ――――翌日。


 文化祭当日となった今日の午前10時頃、既に学校全体が賑わいを見せていた。一般客も通路を埋め尽くすほどたくさん来ているため、おそらく売り上げは全体的に見ても上々になる予想だと、美雨は言った。


「けどこれ、移動するのも一苦労ですね」

「そうね、見回りに影響出てしまうかしら」

「ええ、そうでしょうね。それと……」


 美雨はボクの方を見て、それから周りの人たちを見てはぁとため息をつく。


「雪君は色んな意味で気を付けた方がいいかもしれないわね」

「あ~そっか~。雪先輩”元”とはいえ歌姫だもんね」

「周りの視線を集めるのは自然なことですね」


 全部ボクのせいみたいに言われてるようで(実際そうなんだろうけど)ちょっと申し訳ない気がしてきた。


「…自然かどうかは分かんないけど、とりあえず一人で行動しないようにするよ」


 ちなみにメイド服はステージ本番の時のみ着るので、服装で目立つことは無いと思うのだが。


「雪君はその美貌で視線を集めるからね。例え歌姫で無かったとしても結果は大して変わらなかったと思うよ」


 美雨の言うことにはあまり納得がいかなかったが、とにかく気を付けようと心に決めたのだった。



 見回りをしつつも各クラスや部活の出し物を見たり体験したりと、割とみんなで楽しみながら過ごしていた。


「ん~~~! このたこ焼き美味しいわね~~」

「こっちのたい焼きもよくできてますよ!」

「先ほどのステージイベントや各飲食店、色んな展示品も含めて正直ここまでのクオリティに仕上げてるとは思ってもみなかったです」


 準備期間中見回りに行っていた友里以外のみんなはそれぞれの出来栄えに驚きを見せていた。

 確かにこれだけのものを売れるなら、今日明日の売り上げは凄いことになりそうな気がしてきた。辺りの人たちを見てみると、出し物に満足したといった内容の会話が飛び交っていた。


 同じく辺りを見回していた美雨がうんうんと頷きながら「それはさておき」と切り出した。


「見回りは後は実行委員に任せて、各々自分のクラスに戻って手伝うもよし、改めて校内を周るもよし。午後4時までは自由に過ごしていいよ」

「あれ、いいんですか? てっきり一日中お仕事かと思いました」

「あはは、それは実行委員だけだよ。私達は見回り以外基本やることないからね。ただ何かトラブルが発生したら放送で呼び出すから、そこはよろしくね」


「それじゃ解散」と美雨が言うと、みんなは自分のクラスに戻っていく。ボクも自分のクラスに戻っていく…途中で、今日は夕が来てくれると言っていたことを思い出した。


「そうだった…。もう来てるのかな」


 電話を掛けてみようと携帯を取り出そうとしたとき、後ろからボクを呼ぶ声が聞こえてきた。


「雪、こんなところに居たのね」

「あ…夕。ちょうど電話かけようかなって思ってたところだよ」

「あらそうなの。ならちょうどよかったわね」

「ん。それでどこから周るか決めてるの?」

「そうね…とりあえず、雪のクラスには先に行っておきたいわね」

「了解、じゃあ早速行こっか」


 そうして自分のクラスに改めて向かう途中で、先ほどまでと同様に色んな人からの視線を浴びる……のだが、若干先ほどとは違う意味合いを持った視線のような気がする。


「……やっぱりというか。あなたは視線を集めやすいわね、雪」

「ん~…たださっきまでのとはちょっと違うような気がするんだけど」


 ボクがそう言うと、夕は辺りに聞き耳を立てるかのように黙り込む。しばらくそうしてから、「なるほど」と呟いた。


「何か分かったの?」

「ええ。雪の隣を歩いている超美人なお姉さんは何者なんだ…といった感じかしらね」

「……否定はしないけど、自分で言う?」


 なんだか今の怜奈みたいだ…と思ったけど、本人には言わないでおこう。後が怖い気がする。


「ふふっ…けどまあ、もっともな疑問ではあると思うわよ。当然だけどあなたのお友達や生徒会の子たち以外は、私のこと知らない物ね」

「まあそうだけどさ」


 そんな会話をしているうちに教室にたどり着く。


「……すごい盛況みたいね」

「そうだね、こんなに並んでたなんて」


 先ほどからこの長蛇の列は何に並んでるんだろうと気にはなっていたのだが、まさかうちのクラスの列だったとは。

 教室から出てきたお客さんたちは「コーヒー美味しかったね~」、「ホットケーキもすごく良かった」等々かなり高評価なようだった。


 並んでいる人達の間で「ここの喫茶店すごくいいらしいぞ」という声が飛び交っていることから、おそらく既に来てくれた人たちが拡散していたのかもしれない。


「とりあえず、雪の存在があるから人気になった……という事でないのは安心したわね」

「ま、まあそうなんだけど……これ、飛鳥達相当大変な目に合ってるんじゃ……」


 そんなことを言いつつ教室を覗いてみると、カウンターと客席を忙しそうに往復していたり、休む暇もなくコーヒーやホットケーキを作っていたりと、想像通り…もしかしたらそれ以上に大変そうだった。


「…私はちゃんと列に並んでくるから、雪はみんなを手伝ってきたらどう?」

「ん~…正直行きたくないけどそうするよ。じゃあまた後でね」


 夕に別れを告げてボクは教室の中に入り、ちょうど近くに来た怜奈に声を掛けた。


「お疲れ様、怜奈。ボクも手伝うよ」

「あら姫様。ちょうどよかったわ、早速これ運んでくれないかしら。あそこの一番端の席よ」

「了解だよ」


 受け取ったメニューが何かも教えてもらい、早速指示された席に向かう。


「お待たせしました、こちらホットケーキが二つとキリマンジャロが二つでございます」

「ありがとうございます……って、え⁉ うそ、姫様⁉」

「わわっ本物⁉ ええどうしよー⁉ すごーい⁉」

「……あっ」


 しまった……そう思った時には既に遅かったようで。


「「「うおおおお⁉ 姫様~~!!!!」」」

「「「きゃあああ!! 姫様~~!!!!」」」

「何⁉ あの歌姫がいるのか⁉」

「さ、サインもらわなきゃ!」

「握手してください!」

「はぁ…はぁ…姫様、尊し…じゅる」

「ほんと誰だよこの危ないやつ⁉」


 と瞬く間にボクの周りに人が集まってきてしまった。


「…私としたことが、忙しさのあまりうっかりしてたわね」


 ボクはこの時全く聞こえなかったのだが、騒ぎを聞きつけてカウンターから出ていた飛鳥達は、この惨状を見て思わずこう呟いたそうだ。


「「「「……やっぱりこうなるの?」」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日本で超有名なあの歌姫は、実は男だった?~いや別に男装じゃないし性別隠してもないのだけど?~ 高町 凪 @nagi-takamiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ