第2話

「なぁ学生さん、その網とか袋とか、やっぱり頼まれちまったか?アレを」

 年長の西田さんが煙草を吸いながら嫌な顔をして聞いてきた。そりゃぁ、会社としては薬剤散布の効果に問題があるって証明になるような物だから嫌な事は解るけど。

「まぁそう言いなさんな、学生さんも1度やってみてから判するだろうさ。

 学生さん、オレらは一応協力はするよう先生から言われてるし、義務があるから手伝いはするが、捕獲はそっちでやってくれ。どうせそのつもりだろ?」リーダーの田原さんは、前を向いて運転をしながら、バックミラーの目がオレを覗いていた。

「だって10万ですよ?どうして・・」10万は少なく無い報酬だろ?

 業者と1個人バイトとは立ち位置が違うからか?

 駆除業者の原田さん達は客から害虫を駆除するように依頼を受けている、(薬の種類は問わずだろうけど)その薬剤の効果が少なく薄く、駆除しきれていないと噂が立つと問い合わせの一つもくるだろうし依頼も減る、だからイヤなのはわかる、わかるけど。

「・・あれだ・・オレから言えるのは・・あんまり見んな・気にするな・触るな、って事だ、金にはなるんだろうけど・・イヤイヤオレは苦手なんだよアレ!」

 若い吉田さんは両腕を抱え身震いして煙草を噛む、そしてフィルターが潰れた煙草に舌打ちして灰皿で潰した、余程嫌なのか。

(高々鼠程度で大げさだなぁ、でも人間どうしても嫌な物ってあるからなぁ)

 オレも、あの脚がいっぱいあるヤツは苦手だから気持ちはわかるよ。

 一軒目では生きた生物を見つける事は無く、いつも通り写真を撮ってメールに添付して送った。少しグッタリした足取りで次ぎに付いたのは、池のある一軒家だった。

手入れされていなかった池は緑に染り、池の水を1度抜いてしまってきれいにした。

それでも一年二年と経って雨水が溜まって、池の水は現在に到る。

「ただの水ちゅっても、処理すんにゃぁポンプがいるし。それにゃぁ別口で金が掛かる。オレらだってこんな水じゃあポンプが詰まるかもしれんし、水抜きとは言え作業をタダじゃできねぇんだから放置してんだ」

「今抜いたってその内・・大体来年くらいには貯まってるだろ?だからこの家の家主も金なんかださねぇってさ」西田さんと吉田さんが防護服を着ながら笑う。

 解る話だけど、放置していれば虫だって沸くだろう。池の周りを見れば、一応は草刈りしているから気にはしているだろうけど。やはり金が掛かると思うと、人間は途端に面倒になるのだろう。草刈りもしてるし、ここの住人はこうやって防虫・駆除業者に頼んでいるだけマシって事か。

 気が付けば防護服を着た男達は作業準備を終え動き出している。

 いつも通りに発電機が振動し、丸い照明が煌々と照らす中で作業が始まった。

 玄関の写真を撮って後は、薬剤の散布が終わるのを待つだけだ。

(いっちょ格好いい写真でも撮ってやりますか!)そう思ってバンの扉を開けた頃

「ポチャン」池に波紋を作った物が水面に落ちた音が聞こえた。

 マスクを着けた後なら聞こえ無かっただろう。発電機の振動音が響く中で、そんな小さい音を聞き分けられたのはオレが神経質になっていたからか。

 後で聞けば「小石とかカメムシとかじゃないか?」「ガとかカナブンのヤツが、照明に集まって地面に落ちて来る事はあるな」と言われた。確かに、普通はそう考えるだろう、でも少し気になったが、緑の水が生物の痕跡を包んで影すら見えなかった。

 この家は何度か駆除に入った事があるらしく、手慣れた様子で散布を終えて霧から離れた位置で男達が休んでいる。

 その間、オレはゴムマスクのレンズを通して池を凝視し観察していた。

全く波紋も無い緑の液体は沈黙を守るように、風にも揺れる事も無く静寂を維持していた。

「学生さん、そろそろいいか?」田原さんがドアをノックして、マスク越しのくぐもった声で車の中を覗いていた。

気が付けば1時間近く経っていたらしく、吉田さんは煙草が切れてイライラし始め、オレの姿を睨んでいたのだ。

「す!すいません!」車を降り大声を上げて頭を下げると、軽く手を振って返事が返って来た、思ったより怒って無いようなので助かったのだろうか。

(ボーナスは大事だけど、オッチャン達に嫌われてこの仕事自体が出来なくなるのは本末転倒だ。これ以上待たせないように急いで写真を撮って帰りに珈琲でも・・)

 重かった鉄入りの靴は、慣れて行くうちに(少し重いかな)程度に歩けるようになっていた。

 防護風服も防毒マスクもなれてしまえば、我慢出来ないほど動き辛くない。

(重いけど)

 よっちら、こっちらと足を上げ歩きだす。家の玄関を開ければ、薬霧がまだ漂い、空気が懐中電灯の明かりで白く濁ってオレの影が写っていた。

「ポチャン」また池の方から音が聞こえて振り向くと「なんだ?」田原さんが首を傾げ返事を返して来た。「イエ、では!行きます!」ヨロシクお願いします。(確かになにかいると思うんだけどなぁ、おっかしいなぁ)オレは頭を傾げて首をふる。

「多少ボーとする事はある、そう気にすんな」と、(田原さんには聞こえて無かったのか?確かに聞こえたんだけどな)とは思ったが後が控えている。オレは今度は振り返らず、ゆっくりと霧の家に入って行った。

 

 フィルターを保たす為と万が一の事を考えて、薬霧の中では基本会話は無い。

 背後からのライトの動きで、オレがどこを撮影するべきかを教えてくれるのだ。

 入り口から土間・靴箱の辺り・ダイニング・数枚ずつシャッターを切り、その度にフラッシュで光が走る。

 次ぎ・次ぎ、と進み1階を全て取り終え、ようやく2階への階段に辿り付く。

 懐中電灯の光りは『イケ!イケ!』と階段の上を指す。正直靴がアレだし防護服も重いから階段は苦手だが、止っている場合では無ので覚悟を決める。

 意を決して階段を踏むと重みでギィィィと木が軋む、「大丈夫行けるいける、西田のオッチャンなんかタンク背負って上がってんだ、若いヤツが落ちたりしないから」

 成れた調子の原田さんが、励ましてオレは階段を上る。

 二階の部屋に付き、撮影を始めた。六畳くらいの畳部屋に押し入れとこの部屋の住人がが寝起きしていた感じがする部屋。

 床の畳みは剥がれて立て掛けられ、オレ達業者が土足で踏んでも板張りが汚れないようにビニールシートが敷かれている。

 窓が閉じて襖も閉じてあったせいで、煙る空気が落ちた感じがしない。

 撮影1枚目のフラッシュがパッと光る。ガサッ、そう確かに聞こえた。

(天井裏に何かいる!)本能的にカメラから手を放し、腰から引き抜いた網を握る。

「ああ・・やっぱり出たか。この家屋根と屋根裏がボロで薬剤が直ぐ逃げるんだよ」

だから動物が入り込み安く、薬も効きに難いとか。

「それでも一応は、ボーナスチャンスなんで。オレ行きます!」

小量でも薬を吸った獣なら条件には当てはまる。

 薬を撒いた後の押し入れの天板は開いている、撮影用に開けておいてくれたのかそこから首を出すと、全体に薬剤を撒いた証拠に空気が白い。

 首の方向を変えると、別の開いた天板の方から外の照明が入って明るくなってる。

(動物は・・良く見えないなぁ、多分この真上で聞こえたと思ったんだけど)

 仕方無いので撮影の為に、オレは首から下げたカメラを構えシャッターを押した。

「馬鹿!」一瞬、フラッシュ最中確かにそう聞こえた。

(黒い何か)光る二つの目がある物がマスクに飛び付いた。驚いたオレは、吹っ飛んで押し入れから転がり落ち背中を打って息が止る。

ソレは霧の中を走り回り、ドタドタと足音を立て2階の階段から飛び降りて消えた。

「なんだったんですかアレは!」ハァハァ、息が・それに頭を打ったのか目がチカチカする中でオレは大声を上げた。

「アレなぁ、多分洗い熊かハクビシンだろ。イタチのデカいやつだ、アイツら人間がいないと直ぐに屋根裏とかに住み着きやがるからなぁ」

 オレはあの後、一応1階を探すのも見付からず帰りの車に乗った。

「アイツら獣は、チビの時はペットとして可愛がるヤツ等もいるんだけどな。大きくなったら手に負えないくらい凶暴になる」

「かといって保健所に連れて行く勇気も無い、だから野山に放して「ラスカル!達者でな」って不法投棄だぜ、それで野性化して民家に帰って来るんだ」

 吉田さん達の言う通りだ、野生動物を不法投棄するヤツは何を考えているんだ。

自然環境を少しでも理解しているなら、外来種を国内で飼おうなんて事を考える訳が無い。

「カメラは失敗だったなぁ、驚いて飛び掛かって来たろ?大丈夫け?」

「・・こっちが驚きましたよ・・ホント勘弁して下さいよ・・」

「だから言ったろ?苦手だって、オレも同じ目にあったんだぜ。最悪だったわ」

 暗闇からいきなり襲い掛かる野生動物、アレを経験すれば誰だって嫌になるだろ。

「コッチの不手際ってのもあるからな、そんなに言ってやるなよ。学生さんも偶然の不幸だったって忘れろ忘れろ。嫌な事は風呂入って一杯やって寝て忘れるに限る」

 逃げた動物は薬霧に蒔かれ、きっとどこかで死んでいるだろう。

 という事でオレだけ駅で解散となった。

「オレらはまだ業務報告とかあるからな、今回の事は気にせんとまた来いよ」

 最後に渡された封筒には、七万・・やっぱり美味しい。


「キミキミ!チョットチョット、」白數沢先生に呼ばれて捕まった。ゼミの研究室で座らされ、「これだよこれ!どうしたの、捕まえられ無かった?」先生が興奮して指さすのはブレて写る赤い目をした獣、洗い熊の写真だった。

 オレは全ての経緯を説明し、逃げられた事も話した。

「・・・そうか・・それは、残念・・なる程。屋根裏・・耐性・・・・

折角十万用意したんだけど、まあ災難だったって事で持ち越しだね、次ぎは頼むよ」

 興奮していた顔は血が足に降りるように力が抜け、元の青白い顔と無気力な表情に戻っていく。

 首にはならなかったが今は先生の研究が進まず、写真を送った事で逆に期待させてしまったのか、落胆が解る。

 次ぎこそは・次こそはとしている内に半月が過ぎた。オレは相変わらず山奥の一軒家に入り、ようやく成れてきた足取りで撮影をしていた。

?素早くライトから逃げる影を捕え、カメラを離し網を構えて振った。

 ガサガサ動くソレはしきりに網を引っ掻き、逃げようと暴れ爪を立てていた。

「うわぁぁ、捕まえたんか・・いやぁぁぁぁ・・」吉田さんは滅茶苦茶嫌そうに声を落とし数歩引き下がって「じゃぁオレ箱持ってくるから、明かりは一つ置いとくからな」そう逃げて行く背中は本当に嫌そうだった。

 捕獲箱を抱えて戻って来た吉田さんは網から顔を背け、ジリジリと捕獲箱の入り口を網に近づける。マニュアル通り網ごと箱を乗せ、ゆっくりと底になった箱の蓋を滑らせるように閉める、最後に網を外し鉄の輪っかだけが残った。

「絶対オレに見せんなよ。鍵も触るな、車の中で逃がしたら冗談じゃなく殴るからな!」

 吉田さんは、顔は明後日の方を向いて近づこうともしない。

 オレは興味からおれはガサガサ動くその動物を箱の隙間から覗いた、赤い目と足と顔が溶けたような鼠がオレを睨み、箱の入り口に前歯で噛み付いた。

!?Q!??「なんなんですか!これは!」腐ってる、それにこの目。

 気持ち悪い。腐った鼠の吐き気を催す敵意と形状、思わず手を放してしまった。

床に落ちた箱は重く、ゴキンッと床をへこませて転がった。

次ぎの瞬間、オレの顔面に痛みが走り敵意を溢れさせた吉田さんが拳を握っていた。

「放すなや!マジで!殺すゾお前ェ!」大声でどなり腰の抜けたオレを睨み、見下ろし怒りで振るえていた。

 思考の停止と追い付かない理解、混乱で動けなかった。

「なん・・だ・・って、やっぱりか。吉田、ちょっと車に戻ってろ」

 吉田さんの大声で原田さんが入ってきた、

「大丈夫か?立てるか?」

 手を差し出された事でようやく頭が働きだす。

重い防護服がより重く感じる、足元の箱で不気味にガリガリと音を立てているソレ、

腐った鼠が檻を噛む音が防毒マスクの中で響く。

「・・なんなんです?これ、普通じゃないですよね・・」

 オレの抱える箱はステンレスで、動物の歯などで壊れる強度では無い。

当然箱の入り口だって丈夫にできているから、落としたくらいで中身の動物が逃げ出す事はない。無いが・・・

「学生さん、オレらの使ってる薬な、認可のされてない物ってのは知ってるか?」

 そう原田さんは切り出した。

 学校法人で購入した薬品は実験などで使われる為、市価より優遇される事がある。

 税金や保管、所持についても教授や学会などの責任有る人間が研究目的で購入するからだ。実際ここの業者も実験目的・検証委託として薬剤を格安で買い入れ、協力費として金も貰っている。

 その中できっちり効果があれば、数値を出してから大学での研究に移る。研究室からすれば、この防虫殺虫作業はあくまでも下地。

 効果が不明で有りながらも毒質の強い物や、適応しない動物なども時々でるのだと言う。

「効果が弱いってたって、毒は毒だ。足が腐ったり肉が溶けたりする事だってある。それでも死んでくれないモノがいたら駆除業者としては上がったりだ。わかるだろ?」

「先生も言っていました。だから完全毒を作る為に、耐性を持った動物を捕まえて欲しいと」でも半分腐ってもまだ生きているって・・

「お前さんは科学系の学生だろ?だったら実験動物の写真とか見た事は無いか?特に犬とか猫とか猿とかの」

 見た事はある、半分爛れ落ちた犬や、ガン細胞を移植され、新薬を投薬され続ける猿の写真とか。生きたまま頭を開かれ、体を開かれ、写真を撮られる。そう言った動物達があるからこそ今の科学薬品や医療があるのだとも知っている。

「有ります、写真とかでは」だから否忌感が吉田さんより少ないのだろうか、何となく今のオレに冷静さがあるのは。

「オレもなぁ、そんで社長も、実はお前さんの先輩なんだよ。だからそのコネで仕事を受けられたって事は黙っててくれよ。一応、学が多少有る無しで職人からの目が変わってくるからよ」妬みとかあるんだよって。

「ははは・・オレはでも・・単位ギリギリの落ちこぼれですけどね」

「オレもそうだった」そう言って笑う原田さんは、軽くオレの背中を叩いて。

「次ぎの現場は捕獲は勘弁してくれ、それで今日は皆で飯でも喰いに行くか!」

「当然驕りですよね、リーダー」はははは、

 ガサガサと動き回るソレを忘れるように敢えて明るく振る舞った。

 帰りは男共で健康ランドに突撃し、ご馳走になった。最後に「悪かったな」と吉田さんが謝って、「オレもすいませんでした」でお互い握手して別れた。


 それからしばらくして、時々呑みに行ったりパチの情報共有とかで連む事が増え、同じ大学のヤツより話す事が増えた。週二回の散布作業以外でも顔を合わせて遊ぶ事もある。

大体はパチと競馬だ。

「今日も外れかよ~~~そっちは幾ら増えた?」

 吉田さんが渋そうな顔で煙草に火を付け、薄くなった財布を叩いて尻ポケットにしまう。片手には缶コーヒー、苛立ちを混ぜた煙草の煙を肺の奥から吐き出してまた煙草を吸う。

 煙草が無ければ体の中のストレスが溜まって台を殴っていた、漢は煙草の煙で怒りを沈め、煙と共に色々なモノを吐き出し我慢を覚えるのだ。

「こっちも負けですよ、大体なんですかアレ設定5って嘘でしょ。いやいや3とか2でしょって話、どんなけ回させるんですかアレ」

 確変が来てようやくこれから、という所で外れを引いて確変終了。

 結局大当たりが2回で最終的にはマイナスの3千、大負けにはならなかっただけで2時間を磨り潰しことになる。

「か~~~コッチは7千の負け・・また明日からも労働に勤しむとするか~~」

 オレは・・学校に顔を出すか、単位も取ら無きゃだし。

「あ~~あ、成田のヤツがいればなぁ~~アイツ、パチだけは負け知らずだったからな~」(パチンコで負け知らず?胴元が勝つように出来ているのに)

 おれは食いつき気味に話を聞いた。

「そんなヤツいたんですか?パチプロですか?パチプロの知り合いがいるならオレにも教えて下さいよ~~」マジで本気で教えてくれ。

・・・・「いや、おまえ。お前こそ成田の知り合いとかじゃねぇの?お前の前に学校から来たヤツだぞ?」

 知らねぇのか?って呆れたように言われても、前任者がいたことすら知らなかった。何年も前から薬剤散布をしているなら、先生に言われて大学からやってきた写真を撮る係り、つまりオレのようなヤツもいただろう。

(口の軽いヤツはお断りって言ってたから、首になったのは多分ソイツか?)

「オレら学生は、学部が違えば繋がりなんて無いですからね~

 オレも最初先生に紹介されただけで、全く知らない状態で連れてこられたんで」

・・でも学内を探せば見付かる可能生は高い。成田だっけか、多分オレの1コか2コ違い同じ歳の可能生もある。(見つけ出せばパチンコ必勝法が聞けるかも!)負け続けのオレにもついに転機がきたのか。絶対探しだしてやる。

「写真とか有ります?」

 普通、男の写真を残す野郎はまずいないが手がかりは欲しい。

「写真ナァ・・あったかな~、もしあったらそっちに送るわ、ラインで。で3人でパチ行こうぜ」んなら今日はお疲れ~~って事で、残った金でラーメン食って解散した。

 その日の夜に送られてきた写真には、笑って写っている吉田さんともう一人、たぶん成田という男が肩を組んで写っていた。

(こんなヤツいたっけなぁ、ゼンゼン記憶に無い、大学の事務局にでも聞けば解るか?)

 学校の手を借りるのは最後の手段、自分で探して見付からなければ行くしか無いが。(先生が何も言わない所を考えると、成田と交友を持つ事にあまりよい顔はしないだろなぁ)

 下手な辞め方をしたか、それとも成田が余計な事を言ったか。どちらにしても人間関係は良くは無い筈だし。

・・・見付からない、大学でパチが強いヤツの噂を聞き回っても、今は学内にいないのか顔を確かめられ無い。写真画面を見せるのが手っ取り早いんだけど、[成田]の[写真]を見せてオレが探している事に気付かれたく無い。あくまで[パチンコの強いヤツ]を探している事にしておく必要性があるからだ。


「パチンコなあ、そんなヤツいたっけ?」オレと同じ馬鹿仲間が首を捻る、博打好きで金に困っているヤツならパチ仲間の情報も確かなハズなのだが。

「・・成田?・・アレか、この前インドとかに行ったとか言う」

 もう一人のヤツが同じ学科を取っていたらしく、成田を知っていた。

「インド?」ようやくヒットしたと思ったらインドだと?

「なんか、自分探しとか。確かラインでそんな事を言ってたっけ?」金も無ぇのに。

「じゃぁ学校辞めたのかよ、えーっとコイツだよな?」

 成田の写真を見せて確認したら、やはり間違いなかった。

「学校辞めたとかは知らんけど、普通休学とかじゃないか?・・そうかアイツパチで稼げるほどの腕かよ、帰って来たらオレも教わろか」

 インド旅行って幾ら掛かるんだ?とかバックパカーだろ?とか、何日間出国しているのかは解らなかったがその内に帰って復学する筈だ。その時に捕まえられる事ができれば、パチンコ必勝法ゲットだぜ!

(・・休学なら、事務局に聞けば解るか?1ヶ月とか2ヶ月とかなら、その内連絡が掴めるな)オレはその日の午後には事務局に顔を出し、白數沢先生の顔が見えない事を確認して事務の男に聞いた。

「薬科の成田くん?・・キミ薬科だったけ?個人情報は開示出来ないって事知らないのか」 やっぱりというか、当然の対応だ。写真を見せても当然弾かれるだろう。

「いやいや、メールとか電話も通じ無くて困ってるんです。貸した教科のノートとか本とか、ヤツが突然辞めたって話しも・・・」

「キミ!その事をどこで!」

 事務の男は目が急に開き、血相を変えて顔を近づけられた。

「やっぱり、連絡がね・・無いからトンズラかま・・辞めたのかって」

(休学じゃなくて辞めた・・問題事とかで起こして辞めさせられたのか?)

「・・・詳しくは言えない・・大学からは、おおごとにしたくないんだわかるだろ?

一応は長期休学としてこちらは対応させてもらっている。私が話せるのは以上だ」

「失踪?なんで?家族は?」インドに行ったとかわどうなったんだ?

!「大事にしたくないと言ったばかりだろ!キミ・・・もしキミが騒ぎを立てないって約束するなら・・少し待ちなさい」オレの肩を押さえて座らせ、男が立ってどこかに行った。

 少し待たされたあと、戻って来た男がファイルを開く。薬学部成田、確かに写真の男だ。年齢もオレと同学年だが真面目そうな顔をしている。

「見せられるのはこれだけだ、メモとか撮影はするな」これは学生が勝手に閲覧した事だと体裁を取って『オレは何も知らない』事にしたいのだろう。

「オレも定年まで働きたいんだ、揉め事とか厄介事は持ち込まれたくないんだ。だから頼よ。キミももう大人だろ?大人・・と言うより社会人の立場も解ってくれよ」

 ××ハイツ・・号室、ヤツの家は学校の近所だった。

(学校は成田の行動・現状に関与しない、学費が入金されなくなった時点で退学にするつもりだ) 

 学校は学費を払わない学生を退学させ、いつから通ってないかなんて解るハズが無いと答えるつもりだろう。

『もしかすると、退学勧告した後で失踪した可能生もありますから』と言われたらそれ以上の大学への責任追求は難しくなる。あとは知らぬ存ぜぬで押し通すだろう。

(結局無駄足かよ。ま、一応ヤツの家に行って見て)パチプロになってたら同じ大学のよしみで話しくらいは出来るだろ。

 つまらない学校生活を辞めて好きな事で飯を食う事にした、多分そんな所か。羨ましい。

 一芸で生きて行けるってのは羨ましい限りだ、インドってのも以外と本当かも知れない。 学生気分を切り替える為に海外旅行、少し早めの卒業旅行って所か。


「んだよ、アイツもかよ。学生ってのはいいよなぁ」

 パチンコで程々に勝って、吉田さんと中華屋で飲み始めた頃だった、二人でビール大瓶を1本、次ぎを待つ間に吉田さんが机に突っ伏した。

「アイツもって・・」学生だから金に困らなくなればバイトは辞める、卒業とか論文テストもあるし就活だってあるからずっとバイトを続ける事は無いだろう。

「オレの知ってるだけで四~五人、あ~あ薄情なやつら共だ」

「薄情って、卒業してからも会えるでしょ」就活にミスってブラック企業に就職した人とか、フリーターで凌いでいる人とか・・

(普通のフリーターとか、オレならやってられんけど)

生きる為の仕方無しに、てのは考えられる。

そんな人間からすれば、高収入のバイトに戻りたいって思ってる人間もいるだろう。

(先生からすれば、[卒業生は外部の人間]って区切ってるのか?在校生しかバイトさせないって考えなのかもな)

「連絡なんてねぇよ、ったく。高卒労働者なめてんな!って話だよ、なぁお前は・・・」

「じゃぁですね、吉田さん。ちょっとアレなんで、先輩達の名前とか写真とかあれば繋ぎ付けますから、それならいいでしょ?向こうの都合が付けばまた呑みましょうよ」

(先輩の中で良い所に勤めている人がいれば、インターンの紹介とか就職の選考に混ぜて貰らえるかも。コネとは違うけど、同じバイトをした仲って事で就職に有利になるかも)

 そんな甘い下心も含めての人間関係だ、持ちつ持たれつだ。少し期待を込めて吉田さんからの連絡を待っ事にした。


 数日後、鈴木・西田・佐藤・後藤・佐々木、何かの書類を写真に撮って送られて来た。深夜に近い時間のメールと添付ファイルが少し気になったが、住所と学部・名前と苗字が解っただけで調べ手間が減ったのは事実。

(つか履歴書?こんなもん写真撮って、あの人なにしてんだよ?)

大丈夫か?ホントに。次ぎの日、学部の使う教室を調べ、何人か知り合いの知り合い程度の顔見知りを探し、

ようやく何人かに声を掛けた。

(赤の他人にいきなり声をかけるのはちょっとな)

・・・・・どういう事だ?佐々木・了、鈴木・大一、西田・孝、後藤・・・

 全員が退学か休学、中途退学で実家に帰ったり病気で入院してそのまま休学している。様々な理由ではあるが、履歴書の写真を送られて来た全員が学校を辞めていた。

(まさかな)とは思ったが、一応成田の家に行って確認したい事が出来た。


 大学に近く、駅と商店街を少し抜けるだけで少し古い感じの通りが続く。狭い道路と汚れたコンクリブロックの塀。電柱に無理矢理付けたような蛍光灯。

普通の3階建のマンション・・少し小汚いが、大学のランクからすればこんな物だ。

大体オレと同じ家賃で四万くらいのワンルーム。

 入り口にあるポストには成田の名前は無く、部屋番号のポストには何かのダイレクトメールやチラシが刺さっているだけだった。

受付も無く防犯カメラもないロビー?を抜け、非常階段を上り、住民に会うことも無く覚えた部屋番号の前まで入り込めた。なんの変哲も無い扉、成田の名前すら無い。

「・・・・」ノブを回し扉を引いて見たが、開くハズが無い。

(ドラマじゃないんだから・・まさかな)扉の横、ガスメーターが入っている扉が見える。錆びていた扉は引いて開けると小さな鍵が、隅っこに隠してあるように置いてあった。

 普通新しい住民が入ったら鍵くらいは換える、だから違うハズなんだ。

鍵は拾ってポケットに入れたが、今日は帰る。なんか嫌な予感がしたからだ。

 週二回だけでも大事な収入源、気になった事はあるが定期的な収入は大事だ。

写真と捕獲、今日も待ち合わせ場所でバンを待ち、今日もバイトに勤しんだ。



 もうすぐ冬が来る空気で多少防護服の暑さがマシになってくる、外ではいつも通り薬剤の散布が進んでいた。薬霧の中で木の葉が地面を埋め付くし、丸い照明が高い星を照らす。

 バタバタと落ちる蛾が地面の木の葉と混じり、しばらく藻掻いて手足を曲げる。

(もう半年くらいか・・梅雨時から始めたんだよなぁ)

 最近は不気味さも慣れて、年上のおっさんとの会話も力が抜けてきたと思う。

煙草を吸う男達に囲まれて、煙草に手を出さないヤツはいないよなぁ。

 最近はパチでも飯でも、間々で始終の煙を飲んで頭の靄を払うようになっていた。

マスクを被る前に一服して、赤く燃える先に吐き出す煙がふわ~と広がる。

 さてそろそろ出番だ、早く写真撮って帰りますかね。

(なんか・・いそう)屋根の感じと周りの木、歩いているだけでバサバサと足元で潰れる枯葉と虫の死体。

 今まで考えた事も無かったけど、家の中で獣が藻掻き苦しんでいるような予感がすると足が重くなる。

 害獣を駆逐する為に毒を撒いている、なら屋敷内で獣が苦しむのは当然だ。

入るのに躊躇していると「疲れてんのか?サクッと行ってサクッと終わらせようぜ」

マスクでくぐもった声が、自分の付けているマスクでさらに声が遠い。

 大丈夫です、カメラを振ってジェスチャーで答え、そのまま扉を開く。

霧はまだ深く濃く、散布者達の足跡が残り床に土が上がって汚れている。

 半年の経験で撮影するような場所は大体解る、台所・床下・押し入れ・トイレの中と前。特に山奥のくみ取り式トイレは蓋を閉めていても、虫とかが上がってきやすい。だから空き家になる前には丁寧に洗い、空にして閉めて置くのだが、ヤツ等は臭いで釣られるのか、それとも湿気かは不明だが大体の場合、発生してしまう。

「次ぎに入居者が決ったら、不動産屋が洗浄するか埋め立てる」らしい。

 そのまま使えば環境基準だかで引っかかる程度の猛毒を散布している、とかなんとか。

知らなくて良いことは聞かない振り・聞いてない振りをするのが正しい判断です。

 窓は閉まっているのに、どこからか入った蛾や蜘蛛が落ちた廊下。

 明かりは背後の吉田さんの懐中電灯と二人分のヘッドライト。これで蝙蝠とか出れば洞窟探検の仮想体験・・ホラーハウスか?全く楽しく無いが、男同士でアミューズメントの始まりだ。

 息苦しいのはマスクのフィルタのせい、視界が悪いのもマスクのアクリルが汗で曇っているからだ。だからと言ってマスクを取れば一呼吸で昏倒する薬品をバラ撒いている。

(将来、下水道とかの点検業務についたらこの経験は生かせるかもなぁ)

・・・やっぱりだ、家の二階で絶対ナニカがいる。薬霧に苦しんで走り回るドタバタ音がし続け止る事が無い。

(吉田さん・・嫌がるだろなぁ・・また殴られるのは・・嫌だなぁ・・)

 背後を見ると、マスクで表情が解らないが絶対拒否のオーラがオレには見える。

「原田さんか誰か呼んで来ます?」

 その返事は[首を横に振る]だった。(依頼主[先生]からの指示だからな、嫌でもやるしか無いんだろうなぁ)

 さっさと済ませて風呂入って酒飲んで寝る、それしか無いだろう。

 オレはイヤイヤながらも網に持ち替えて正面に構え、吉田さんの照らすライトに合わせて二階への階段に足を掛けた。

 ギシギシと鳴る階段を重い鉄板の入った靴が、ゴトッゴトッと音を立てる。丁度四歩目か五歩目の階段を上がった時だ。

 バリッと何かを破る音と壁を蹴るような重い音。ソイツは両の目でライトを反射し、赤い光りと黒い塊となってオレの上を跳んだ。

 オレが反射的にしゃがんだのかも知れない、

それでも瞬きほどの時間が何秒にものびて感じた。「ウワァァァァァ!!!!」

 黒い塊が倒れた吉田さんのヘッドライトに覆い被さり、叫び声と同時に時間が動きだす。

オレは網でソイツを振り払う、途端に重くなった柄を押さえ付け、体でのし掛かるように網を取り押さえる。

「吉田さん!吉田さん!」大丈夫ですか、と言おうとしたのか、誰かを呼んで下さい!と言いたかったのかは不明だ。ただ一瞬、錯乱し逃げ出した吉田さんのアクリルフェイスに付いた何か黒い物が見えた気がした。

 腹の下で暴れる動物は、分厚い防護服越しには大型の犬と同じ、警察犬が犯人を引っ張るような力でオレを持ち上げ、引き摺って歩く。

 ズリッ、バタン、ズリッ、バキッ、ソイツが体の骨を折りながら足を動かし、床に爪跡を残し体液が道を作っている。

「マテッ!待ってって!コラ!」動く前足を手で押さえ、頭を床に叩きつけた。手には石を殴ったような堅さの感触があった。

 なにをしても止らない怪物は、徐々に廊下を進み便所の前までオレを引き摺った。

マズイ、引き摺り込まれたら。

 袋が外され、自由を取り戻したコレと便所の中で戦うなんてできっこない。

(逃げられる)それだけはなんとかしなければ。おれは夢中で体重をかけ、押しつぶしても逃げられるよりマシなつもりで力を込める。

「お~し、待ってろ!よくがんばった。もうチョットだ」

原田さんの声と二つの光り。

多分、西田さんが大型の捕獲箱をもって来てくれた。

 助かった、とはその時は思わなかった。とにかく霧中で力を込めていたから気が付いたのは、「ようやった、大丈夫か?」と、はたかれた時だった。

 オレがヨロヨロと車に帰って来たときには捕獲箱はバンの後に詰められ、発電機も照明も撤去された後だ。

「今日はもう終りだな、お疲れさん」手渡された封筒には三万とちょとが納められていた。「吉田も今日はもう無理のようだし、まぁ今日の手取りは半分になるけど学生さんは明日には十万付くからいいよな?」

 精も根も尽きかけたオレは頷く体力しか残っていなかった、その後はほぼ記憶が曖昧で多分近くの駅まで乗せられ、呆然と電車に揺られて帰っていったのだろう。

 翌朝、体は軋み頭は霞む。手元にあった煙草を咥えて火を付け煙を肺に入れ、甘苦い煙と脳が弛むような感覚でようやく目が覚めてきた。

(・・十万・・そうだ十万だ、白數沢教授から十万貰わないと)

 急いで顔を洗い、飛び出るように玄関を開け大学に走る。飯は後回し、とにかく金を貰ってそれからゆっくり頭は使えばいい。

 時計も見ずに起きたので、携帯の時計は九時チョットを指している。少し所か、かなり早い、早かった。ゼミ教室に着くまで気が付かず、扉を開けた時に無人の部屋を見て、ようやく気が付いたのだった。

(・・少し待たせて貰うか・・珈琲くらい良いだろ)勝手知ったる部屋だ、インスタント珈琲の場所は知っている。お湯を沸かすポットの場所も、カップは使っても洗えば許して貰えるだろう。多分オレは何も考えず、起き抜けの頭は本能的に動いた。

 珈琲の粒をカップに入れ、お湯が沸くまで少しイスに座る。

 ブツブツとポットが音を立てる向こうで、微かな異音を耳が拾った。

本来なら学生の声や教室の雑踏で掻き消される程度の僅かな音だ。

 頭が真っ白でないと聞き分けられない程の囁くような小さい音。

 その時はただ待つ時間だった。暇だった、ただの無意識だ。

椅子から浮いた腰は、その僅かな音に向かって足を動かし、ロッカーの前で止る。

(・・ロッカーの中に何かいる?)

 確かに目の前、鉄のロッカーの中からコソッ・コリッと・・?僅かだがプチップチッと不快な咀嚼音が混じって、一歩身体が引いた。

 息を殺し、ロッカーに耳を押し付けて見た。オガ屑で鼠を飼っているような臭いと動物の動く気配、(複数の物がいる・・それになんだ?)距離がおかしい。

ロッカーの扉はペラッペラのスチィールだ、当然音だって直ぐ近くに聞こえるハズ。

ソレなのに音は遠くから、トンネルのような場所から聞こえてくる感じだった。

 !!!、耳を離し、カップをそのままに教室から飛び出した。

(違う、アレは違う、気のせいだ!)

動物の行動音に混じった人間の声に似たモノ、喋る鳥とかラジオとか・・イヤ違う。

オレの頭はまだ眠っており、幻聴だ幻聴が聞こえたんだ。

・・・・・

 ポケットの中にクシャクシャに潰れた三万が有る、腹と頭に栄養を詰め込めばきっと目が覚める。そう思って近くのファミレスで肉とピラフを頼み、ドリンクバーの珈琲で舌を起こし、アイスコーヒーで頭を冷やす・・・

(やっぱり気のせいだよな、そんな事・・無いよな)

 頭に浮かんだ[人体実験]の単語を掻き消すように氷を噛み砕き、バリバリと氷りが弾ける度に頭と腹が冷えてきた。

(防虫駆除で人体実験?そんな事する必要が無いだろ?)

 必要の無い危険を選ぶ馬鹿はいない、それに教授だろ?頭がいい代表がそんなリスクを負うかよ。毒の効果だって、現在は致死量くらい簡単に解る。

ネットを探ればどこかに出ているハズだ。アレはあの声はラジオか携帯か、とにかく気のせいだ。

(あのロッカーに人が?入れようとすれば入るだろうけど、そんな事に意味が無いだろ)誰かがオレを脅すつもりで入っていたなら、一晩中入っていた事になる。

それこそ馬鹿馬鹿しい。

 ピラフをかっ込み肉を噛み、最後に珈琲をすすれば十一時になっていた。

(金貰ってパチでもやるベ)それで全て忘れるんだ、何も考えず玉を弾いてジャラジャラさせれば全部忘れられる、世の中はそんなモノだ。

・・そう言えば写真、送るのを忘れてた。次いでにゼミに行く時間も入れてメールを送る。

あとはゆっくりと、ノロノロと歩いてゼミの教室に顔を出せばいい、それだけだ。

「やぁ、思ったより遅かったね。ご飯でも食べてたのかな?」

 白數沢先生が机から取り出した封筒を取って差し出す、「ありがとうございます」疲れたように頭を下げ・・そのまま教室を後にすれば良かったと後になって思う。

「あの・・あの動物って・・」どうなるのですか?等と口を開かなければ。

「ん~ん?実験動物に興味があるのかい?・・・そうだねぇ君達みたいな人達は好きだからねぇ[洗い熊]って可愛いから」

 特定外来種の中でも凶悪な生物、河川の噛み付き亀・池湖のブラックバス・そして森と里の洗い熊の三種は今なら子供でも知ってる。

(アレが洗い熊?そんな可愛い物じゃなかった)

「まぁ可哀想だけど、この国に来た時点で彼等は外敵だよ、駆除するしか無い相手だ。薬耐性も強いし本当、僕からすれば好敵手に違い無いね」

 毛を剃って肌に直接塗ったり、口から直接吸わせたり、目だって開かせて吹き掛けたり。

色々するよ?その後は解体して細部まで調べるんだ。

・・・・

「そう嫌な顔をされてもね、キミ。まずキミ達が薬を散布した生き残りだよ?命を奪っている数からすれば駆除業者の方達の方が沢山しているだろ?」

 ハイ、オレは頭を下げながら、一瞬ロッカーの方に目が行った。今は沈黙して音も聞こえない、やっぱり気のせいだったのだ。

 そうしてオレは封筒を受け取り、そのまま家に帰った。

30分近いシャワーで臭い、獣臭と身体に張り付いた疲れやらイヤな物をとにかく洗い流したかったから。

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