第3話
学校途中でパチを打ち帰る時だった、いつも通り戦績とパチ屋と台の情報を吉田さんに送り、牛丼屋に入って座った。
半券から牛丼に変わる間に着信が鳴った、ラインを開けばメッセージが有る。
「オレはもう無理、でも生活があるから辞められない。お前はもう来るな」
短いメッセージを既読して「なんです?」と送っても既読されない。
それから何日か過ぎても既読が付かず、バイトの日の朝イライラしながらもう一度
「なんなんです?」と送った。
オレはバイトの時間までバンと返事を待ち、やってきたバンの扉を開けた。
・・・・吉田さんの座っていた位置に別の人間が座り、「ヨロシクお願いします」と頭を下げた。短い・・ボウズ頭で肌の荒れた、よくみれば球児・悪く見ればブツブツの美柑だ。 高木、そう彼は言った。美柑のような丸い顔が笑うとオレもイライラを忘れ、頭を掻いて頭を下げた。
「吉田さんはどうしたんです?風邪ですか?」オレは何か言ってやろうと思っていた相手が居らず困惑するように原田さんに聞いた。
「・・吉田なぁ・・事故ったんだ」
原田さんが言うには数日前、自転車でパチンコから帰る時に撥ねられたらしい。
はあ?「ちょ!ちょっと聞いて無いですよ!お見舞いとか、どこに入院してるんですか!」ラインを送ったあの後かよ、しっかりしてくれよホント。入院したなら連絡が付かない事は解るけど。
「・・・学生さん仲良かったからなぁ、アイツなぁ・・もう[おらん]のや」
?おらんって、辞めたって事だろうか。辞めたがっていたから。
「死んだ、酒飲んでたから出血が酷くてな・・」
は?誰が?相手か?・・あんな元気な吉田さんが死ぬ訳が無いし、そんな・・事は・・
「吉田君は撥ねられて死んだんだ、可哀想にあんな若さでな。葬式は家の方でやるらしい、オレらは香典送って終り、家族には話も出来なかった」
何も・・知らなかった、知らなかったんだ。だから今の今までなんて言い返してやろうとか怒ってたんだ。
「この前の現場で色々あっただろ?かなりショックを受けてた見たいでなぁ、あの後も顔色を悪くして悪い呑み方続けてたから。他の現場でも色々ヘマが続いて注意もされてな。
深酒してからの事故や、学生さんも酒の呑み方には気を付けろよ・・
一応な、学生さん。今日の仕事は一件だけにしてお別れ会と、高木くんの歓迎会として呑もうと思ってる、学生さんも来るだろ?」
仕事を終えた後のマズイ酒、高木さんも黙って喋らないオレ達の空気を読んで沈黙している。乾杯も無く、ただビールとチューハイを一回ずつ頼んでお開きになった。
「ほんま学生さんも、酒には気ぃつけよ」少し猫背になっていたオレの背中を原田さんが叩く。
「ありがとうございます、失礼します。お疲れ様です」
頭を下げて、一人だけ駅まで歩いた。
(確かにすごいショックを受けてたけどさ、そんなんで死ぬ事は無いだろ!)
酒呑んで自転車事故?んなもん知るか馬鹿、勝手に死にやがって!クソ!
知り合いが・顔見知りが死ぬなんて何年ぶりだろう。祖母ちゃん爺ちゃんが死んだ時はああ、死ぬんだろうなって。病院で白く細くなっていく顔を見て大体わかった上での葬式だった。それがある日突然、訃報を知らされる。正直混乱と空虚が頭から離れない。(事故ってもいいけどな!勝手に死ぬなよ、足とか腕1本骨折程度だろ普通は!馬鹿か)
こびり付く・こびりつく何かが抜け落ちた感覚、この感覚もその内に忘れてしまうのだろう・・・それが凄くイヤだ。
忘れたく無いのに、忘れてしまいたい。そんな感覚だ。
眠れ無かった翌朝に、しばらくバイトを休みたい旨を伝える為に白數沢教授のゼミに向かった。こっちの勝手な都合なのに、メールや電話で一方的に伝えるのは駄目だろうとの判断だ。もし、「もうキミには頼まないよ」と言われても、それは仕方無いと思う。オレが抜けた後に、誰か別の学生がバイトに入ればオレの戻る場所は無いだろうし。
時間も考え九時三十分、早過ぎずかと言って他の学生がいない時間だろうか。
どのように切り出すかを考えながら、ゼミの部屋の戸に指を掛けた時だった。
「ああ・・ええ、吉田君・・ええ・・こちらへ・・ええ・・」
扉の向こうで吉田さんの名前が聞こえた。だからと言うわけでは無いが、思わずしゃがみ盗み聞きしてしまった。
「大丈夫・大丈夫ですから、検体の方はこちらへ。そうそう前見たいに、ええそうです。棺桶は前の物より丈夫な物を発注したでしょ?アレで・・時間は・・
でもそろそろ死後硬直も溶けるでしょ、ですから冷やしたままでこちらへ。地下駐車場で受け取りしますから、報酬もきちんとその時に。でもそっちの不注意についてはこれからは気を付けて下さいね」では、声はそう言って電話を切った。
「ふふふっふふ、今度こそは・今度こそは解るハズ。ようやくだ、あの愚図共ようやく新鮮な検体を手に入れられるようになったぞ。行動心理上、ヤツ等は何度でも手を染めるだろう。そうすれば私の研究は・・・!「だれだい?」」
扉越しにこちらを向く声は、一歩・また一歩と足音が近づいて来た。
(マズイ!)
本能が警鐘を鳴らす、ここで姿を見られるのは絶対マズイと本能が告げる。オレは腰を屈めたままで足を動かし、音を立てないように壁を突いてとにかく逃げた。
(なんだ?オレは今何を聞いた?検体?吉田?なんでだ、ただの事故死じゃないのか?)
トイレに逃げ込み鍵を掛け、ガタガタ震える肩を押さえ、便座の蓋に座るように足を曲げて膝を抱く。
(あの声は間違いなく白數沢だ、検体?吉田さんが検体?人体実験?毒の?なんで?)
解らない、とにかく何も解らない・・・!(地下駐車場に十五時と言ってたよな)
その時間に駐車場で何かある事のだろう、行く・行かないどちらにしてもこのままバイトは続けられない。
馬鹿なオレはその時その瞬間、学校を辞めてでも逃げるべきだったと今では思う。
何も知らなければ、つまらない学校生生活に飽きたとか言って実家に帰りフリーターでもやっていれば良かったんだ。
・・・カチカチと図書館の時計が時を刻んでいる。この場所なら他にも学生がいるしオレが時間を潰していてもおかしいとは思わないだろう。
(そろそろ時間・・)体が抵抗するように力が抜け、足が震える。
(でも行かなければ) 正義感・使命感・興味・知らない事実・恐怖を穴埋めする為の行為、そのどれもでありどれでも無い何かに動かされ、学校地下の駐車場に入って行った。
何時間か前に忍び込んでおけばよかったとか、カメラやマイクを持っていけばよかったとか、服を着替え変装しておけばよかったとかは後で気が付いた。
校庭端にある駐車場は、教員や関係者専用となっている。対して地下の駐車場は工事業者や備品の搬入業者、学校で時々集める臨時職員の駐車場となって普段は使われていない。 草刈りなどで駐車場が突然使え無くなった場合や、申請があった時だけ使用されている。
(車が来なければ・車が無ければオレの聞き間違いだ)
薄暗く切れかけた蛍光灯が点滅し、非常口を知らせる緑の光りが搬入口の辺りを照していた。
(時間・・はちょうどか、そうだよな疲れてたんだよオレ)
車も無い、搬入口で待つ白數沢先生の姿も無い。柱の陰から全体を確かめても車所か人の動きも歩く音も無い。
(馬鹿だなオレ、今の日本で人体実験なんて有るハズが無い。毒ガス兵器とか、確か国連とかで禁止されているハズ)輸出・輸入も出来ない物にだれが金を出すか、投資者も無いのに学校で研究・実験なんてする訳が無いよな。
そう思うと急に一服したくなる、腹も減ってた。よく考えてみれば昨日の夜以降何も口にしていなかった。馬鹿馬鹿しくなったオレは煙草をふかすべく立ち上がり、駐車場の入り口に足を向けた。駐車場は禁煙、警報が鳴ったら大事になるし。
(一瞬駐車場の入り口が光った?)嘘だろ!
ほぼ反射的に柱に身を隠してしばらくしてから、(大体1~2分経ったと思う)
見覚えのあるバンが、コンクリートの地下を鳴らして侵入して来る。二つのローライトが床に反射しエンジン音が地下駐車駐車場に響く。
暗くて顔は見えない。三人の影が言葉無く降り、慌てた足音が忙しく動き車の後が開く。
搬入口のエレベータが開き、白衣を着た白數沢が笑い顔でカートを押し出し滑るように軽い音で走り出て来た。
「こちらですよ、落とさないようにお願いします」バンの後に運ばれたカートに、重く鉄を磨る音を立て冷蔵庫のような箱が乗せられた。
余程重い物なのか、荷台に乗せられどちらかがギシッと悲鳴を上げる。
鉄の棺桶の重さで撥ねるようにカートのタイヤが箱を持ち上げ、1度落とす。
影が押すカートを押す瞬間、鈍く軋む音がした。
「オイ!押さえろ、落とすなよ!」・・原田の声で影の一つが箱を押さえた。
「ゆ~くり・ゆ~くりだ、急ぐ事は無い、慌てるなよ」
西田さんが箱を押さえて声を掛け、多分、高木が押している。
「私語厳禁でお願いしますよ~、仕事迅速・安全注意ですからね~」白數沢の声が引き金かそれとも偶然か、小石を踏んだカートが急に曲る。
オイ!馬鹿!だれかの怒声と同時に箱が滑り落ちた。
轟音、コンクリートを砕く音とカートのフレームがひっくり反り、叩き付けられる破壊音と地下に響く震動。
その直後だ、滑り落ちた箱から・・箱の中の物が内側から喚き、殴り付け・蹴り暴れ箱を開けようとするような音だ。
ヒッ「やっぱり!やっぱり生きてる、生きてますって!」
「馬鹿!医者の診断書も見せただろ!コイツは死んでいるんだ。さっさと押さえろ!ビビるんじゃねぇ!」声を荒げる原田の声と高木の声。淡々とカートを戻し、暴れる箱を押さえるのは西田さんか?
「いつもの猿とか洗い熊と同じ[死後硬直運動]ですよ、少し検体が大きいので激しいですがそれだけ、それだけ。・・・ドライアイスが足らないのでしょうね、いつも通り追加で対応して下さい」エレベーター前の白數沢の指示に原田が走り、バンから取り出したクーラーボックスから砕いたドライアイスを箱に投げ込む。
ウッ!ウゥゥゥウ!目を開いた吉田さんが首を上げ、噛み付くように顔を出す。
口に何かを噛ませられ声が出せないようになっているが、間違い無い吉田さんだ。
「馬鹿!上下を間違えるなと言っただろ!」
原田さんが暴れる額を押さえ、西田さんが素早く欠片を流し込む。
ドライアイスが煙を上げ、白い靄の中に頭を押し込むと、全力で抗っていた頭の激しい動きが徐々に抵抗力を失い、最後に小さく声を上げて箱の中に沈んでいった。
原田さんが箱の扉を閉めた時、パチンとロックがされ男達の動きが静かになった。
「さぁさぁ早く、早く研究室に運んで下さい。皆さんも私も時間は有限なんですから」箱が積まれた後、エレベーターの扉が閉まる。
「では納品は完了したと言う事で、こちらが報酬です」白數沢が懐から出した分厚い封筒、解らないが札なら100は超えているかも知れない厚さだ。
ハァハァハァ・・「こっちもかなりのリスクを負ったんですから、特別割増を期待してたんですが・・」息を荒くした原田の声が響く。
「それこそですよ、情報漏洩?全く社内コンプライアンスが出来てないからこんな面倒な事が起るんです。減額とは言いませんが[次ぎは無い]くらいの危機感は持って頂きたいですね」嬉しそうな白數沢の顔と苦虫を噛んだような原田の横顔。
追加報酬が無い事を示すようにポケットをはたき、そのまま降りて来た男達と入れ替わるようにエレベーターに入って扉が閉まった。
おれはバンが駐車場から消えるまで動けず、去って行った後もその場でしばらく座っていた。ノロノロと体を持ち上げ、ようやく地下から這い出したのはすでに日が落ちて周囲が暗くなっている時間帯だった。
コンビニで買ったビールも、頭から浴びた熱いシャワーもオレの頭から靄を晴らす事も眠気を運ぶ事もでき無かった。
電気を消した暗い部屋では、目は天井を写したり瞼の内側を写していた。
頭の中では繰り返し・繰り返し、昼の映像を浮かび上がらせ、あの叫び声が耳から離れ無い。
(人が・・吉田さんは・・アレは・・)声の潰された悲鳴が消えない。
原田から聞いただけで、吉田さんが本当に死んだのかオレは知らない。
(けど、普通、人を殺すか?どんな理由で?)たかが従業員の一人や二人、殺すより解雇した方が簡単だ、そもそも吉田さんが殺される理由が無い。
(そう言えば・・情報漏洩とか言ってたよな?社の機密でも盗んだのか?)
原田達の会社の規模なんて知らないが、年商数億って事も無いだろう。
大学の一学部教授とのコネで、委託業務をする程度の中小だ。大学からしても会社が倒産しても代わりはいくらでも有る。
解らない、解らない事ばかりだ。解るのは箱に詰められて運ばれた吉田さんの姿だけだ。
(どうしよう・・どうしようも無い・・どうすれば・・・・?なんだ?)
寝返りをうつと尻に当たった違和感に頭が動く。
(なんだコレ?)ポケットを探ると金属の手触りが指に付いた。鍵か?なんだ?
靄やけ、まだ芯に熱が籠る頭が徐々に覚醒し鍵の持ち主[成田]の家を思い出す、 成田は本当にインド行ったのか?もしかすると吉田さんのように・・・。
ドタドタとコンクリートを踏む足音で目が起こされた。部屋の中はまだ暗く、いつの間にか眠ってしまっていたのか。ガチャガチャと煩い音は寝ぼけた頭に響く、起き上がって音の方に顔を向けると部屋の扉のノブを激しく掻き回すのが見えた。
金属音を鳴らし、郵便受けをこじ開けた手の横から覗く血走った目。ソイツがオレの姿を凝視してから瞬きし郵便受けの扉が閉じた。
(帰ったのか?)不気味な目の正体は解らない、正体を見る為にも1度扉を開けて外の様子を確認し、それから警察か管理組合に電話しなければ。その為には起き上がらなければならないが体が重い。(重い・・)じゃない、動かないんだ!
首から上しか動かない、これが金縛りか?必死に足を動かそうとしても反応が無い、まるで動かない手足を見下ろしているような感覚、自分の体だとは理解出来るが爪先一つ揺らせない。焦れば焦るほど心拍は上がり、逆に周囲の状況が見えて来た。
暗いが部屋の様子は見えている、動くと思っていた首も動かず瞬きしない目だけで玄関の状態を捕えている。扉の外ではドリルと工具の金属音が鳴り響き、穴を穿つ不気味な悲鳴がキリキリと振動していた。
(隣は!隣のヤツはなんで警察を呼ばないんだ!呼べよ!呼んでくれよ頼む!)
ドリルの捻る音が極限まで高まり通した、ドリルが逆回転を始め抜けた後には外からの光りが差し込んで来る。
どこかで見た事のある光り、そして作業服の男達が動けないオレを見下ろし手を伸ばす男達。籠った声と防毒マスク、そいつらは分厚いゴム手袋でオレの体を掴んで袋に詰めて持ち上げた。「学生さん、あんたも馬鹿だねぇ。へんな事に首を突っ込むから・・」
バンの扉が閉まる音、オレは袋に詰められたままで、冷たい箱に入れられどこか・・・地下の駐車場につれて行かれた。
袋から投げ出され、眩しい光りに顔を背けてゆっくりと瞼を開いた。
オレはアクリルケースに入れられ、正面の解剖台には体を開かれた吉田さんがオレを向いて悔しそうに口をパクパクと動かしている・・
「たすけ・・・・」
胸を開かれ、臓器を抜かれた空洞の体は声を出す事なんて出来る筈が無い、それでもオレにはそう聞こえたんだ。
!、ハッハッハッ・・・~~~~!ハァハァハァ、全身に冷汗と脂汗が貼り付き、鼓動がドクドクと脈拍って目が覚めた。
時間は夜の二十五時、フゥフゥと呼吸が乱れ、さっき見た物を思い出す。
夢とは思えない最後の声、白い蛍光灯に光る目玉。
(玄関!・・よかった無事だ)郵便受けも無事で穴も開いてない、触って見ても壊された形跡は無い。夢か、(やっぱり夢だったのか・・・・)
昼間見た駐車場から夢だったのか、それとも今見ていた物が夢なのか、
頭が混乱する。
ズキズキ痛むのは酒の飲み過ぎか?コップに入れた水を飲みほし、口から溢れた水でシャツが濡れた。
着替えを兼ねた熱いシャワーを浴びても頭の痛みは消えてくれない、吐き気と寒気で体が震えて止らない。
(悪い病気か?・・風邪・・じゃないよな)薬なんて買い置きしていない。
近くのコンビニなら風邪薬くらいあるだろう、その程度の感覚でズボンに足を通し、尻ポケットの鍵に手が触れた。
・・・・・
その時のオレは熱と頭痛でおかしくなっていたと思う。(チャリで少し行けば成田の部屋だったっけ)朦朧としながら自転車を漕いでいたら、気が付いた時には成田の居たマンションの前にいた。
その時は何を考えていたのか覚えていない、ただフラフラとヤツの部屋に行きポケットの鍵を差し込んだ。
カチンッ、そう簡単に鍵が音を立て、ノブを引くだけで扉は開いた。
「おじゃましま~す」小声で声をかけ、(だれもいないな)と様子を見てから玄関に上がる。玄関に靴は無く、靴を脱いで上がるのも恐いがフローリングに靴跡が付くと絶対怒られるので靴は脱いだ。
スリッパを発見出来たのは運がよかったのか、違うな。フローリングの部屋にスリッパが無い方がおかしいのか。
靴を揃え、下の住人に足音が響かないように静かに進む。一部屋二間、小さな台所とガスレンジが一つ、殆ど使って無いのはオレと同じだ。
(冷蔵庫が小さく音を立てているから電気は止っていないのか?)
試しに蛍光灯の紐を引くと小さく点滅するのが見えた。
豆球を付け、オレンジの明かりで部屋を照らす。別段荒らされた形跡は無く、十分片づいている部屋だ
(・・・・男の一人暮らしだろ?・・インドに行く前に片付けたのか?)
次ぎの部屋は多分私室だ、大学で使うノートと生協で売っていた参考書が棚に並び、
CDや映画のBlu-rayが数本、普通の部屋だ。
(ノーパソとかはインドに持って行ったのか?)
スマホの充電器と一緒にACアダプターがコンセントに刺さっている。
(それにしても・・パチンコ関係の雑誌は縛って積んであるけど・・)
インド関係の書籍が無い。確かにネットとかで調べて興味を持つ事も有るだろうけど・・・・
・・・・(多分コレか?)[良い旅釣り気分]五百円とかワゴンで売られているBlu-rayの中でも、女子や男子学生に一際興味を持たれそうも無いタイトルのケースを開く。
見た目は確かに普通のディスクだが、その後に隠れた物をオレは見つけた。
16ギガのメモリーカード、オレの部屋にも[日本魚介・近海辺]という文庫の中に隠している男の秘密だ。エロのお気に入りや、ダウンロードした画像や動画、当然漫画なんて物もあったりする。USBメモリーは無いようなので、メモリーだけ借り熱が限界だった事に気付いた。
(さっさと帰って・・それで・・それで・・)それからの事は余り覚えていないが、靴は家の玄関に有ったので多分大丈夫だろう。
市販薬が効いたのか、少しフラフラするが熱が下がった気がする。
取り敢えずコンビニでおにぎりと冷凍うどんを買い、部屋で暖めて喰うと自分が腹を減らしていた事に気付く。カップ麺・アタリメ・エビセン、とにかく部屋に有る食い物を放り込んで咀嚼する。胃袋に流れる塩分多そうなブツのお陰で腹が膨らんだ。
オレの机に置いてあるメモリー、多分Windowsで開けるだろうソレを見るかどうするか、どうせ中身はエロか何かだろうが。それでも嫌な予感がする。
(ブラウザゲーム用のPCなら有る・・)が変なウイルス付きとかだったら困る。
「・・・」成田が集めた物ならそれ程危険は無いのか?
安物PCの電源を入れ、立ち上がってがらメモリーを差す。
Nao01・Kyoko01・Ai01・・・・思った通りエロ動画が詰まっていた。やたら重いデータのそいつらを眺めつつ、
(馬鹿馬鹿しい、こんな物ばっか集めやがって)
とか思いながらスクロールを繰り返す。?(Sakaki・01 Suzuki・01 Niida・・・)やたら軽いデータと少し覚えがある名前の羅列。
(まさかな)こんな名前はよくある、ただの偶然だ。
ファイルをクリックすると1枚の写真と文字、誰かが纏めたデータの一部だろうか?
佐々木・了・薬学部2年、成績下。投薬3ヶ月、熱・吐き気・混乱。状態不可
鈴木・大一・農薬部1年、成績下、投薬6ヶ月、熱・吐き気・毛細出血・記憶の混濁。
西田・孝・保険学部2年、成績中の下、投薬4ヶ月、状態良。引き続き投薬と経過観察。
それぞれの写真と投与された薬の種類・量が記載され、体調の変化や体温・血液反応が並ぶ中、細かい血液の変化と共に最後にはHuman、IS・LOSTで締め括られている。
(LOSTって・・死んだって事か?アノ溶剤ってそんなにヤバイ物だったのか?)
どんな生き物でも殺すって、人間も含まれているのか?
(いやでも、防毒マスクがあるだろ。アレと防護服で大丈夫なんだろ?)
・・・!違う、コレには[投薬]ってなってる、こいつらは薬を盛られたんだ。
!オッ・オエェェェェ、それじゃあいつも仕事終わりに渡される解熱剤か!市販薬の箱の中身を入れ替えてオレに渡していたって事か!
胃袋を引っ繰り返し、全部を吐き出すつもりで吐いた。指を突っ込み、吐いては水を飲んで吐く。そんな事をしても飲んだ薬が出る事は無いが、それでも吐いた。
(ヤツ等もグルか!)オレは知らない間に治験されていたのか?それならあの報酬も解る。人体実験・安全承認されてない薬の実験動物になら、多少高い金が支払われるだろうよ。
この熱も・吐き気も・目眩も全て実験の結果か、だから・だから気付いた成田は逃げたのだろう。そして吉田さんの『もう来るな』はオレを心配しての事だったのか?
(じゃあ、なんで吉田さんが捕まったんだ?)
・・・まさか、オレの身代わり?オレがバイトを辞めて治験が出来なくなるからか?
あの「助けて」は白數沢の実験から逃がしてくれと言うメッセジーか?
散布業者は多分白數沢の協力者だ、それは間違いない。だから吉田さんはオレに何が行われているか解ってたんだ。だからオレを逃がそうとして、それがばれて捕まったんだ。
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