かの地より
第42話 仲間と共に
飛行船襲来事件から3日が立った。火の消火は2日で治まったが、飛行船の残骸の回収や、建物の修復には1か月以上がかかるだろうと学長のアナウンスでアカデミー内全体に周知された。
飛行船襲来事件について、首謀者であるユカ・ローニスの死亡は確認されたが、同時に起きたヌゥスの球体が盗まれた事件では、球体を盗んだ張本人のディミル・シューバートが落ちたとされるアビスの穴の捜索については早々に打ち切られた。アビス自体が捜索困難なのもあるが、ヌゥスの球体については存在そのものが秘匿対象のため、死の根が極秘に引き継いで黄のガーディアンの残党狩りやディミル・シューバートと共に落ちたとされるヌゥスの球体回収を行うことになった。
この裏の事情はアティア・ステイスがマーディに教えてくれたものだった。アティアによれば、マーディには知っておく必要があるとのことだった。事の顛末まで知っておくことは関わった者の責任だと、珍しくアティアは真剣な表情で語っていた。
「これだな」
マーディアス・グローは倉庫になっている部屋から作業用手袋を3人分手に取ると、埃が蔓延している部屋から逃れるように部屋を出た。
「よう、マーディじゃねえか」
「やあ、マーディアス」
カーリス・メティとトウマ・グレンの2人がアカデミーの本校舎方面の廊下から歩いて来たところに、マーディは第3雑務部屋から出てすぐに出会う。
「トウマ、カーリス。入学式以来だな。武器を携帯しているのは、これから作業ではないということか?」
マーディの疑問に、トウマは答える。
「その通りだ。アカデミー復旧に人手が足りないのに外せない任務があってな。2人で行くところだ」
トウマの肩に肘を乗せながら、カーリスは言う。
「ま、そういうわけだ。アカデミーの事は任せたぞ、マーディ」
「わかった。2人が帰ったころには見違えるような場所になってるよ」
頼もしいなとカーリスは言うと、マーディは今から作業だからと二人の元を去ろうと歩き出す。そして、後ろから再びカーリスに声を掛けられ後ろを振り返る。
「マーディ!」
「何だ、カーリス」
マーディは呼び止められて返事をすると、カーリスは一瞬頭を掻いて言い淀むが諦めたように口を開く。
「お前はよくやってる。いいアカデミー生になるよ。きっと」
「だといいが。優秀な先輩たちのおかげかもな。こっちも感謝してる」
「口が上手くなったな、マーディ」
「もう行け。しっかりやれよ」
トウマとカーリスに手を上げると、マーディは本校舎の玄関に通りかかる。
玄関の扉を開けようとする時、後ろから声がかかる。
「マーディー!」
ロミ・クライセスが元気な声でこちらにやってくる。その後ろでゆっくりと歩きながらついてくるリーゴ・トミナの姿もあった。
「よう、マーディ。お前も復旧作業か」
「ああ、同じパーティのレカとラキリの3人で飛行船の残骸回収だよ」
「残骸回収かあ。そっちの方がよかったねリーゴ。こっちは燃えた個所の掃除だよ。もう煙たくて大変!」
「まあな。こうやって汚れるからな」
言うとリーゴはロミの黒く汚れた個所を布で拭う。
「お互い頑張ろう。じゃあ行くよ。2人も待ってるし」
マーディは言うと玄関扉を開ける。
「またねマーディ!」
ロミの大きく手を振る仕草と、片手を上げるリーゴの姿が扉が閉じるまでマーディの視界に入った。
そして、アカデミーの前庭にある桜並木をマーディは通ると全身鎧の生徒会長と同じく全身鎧の黒くくすんだベレグラムに、その二人の間に挟まれたバザ・ユガルタが立っていた。
「3人で何やってるんだ?」
2つの鎧と、その鎧の前でしゃがんでいたバザ・ユガルタが気になりマーディは声を掛けた。
「マーディ・・。生徒会長が・・張り切って・・飛行船の残骸を・・運ぶから。・・鎧に負荷がかかって」
「ちょっと動きにいつもの調子が出ないのだ、マーディ」
「やれやれ、やはり生身で作業をするしかないのではないか?生徒会長」
呆れるバザに、提案するベレグラム。その2人の言葉に兜で横に振る生徒会長だった。
「か弱い生身でやるより、動きが調子の悪い鎧でやった方が効率はいい。お前もそう思うだろう、マーディ」
「俺に言われてもな。たまには生身で動くのもどうなんだ。生徒会長」
「ほら・・マーディも・・言ってる」
「やれやれ・・。マーディ、お前のマカイの助力に少しは噛んだのだ。こちらの味方をしても罰は当たるまい」
「確かに、それにはもちろん感謝してる」
マーディの言葉に、生徒会長はバザとベレグラムの2人にほらみたことかと言わんばかりに両腕を組む。
「しかし、たまには外に出てもいいんじゃないか。今日は良く晴れてるし」
「っだそうだ。生徒会長殿」
マーディに続くようにベレグラムも口を開く。
「悪いが断る。私は汗をかくのが嫌なのだ」
「本音が・・出たね・・。やっぱり・・そんな事だろうと・・思った」
生徒会長の本音に、バザは言うとため息を漏らす。
「じゃあ俺は行くよ。生徒会長、たまには素直になるのも悪くないと思うぞ」
マーディの言葉に、笑うように生徒会長は兜から息を漏らした。
「言うようになったな、マーディ。アカデミーに来た頃は、そんな余裕はなかったな」
「人は変わるよ。良いようにも、悪いようにも。できるだけ、悪くないよう生きるさ」
マーディは言うと、桜並木を後にした。
「これから作業か、マーディ」
「今日はよく、声を掛けられる日だな」
アティア・ステイスに声を掛けられたマーディは思わず口を開いた。
「そうなのか?まあ、復旧作業でみんなストレスがたまっているんだろう」
「かもな」
「マーディ。昨日も言ったが、ディミルの遺体はまだ見つかっていない」
「そうか・・見つかるといいが。アビスの捜索は難しいんだろ」
「まあな。それよりも、お前は大丈夫なのか?ディミルの暴走や、今回の襲撃事件もユカ・ローニスの仕業だった。ユカの遺体は発見されたがな。お前は2人とも交流があっただろう。気が滅入ってはいないか」
アティアの言葉に、マーディは一瞬間を開ける。そして、目線を僅かに空中に向けると、再びアティアに視線を戻して言った。
「俺が転生して、自分自身や周りが神技で振り回された。しかし、今は神技を使えない。それが現実だ。それ以外にない。俺は、自分のマカイで、アカデミーを生きていくさ。それが俺の、生きる道だ。そうだろう?アティア」
マーディの真っ直ぐな瞳の言葉に、アティアはニヤっと口元を歪める。
「人に聞かなくても、マーディ。もう、お前は覚悟して決めてるんだろう?アカデミーで生きると。もう、お前は神技使いではない。アカデミーの生徒として、頑張れよ、マーディ」
「頑張るさ、アティア。お前も、色々あるんだろう?テリートの件もあるしな。今まで、頼りっきりだったが、今度は俺が恩を返す番だ。色々な人たちにな。その中には、お前もいる」
「そうか・・。なら、肩でも揉んでもらおうかな」
「それで恩を返せるなら、やってやる」
「また今度でいい。ほら、2人が待ってるぞ」
アティアは飛行船の残骸の前で待つレカとラキリを指差して言う。
「じゃあな、アティア」
マーディは言うと、2人の待つ場所へと走っていった。
そして、アティアは笑いあうマーディ達を見て言った。
「待たな、マーディ」
異世界アカデミー 屋根の上で転生されていきなり襲撃されたが、神様にもらった力で反撃したらなぜかアカデミーと呼ばれるところに入学することになった。 一都 @umisora100
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