第56話:みずな、雪と同じ道をたどる?
「どうだった? クラスの方は」
生徒会室に戻ると先に戻っていた美雨が書類を整理しながら聞いてきた。
「順調みたいでしたよ。後はもう細かい調整をするだけだそうです」
「そっかそっか、それなら何よりだ」
「ええ。会長の方はどうですか?」
「こっちも順調…というか、もうほぼ終わってるみたいだったよ」
そこまで話したところで再び扉が開き、都子と莉子、それに見回りに行ったきりだった友里も一緒に戻ってきた。
「ただいま戻りました~!」
「お帰り、みんな。友里、見回りどうだった?」
「今のところ特に問題はありませんでした。どこも順調なようです」
「うんうん、みんな優秀だね~。ご苦労様、友里」
美雨は友里を労うと、コホンと咳ばらいをして「さて」と午後からの予定を告げる。
「午後は3時までに生徒会の仕事を片付けて、少し休憩をした後で4時からバンドのリハーサルだから、そのつもりでね」
「はーい!」
「なんだか緊張してきました」
「そうね。けど、夕さんのお墨付きも頂いたことだし大丈夫よ」
「そうそう、気楽でいいんだよ気楽で」
「会長はお気楽すぎますけどね」
「てへっ」
舌をチロリと出しておどけた美雨にイラっとした友里が、無言で彼女に近づきパシンと頭を叩いた。
「あいたー⁉ なんでよ~⁉」
「すみません、なんだかイラっとしたのでつい」
「つ、ついで会長の頭を叩くの? この学校のブレインがバカになったらどうすのさ⁉」
「誰がブレインですか、誰が」
そんな二人のやり取りをよそに、都子と莉子は仕事に戻っていた。
「……二人はあれ、放っておいていいの?」
「天音先輩が来てからは自重してたみたいですけど、割といつもあんな感じですよ」
「そうそう。あれ見てるとどっちが会長なんだかっていつも呆れてました」
「そ、そうなんだ」
二人の話を聞きながら美雨たちのやり取りを見ていると、確かに莉子の言う通りな気がしてきた。
「まあ、あの二人の事は放って置いていいですよ。それより作業を始めましょう、時間はあるようであまり無いですからね」
「あ、うん」
都子はいつも冷静だなぁ、なんて思いながらボクも作業を始めるのだった。
――――午後3時。
予定通りボク達はバンドのリハーサルを行うために会場である体育館へとやって来ていた。
その会場も既に仕上がっており、思っていたよりも華やかな飾りつけがされていた。
「おお~! いい感じじゃないですか~!」
「ふふ~ん。そうでしょうそうでしょう」
「…何で会長が得意げなんですか」
友里が美雨に対し呆れていると、文化祭実行委員らしき生徒が近づいてきた。
「お疲れさまです、生徒会の皆さん」
「お疲れ様、そろそろ私たちの番かな?」
「はい、そこまで時間がないので一回限りでお願いします」
「おっけー。…それじゃみんな、本番のつもりで全力でやろうか」
「「はい!」」
「はい」
「当然です」
「それじゃ、いくよー!」
――――しばらくしてリハーサルが終了し、ボク達は確かな手ごたえを感じた。実行委員からOKサインを貰い、その場で解散となった。
クラスの方はどうだろうと思い戻ってみると、何やら騒がしかった。
「(いや、うちのクラスが騒がしいのはいつもの事か)」
なんてことを思いつつ中に入ってみるとクラスメイトほぼ全員の輪が出来ており、その中心にはみずながいた。
「「「L・O・V・E・み・ず・な!!」」」
「ちょ、やめてやめて⁉ 恥ずかしいから~!」
「……どっかで見たことある光景」
その輪には近づかずに、少し離れたところから様子を見ている飛鳥達の元へと向かう。
「あ、雪お疲れ~」
「お疲れさま、姫様」
「お疲れ、皆……あれはどうしてああなってるの?」
ボクが疑問を投げかけると、飛鳥達は苦笑いした。
「その…お昼にさ、怜奈と飛鳥が食堂のおばちゃんにホットケーキ作りのコツを聞きに行ってるって言ったでしょ?」
「ああうん……ああ、何となく読めた気がする」
「あはは……まあお察しの通り、かな」
要するに、そのコツを基にみずながホットケーキを作ってみんなが試食した結果、それが美味しかったのだろう。加えて今人気急上昇の歌手の手作りなのだ。うちのクラスがこうなるのは想像に難くない。
「うおおお!! みずなちゃんの手作り!! これが美味しくないはずがない!!」
「だな!! みずなちゃんサイコー!!」
「みずなちゃん、料理も上手なのね~……私のお嫁さんにならない?」
「みずなたん……お嫁さん……尊し……ハァハァ」
「おい誰だ今のあぶねえ奴⁉」
未だなお盛り上がっているクラスメイト達を見ながら、駿介が呟いた。
「……ついに水門も雪と同じ道を行くんだな」
「この光景を見てそれを実感されるの、本人は納得しないだろうね」
美乃梨が的確なツッコミを入れたところで、ようやく解放されたらしいみずなが涙目になってこちらへやってきた。
「うう~……恥ずかしかった~」
「よしよし、よく耐えたねみずな」
そんなみずなを慰めるように頭を撫でる飛鳥。
「…というか、みんな見てないで助けてくれても良くない?」
「…まああれだよ、雪も有名になってからはほぼ毎日のように体験したことだし。きっと必要なことなんだろうと思って」
「なんのためによ~」
「……さあ?」
「肝心なところは適当かよ」
美乃梨の適当な物言いに、今度は駿介がツッコむ。
「まあ正直に言うなら、すでに疲れていて少し面倒だったから放っておいた…といったところかしらね」
「正直すぎるよ怜奈」
あんまりな理由にみずなは落ち込むが、ボクの姿を見て戻ってきていたことにようやく気付いたようで、少し機嫌が戻る。
「あ、雪さんお疲れ様です。生徒会の方はどうですか?」
「お疲れみずな。こっちはもう全部無事終了したから、後は明日頑張るだけかな」
「そうなんですね、良かったです。明日、楽しみにしてますね。クラスの方には来れそうですか?」
「うん、少しだけなら大丈夫だよ」
「じゃあ雪さんの分のホットケーキ、用意しておきますね」
「ありがとう、ボクも楽しみにしておくよ」
そんな会話をしていると、いつの間にかクラスメイト達が聞いていたみたいで…。
「みずなちゃんが姫様のためにホットケーキを……なんて健気なんだ」
「それを楽しみしてると笑顔で答える姫様も…やはり尊い」
「しかし、姫様とみずなちゃんか…俺はいったいどっちを選べば」
「いや、どちらかを選ぶ必要はない。どちらも愛せばいいのだよ」
「そうか…お前の言う通りだな!」
「うおお~! 姫様、みずなちゃん! 愛してるぞ~!」
「姫様…ハァハァ…みずなたん…ハァハァ」
「おい⁉ そろそろこのあぶねえ奴が誰なのか特定したほうがいいって⁉」
彼らが再び騒ぎ始めたのを見て、ボク達は「またか…」と半ば諦めているのだった。
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