第4話最終話、もう一つの悪夢
捕まればどんな目に遭うか、投薬と称して人体実験に手を出すようなヤツ等だ、それに生きているか死んでいるか解らない成田の事もある。
(武器が必要だ)せめて自分の身を守れる程度の物がいる。
包丁を持って歩くのはマズイ、職務質問を受けて普通に答えられる自信が無い。
お値段以上のカラーボックスを組み立てる時に使った金槌を持ち、鉄の扉を開ける。
まだ外は夜が明け切らない、多分電車は動き始め頃だろうか。
大学は基本、真夜中は閉まっている事になっている。但し研究や菌の培養、生物生態観察などで泊まり込む事もある研究者と院生の為に殆ど門は開放されて、代りに警備の爺さんが若い警備員に換わる。
受付のノートに名前と学部・学生証を見せるだけで出入りは自由。教授や学校の方に連絡がいく事は無い。
生協や購買、あと校内に入ったサロンや食堂の業者が軽トラやハイエースで搬入し始める時間だ。オレはコンビニで買った7本の缶コーヒーを警備員に見せた。
「今日は朝から呼び出されて『珈琲買ってこいって』ホントまいりますよ」
「学生さんも大変ですね~。あ!ハイハイ学生証ね、オーケーですよ頑張って。」
お疲れさま~、それだけで簡単に校内に入り込める。
校舎は鍵で閉められ、図書館もその他施設も施錠はされている。
地下駐車場の入り口を塞ぐ鎖を乗り越え、地下エレベーターのスイッチを押した。
?(地下2階・地下3階?)
エレベーターの箱の中、スイッチは更に地下まで降りられる。本来は鍵が掛かり隠してある位置にボタンがある、(確か地下にはボイラーと緊急用の発電機が有るとかなんとか、どちらかがボウラーで発電機か?)どうなっているんだ?
(普通、人間一人攫ってそのまま研究室とかに監禁するか?)それに搬入した物が、違法性のあるモノなら絶対直接研究室に運び込む事はしないだろ。
(1度地下に降りて確認してから上がっても、時間的にはそう変わらないよな?)
先に地下2階、そして3階のボタンを押して扉を閉めた。エレベーターの駆動音が重くグゥゥゥンと箱の中で振動を繰り返す。
地下2階は確かにボウラー室だった。大きな煙突と鉄の箱、赤いライトで〇〇ボイラーとプレートは読める。非常口の近くには重油のタンクがコンクリの枠の中に置かれている。
(・・・発電機?)細い冷却水のパイプが通る先には、ボイラーとは別に発電機も置かれ廃熱用の巨大換気扇が設置されている。
・・なら地下3階には何かあるんだ?非常階段の扉を開けても階段は上にしか無い。
コンクリートの床と壁で、それ以上の下階には降りる事が出来ないのだ。
時間切れのブザーが喚き、素早くエレベーターに戻って閉ボタンで音を止めると
扉が閉まる。
非常階段では無い筈の地下に降りて、体が浮き上がる感覚とずんと重くなる体。
エレベーターが地下3階に降りたのだろう。
なんだここは・・地下3階は埃っぽいコンクリの床と雑然とした資材が並ぶ資材置き場、ただの物置か?
エレベーターの明かりで見えるのは資材が立ち並び、積み上げられたダンボールの数々。
?(おかしい)何かがおかしい、エレベーターを開いたまま外に出て、少し調べればどう考えてもボイラー室より狭い。地下二階の半分以下の広さしか使って無いのだ。
(床の足後・・こっちか?)資材の場所には埃が被っていたが、よく見れば壁に積まれた段ボールの周囲の床には埃が無い。少し押し触るだけで箱が動く、多分空の箱が積んで有るだけだった。
なら少し退かせられれば・・シャッターが降りた入り口が隠れているのが見えた。
ジリジリと段ボールの塊を押し、隠れていたシャッターの入り口を開ける。
閉じたシャッターの先は、LEDの光りが差しアクリルケースが並ぶ。
その中には動物や虫が飼育され、時々中の動物がオレに反応して顔を向けてきた。
(全部普通の実験動物だよな?鼠とか油虫だよな?)
猿とか兎も有るが、状態も普通に健康体に見える検体達。痩せても太ってもいないし毛艶も良く見える。(空調も有るし、なんで隔離されているんだ?)隠す事が有るとは思えないが、・・しかもここは地下だ、
吉田さんが搬入されていた箱も見えない。
「キミが気にしているのはコレじゃ無いだろ?入っておいで」
動物達のケースの先で、静かに開いた扉から声が聞こえ白數沢が顔を出していた。
怪しく手招きする手に付いて行き、隣の部屋に入ると自動で扉が閉まり眩しいくらいの光りが部屋を満たした。
!!!!(なんだよ!コレ!これは・・なんだ?生きているのか?)
さっきの部屋とは違い格段に分厚いアクリル板・・・アクリルの壁、その向こうに蠢くのは腕のとれた猿、半分になったイタチ、腐ったまま動く鼠・・・そして手足の無い人間。
「あ~~ソレね、手足が有ると逃げたり暴れて面倒だから取ったんだ。大丈夫だよ、死んでるから」
赤く汚れた前掛けを付けた白衣の白數沢が疲れたように椅子に腰掛け、珈琲を飲みながらアクリルケースに指をさす。
「いや、生きてるだろ。」目がオレを睨み、空気の抜けるような音の無い声を口から漏らし時々瞬きしてはヤツ等は白數沢を睨んでいる。
フフフフッ「だからね、死んでいるんだよ。正しくは[死体が動いている]だよ。
どうだい?人生で始めてだろ?生きている死体を見た感想は?」
死体?死体だと?・・腐った腕で這い回る猿、内臓がポッカリ抜けた犬と胸から下がないイタチ、顔も目玉も腐っているのに皮だけで動いているような鼠が生きているとは思えないが、(死体は動くハズない)動いているから生きている筈だ。
「・・僕の作った毒は完璧なんだよ、どんな動物だって僅かな量で殺し尽すんだ。
超自信作だよ。でもねその内ね、幾つか試作実験していると生き残る生物が出たりするのに気がついてね。
捕えて見ればよくわからない、確かゴキだったかな?最初は。
その後数日様子を観察して見ればね、その虫は生きていなかったんだよ。
ホウ酸だろうがヒ素だろうが青酸だろうが何を与えても死なない、動き続けたんだ」
その後、虫以外にも爬虫類や鳥類、ほ乳類にも希に起き上がる死体が見付かった。
「ショックだったよ僕は、本当に自慢の毒だったんだから。でもね良く考えれば」
私は[もしかして動く死体を生み出す事に成功したのでは?]と考えを変えて実験を繰り返したんだ、それは医学の頂点[不死]の入り口だからね」
1度死ねば毒も病気も死亡原因には到らず、動き続ける事が出来る。スゴイだろ?そう白數沢は言った。
「人間も動物も結局は同じ、脳から与えられた信号で手足が動く。海外では鼠の脳に電極を埋め込みロボットを動かす研究だってやっている時代だよ?なら脳さえ無事なら体は動くってのは当然だよね」
脳から神経が届いていれば、体が腐っていようと筋肉反射で動く。
「で、何度も解剖を繰り返して観察した結果、薬の効果で脳神経が変化して
ミクロレベルの金属繊維が作られた形跡があったんだよ」
血液・体液中のナトリウムイオン・塩素イオンと鉄・鉛・銀・銅・等の金属イオンの科学変化。白數沢の作った猛毒との結合が体内二ューロンの中で繊維を作り、置き換わる事で死体となっても動き出すのだと。
「でもね、どの毒と、どの毒の組み合わせがそうさせるのか解らないんだよ、いまだに。それに神経以外置き換わらないから筋肉は腐るし、皮膚も腐る無様なものさ」
表皮細胞はIPS細胞で作れる、骨だって脂肪だって移植は可能だ。元々死なないのだから拒否反応も出ないし、整形外科を使えば生きているように顔を作る事だって出来る。
「鼠やイタチを見せたら、最初みんな嫌そうな顔はするけどね。でも後になって、色々な企業から協力金と寄付金が入って来たよ、表だけじゃない裏からも研究資金が積まれ、色々な人間が手伝ってくれているよ」
「だから人体実験していいって話にはならないだろ!」
不死の研究、特に脳と記憶・人格が保管できて、人体をある程度保てるなら
死にたくない金持ちは多い。当然病気にならない体も魅力があるだろう。
「人体実験・・ねぇ、僕自身は人体実験しているつもりはないんだけどね」
結果的にそうなる事になっているのかなぁ、くくく、そう嘯く。
「何度も言うけど、僕の毒は完璧なんだ。たとえ体重数キロでも、数ミクログラムを摂取しれば死に到る。なら彼、献体名[吉田]だったかな?彼の体重は何キロでどれだけ毒を浴びたのか、そして何故生きている?いや[生きている様に見える]のか」
・・・
「不思議に思うでしょ?あの重いタンクと服とマスクをつけて数時間動き回れる体、彼等はいったい何歳だと思う?原田さん、彼は70を越えているんですよ。それに現場で見たでしょ何度も・何時間も僕の作った猛毒の中で動き回るのを。
でも駄目なんですよね、まだ未完成。感情が高まったり、何かの突発事故で変質したりして。凶暴になったり、知性が無くなったりで」
今回の[吉田]は本当に交通事故に合い一時的に意識を失いその後、[起き上がり]凶暴性を示した。
「だからね、さっきまで献体として観察しやすいように加工してたんですよ」
銀のカート上には電ノコ、ペンチ、ニッパ、その他工具が赤く汚れ、肉片が飛び散って骨の粉のようなモノがバラ撒かれていた。
「・・・その端の・・端に並んでいるのは」
「手足だよ?当然歯も抜いたし、煩いから声帯も取ったよ?」
頭が真っ白になった、オレは白數沢の襟首を掴み押し倒した。
多分何回か殴ってからヤツの背後にあった扉を開けた。
数本のアクリルパイプ、カプセルの中に首と体を皮ベルトで留められた人間の体。
「酷いな、キミも知性の減少が始まったのかい?」
・・・
「ああソレね、大人しいのは冷やしているからだよ。体温が5度を下回ると意識が薄れるみたいなんだ。脳信号が薄れるのかな?時々冷蔵を止めてから意識を戻した時に色々と聞いたり実験したりして」
白數沢の顔には傷は無く、口元を少し切っているが出血は無い。
「どうやったら長く知性を保てるか、どうなったら攻撃本能を押さえられるか。
研究はまだまだ道半ばって所だね」
化け物、オレの本能は拒絶し、持っていた金槌を振り上げた。
近くに有ったカプセルの蓋を叩き割り、目に見えるボンベやコンセントを叩き潰す。
「ウワッ」誰かが叫んだ、青いガスとどこかで引火した炎が上がる。
煙と火花、重い冷気で足元が見えない。それに嫌な臭いが充満し始めていた。
「勘弁してよ、キミ。これでも最新機器なんだからね・・ってウワッ」
何かの影が足元の煙の中で這い回り白數沢を捕えて倒した。群がるように無数の巨大な蛇の影が白數沢を捕えてどこかに引き摺って行く、「**`$%&’&R!¥!!」何かが叫んだ。
声の方角に一人が通り抜けられるような穴があった、オレは迷いも無く飛び込み、躓いてようやくそこが階段だと理解した。
真っ暗で長い階段を、煙りと悪臭の中登り続けどれだけ登り続けたのか覚えて無い。最後の壁を蹴り破り、煙に満ちた部屋から警報ベルの鳴る中でオレは窓ガラスを蹴り割った。
飛び降りて逃げた後、背後で消防車のサイレンが走り、何台も横切って行った。
煙は空まで登り、黒い煙が蛇のように風で揺れてのたうちねじ曲るのを見た。
数日間、多分3日くらい眠り続けた。手の中にはクシャクシャの金が有った。
熱いシャワーは冷め切った体を温めず、顔を洗っても黒く汚れた顔は酷いままだ。
ニュースでは、大学でボイラーの不完全燃焼爆発を起こした事になっていた。
火災に巻き込まれた人間は奇跡的に無く、大学の防災に対しての見解と謝罪が書かれ、事故に対して専門家がコメントを残していた。
死体は出ていない、もしかすると白數沢も、そして検体となった吉田さんも。
逃げ出したのか?僅かな記憶を元に害虫駆除業者の名前を調べ、住所を探した。
だが原田を名乗る業者の男も見付からす、ナンバーのバンも存在しなかった。
オレは直ぐに大学を辞め、だれも知らない田舎に逃げた。
ヤツ等は生きている。いや、既に死んだ動く死体共は、事情を知るオレをどこかで観察してるだろう。ヤツ等のスポンサーもそうだ、不死の研究を邪魔したオレを探しているに違い無い。もしかすると原田達は、どこかでまた毒の散布実験を続けているかも知れない。
「もしもし?」不意に鳴った携帯を掴み、耳に当てた。
「ああ、ようやく繋がった。キミ学校を辞める必要なんてなかったんだよ?まぁ学業に限界を感じたのかもね?クククッ」白數沢の声だった。
「あ・あんた、生きて・・」
「キミの想像通りだよ、知らなかったよ僕も[起き上がり]だったんだね。それで一言キミにいって置きたくてね」
「僕の作った毒は希に殺した生物を[起き上がらせる]その中で動物なら自然界で
湿気や熱でその内腐り落ちたり動物の餌になったりするみたいだ。
鼠なんて腐った仲間を喰うのに躊躇いは無かったよ、動いているのにね。
その中で気が付いたんだ、煙に巻かれながらね。ほら
「害獣駆除をした家の中で、[池の有る家]の話を。
池の中に波紋が上がったって言ってたよね。僕の毒は完璧だ、
当然地面にも染みこむし、川にだって流れ込む。
なら池の中にも入った筈だよね?その中で生物が[起き上がった]のなら・・・
川の生物だって有り得るよね?」声は枯れているが、白數沢の声は嬉しそうに弾んで聞こえた。
「・・・・何が言いたい?」
「今は50年前・半世紀前とは違うんだ、自然界には無い毒や科学物質が世界には溢れているよね?そしてそれは、どれだけ科学処理して薄めても、最終的には地面か川から海へ流れ込む。深海って場所には僕の作り出した毒と同じ効果、それ以上の効果を持つ薬品が貯まっている可能生があるよね?だからそんなに[起き上がり]を怖がらなくても、その内に海に貯まった薬のお陰で[起き上がった]不死の仲間達が上陸するよ、きっと」
そうして電波のせいか、それとも向こうから切ったのか電話が切れた。
白數沢は生きていた、死ななかった。研究はまだ終わらず、そしてヤツの協力者達はどこかでオレを見張っているだろう。
原田・西田もすでに[起き上がり]だろうか、地下駐車場で呼吸を乱す声が聞こえたから起き上がりでは無いかもしれない。
(それでもヤツの実験に協力しているのは確かだ)
人権の無い大陸国に渡ったら、積極的に人体実験を繰り返しているだろう。人口が多いから、数千数万の人間が消えても報道すらされないだろう。
冷凍保存された富豪達も研究の成功をまっているかも知れない、少なくとも吉田さん達は今のも実験材料として保管され続けているだろう。
ヤツの言うように、世の中には保存料や科学物質、除菌剤や殺虫剤、
テフロンやフッ素、知らず知らずに様々な物質を人間を含め多くの動植物が摂取している。
遺伝子操作された薬品に強い植物、ソレを喰って増える飛蝗。
海に流れる処理された筈の化科学薬品と、空に上がって雨として落ちた薬。
地面を濡らし、下水として川に流れて行く雨を見た事は無いか?
様々なモノを受け入れ、死体となった魚やプランクトンですら海底に溜め込み、冷たい深層浸水として科学変化をし続けているかもしれない。
海底火山の熱や落雷、海にはどのくらいの科学合成が行われているのか。
生物が海から発生したのなら。今、海の底では何か発生しているのだろうか。
オレには恐くて仕方が無い。
その壁の向こうで・・ 葵卯一 @aoiuiti123
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