終焉

 あの、動画を見たのは、偶然だった。

 ふざけた動画だと、思った。

 その当時、問題になっていた、事件を解決する為に、動画配信サイトで、動画を調べて居た。

 國の官僚が、ある、有名動画配信者の。麻薬取引、殺人の容疑で、逮捕され、起訴された、事案で、その裁判官をする事になっていた。

 その男の、動画を一通り確認し終えた、後、新着動画に、奇妙な、動画が、投稿されていた。どうして、あの時、再生ボタンを押して終ったのかは、分からない、不思議な引力に、引っ張られたような、感覚だった。

 普段は、動画など、見ないし、勉強と、仕事で、忙しいのだ。

 しかし、その新着動画が、どうした、訳か、目に留まった。

 押してみると、衝撃の動画は、始まって終った。

 あれは、悪い悪戯だ、と言い聞かせたが、未だに、あの、映像が、頭から、こびりついて離れない。

 奇妙な、事だ。そんな、事が、有るはずが無い。

 どうして、人間の背中に、鳥の羽が生えているのか。

 どうして、核融合炉が、実現している、その、実用映像が、流れているのか。

 あの、遺跡の様な、奇妙な、場所は、何処なのか。

 そもそも、あれは、この星なのか。

 奇妙だった、生命の始まりをお見せしましょうと、いって、小さな、種の様な、ものを、ポケットから、取り出した、男は、此のポケットの中には、大抵のものは入る、異次元ポケットだと、言っていた。

 そのポケットの中から、出した、種は、成長して、一人の人間になった、顏には、モザイクが、掛けられていた。

 男は、言った。

 「どうです、生命の始まり、ですよ。」

 と、いって、拍手していた。

 気味が悪かった。

 男は、イリマエル地方アルテ、サエルの地に、其の遺跡は、ある。

 と、語り始めた。

 其処には、自らの種である、八咫烏が、かつて、この星に、残した、文明の残骸だ、八咫烏は、人類以前に、この星に、繁栄していた、が、度重なる、気候変動により、絶滅した、生き残った、八咫烏は、ごく少数であり、その当時の記憶を忘れていた。

 そう、此の遺跡の事も、忘れていた。

 其れは、あの十五億年前の、巨大隕石の落下と、寒冷化、この星が、氷付いた事、宇宙からの、宇宙線による、遺伝子レベルの、被害により、生体としての、記憶、能力を失っていたからである。

 そうこうしている、間に、恐竜が栄え、絶滅し、その後、ほ乳類が、栄え、遂に、忌まわしき、人類が、生まれた。

 人類は、我々、八咫烏と、同じ、二足歩行であった。

 其れが、どれほど、憎たらしかった事か。

 八咫烏、は、人間には、想像も及ばぬ身体能力を持つが、科学技術は、持ち合わせていなかった、そして、残虐な、争そい、を、好まなかった。

 そう、八咫烏は、領土争いをしなかった、八咫烏は、仲間同士で、殺し合う事は、無かった。結婚は、しなかった。奪い合いが、存在しなかった。

 「其れが、人間と、いう愚かしい、生き物との、違いであった。」

 しかし、人間は、徐々に、我々の住む土地を侵略していった。

 其れでも、八咫烏は、人類を、舐めていた。そう、子供の遊び程度に、おもっていた。

 大空の上から、人間を観察していた。

 その記録が、太陽の鳥と、して、未だに、記録に残っている。

 太古の人類は、我々を崇めていた。

 しかし、未だは、誰も信じるものは、いない、どころか、科学の発展により、我々の住む場所を、奪おうとさえ、している。

 一部の人間の間では、八咫烏狩りと、いうものさえ、行われているようだ。

 しかし、残念、だ今の人類の技術では、我々と、捕らえる事は、不可能だろう。

 忌まわしき、qiaの存在と、LLLの閃光さえ、生まれなければ、我々は、こんな行動にでる必要など、なかったのだ。

 人類は、我々の存在を上回る存在を、発明しえた。

 それは、我々の生存を脅かすものであった。

 ゆえに、我々は、科学を始めたのだ。

 かつて、文明のあった、遺跡で、我々は、思い出した。此の翼が、我々の発明品であり、遺伝子操作により、発現させた能力であった事を。

 生命進化を促す、装置により、能力を飛躍的に向上させてきた事を。

 遺跡には、今、生き残りの、八咫烏が、集まり、人類への、警告を行っているのだ。

 「我々に、逆らうなとな。」

 一般市民に危害を加えるつもりは、ない。

 害悪な、人間を除去し、正常な、世界にならす、其れが、我々の使命である。

 そうして、人類を導くのだ。

 

 思い出していた。あの衝撃の映像を、到底CGだとは、思えない、現実味のある、映像を、しかし、現在は、ディープ・フェイクの動画が、増えてきている、其の為に、あれらの映像は、偽りかとも、何度も、頭を悩まされた、が、その後の報道で、理解した、此れは、世界政府が、隠蔽する程の、事なのだと。

 私は、必死に勉強し、検事として、仕事をやって来た。

 今年で、31になる。

 「どうですか。信じて貰えますかね。」

 「ふむ。貴方の証言は、事実と、一致しています。公には、なっていませんが、八咫烏は、存在しますし、月兎人などという、生命体も、存在します。其処に居る、射瑠間が、その月兎人です、あの耳が、その証拠です。閃光という、量子コンピュータの存在は、確認されていますし、遺跡につきましても、そこの、志郎が、発見しています。」

 羽子は、淡々と、説明した。

 その程度の情報か、犯人の身体的な特徴は、ないのか。犯人だと、睨んでいる人物が、いる、しかし、確証が、持てない、のだ。

 「貴重な、情報をありがとうございます。」

 羽子は、そう言って一礼した。

 「ああ、よかった。此れで、私は、この事を、誰かに、伝える事が、出来ました。」

 責任感の強い、女だ。

 「そうですか。其れは、よかったです。」

 分かった事は、此れから、アルテの聖地サエルにある、という、遺跡に行く事だ。恐らく其処に、犯人は、現れるだろう。

 どうして、犯人は、いなくとも、八咫烏の誰かがいる筈だ。人間と見分けられるのかは、分からない。

 「アンさん、どうです。我々と遺跡に行きませんか。丁度、八咫烏を見た事が、有るのは、アンさんだけですし。」

 「私が、力になれますかね。」

 「ええ、全くなれますよ。是非、同行を願います。」

 「わかりました。この事件を解決させましょう!!!。」

 しかし、そうはいっても、あの国は、危険地帯で、恐ろしい。紛争地帯だ。

 命の危険性がある。

 「危険でしょう・・・、あ、そうだ。このマントを使うといいですよ。」

 射瑠間は、透明に成れる、マントを渡した。

 「ほう、凄い技術だ。」

 「工藤家の英知を結晶化させたような、代物ですよ。」

 工藤家の叡智か。

 「そう言えば、メノスの、情報技術工学者の、一色 綾太郎とか、いう奴が、作ったんだったな。」

 「はい」

 この話は、射瑠間が、探偵事務所に、訪ねて来て、アンが、来るまでの間に、聞いた、話だ。

 「和香、此れ来てみろ。」

 和香に其れを、投げる。

 受け取った和香が、其れを、着る

 和香は、消えた。

 「ほう。全く見えない。かつ、探知もできんな。」

 此れが、工藤家の叡智か。

 

 知らない。

 どうして訳か、この、者達と、アルテの、サエルに行く事になった。死亡フラグが、付いている。そもそも、あの、土地は、生きて帰って来られる場所では。ない。先進国家を毛嫌いする、アルヨル過激派は、そういった人間を見つけ次第、直ぐに始末する。

 更に、年がら年中、殺戮と、自爆テロが横行しているのだ。最悪だ。

 しかし、検事としての、プライドが、私を駆り立てた。

 そうだ、やるしかないのだ。そう思わせた。正義の為だと、そう思わせれる。

 驚いた事に、工藤家は、透明マントを開発していた、らしい、この様な、技術が確立されているとは、おどろいた、光学迷彩のような、ものだろうか、人間の認識を曲げる技術らしい。

 探偵事務所の人間は、ちゃんと、した、人達だった。只、気がかりもある。

 

 アンを連れて、五人で、アルテに行く事になった。

 羽子、朱未、和香、射瑠間、アンである。

 どうにか、誰一人、犠牲者を出さずに、目的を果たす事が、できるよう、最善を尽くす所存だ。

 アルテ行きの飛行機に乗って、サエルを目指す。

 サエルは、入国制限のある、土地だ。

 入国には、国からの、許可が。必要になる。

 飛行機のテロについても、アルテ行き、の飛行機には、注意が必要だ。

 人が死ぬことが、日常化した、世界だ。

 平和活動化の、仲良し団の、エリスという、謎の女は、そういった戦争を仲介する、仕事をして、全世界から、目の敵にされて居る。

 ま、そんな、女、今回の事件に、繋がりが、ある訳では、ないが、彼女は、国の利害を無視した、中立の考えで、過激派、を鎮め、戦争を止めた。

 あれは、二百年前の事らしい。

 その女は、戦争を嫌った。

 罪なき子供が、死ぬのを、嫌った。

 戦地を駆け巡り、王と謁見し、話を付けた。

 過激派と、会談し、話を付けた。

 しかし、彼女が、死んだ後、世界は、大戦争を始めた。

 

 八咫烏は、彼女の事を知っていた。

 エリスだ。

 かつて、の戦いで、八咫烏は、エリスが、世界を平和に導いた事を知っていた。

 天空の大空の上から観察していた。

 そのエリスの最期が、彼女の親友からの裏切りで、あった事を、其の為に、精神を病んで自死した事をしっていた。

 精神乖離性の病に、悩みながらも、世界を救うために、己の分身を作りて、未だ、この世界のシステムになって終た、悲劇の少女を知っていた。

 八咫烏と、言えども、エリスの分身体に、は、手も足も出ない、だろう。

 しかし、問題は、そうでは、ないのだ。

 エリスは、世界に干渉しなくなった。

 其れは、二百年前から、そうだ。

 私の祖先は、そう、記録しているし、恐らく、そうなのだろう。

 人類は、みるみる、力を付け、我々の生存を脅かす迄になった、そうだ、我々が、世界を統治しなくては、ならないのだ。

 争いのない、平和な、世界を創るために、だから、事件を起こした。それだけだ。

 全ては、未だに解明されていない、高校生自殺事件と、三日月 ノヨラの存在だ。

 あれより、人類は、急速に、科学技術を飛躍させた、あの日何が起こったのか。

 八咫烏は、その日より、人類の科学技術を、盗み、学ぶ事を覚えた。

 学ぶにつれて、その技術の恐ろしさに気が付いた。

 そして、危険を感じ取った。

 此れ迄、世界で、敵のなかった、八咫烏は、人類を初めて、天敵で、あると、認めたのである。

 それより、八咫烏は、人類社会への進出を測った。

 LLLコーポレーションと繋がり、科学技術の一端を知った。

 古代遺跡を回り、かつて、いたと、される先祖の失われた、科学技術を会得した。

 そして、決心したのだ、謎の勢力として、世界の悪を裁いて行こうと。

 「〇〇〇さん。どうなんです。世界へ向けて警告は、出来たんですか?。」

 「うーむ。どうやら、世界政府の方が、嘘の情報を、人類に報道しているらしい。此れでは、我々の存在が、人類の記憶に刻まれそうにないな。」

 「そりゃ、不味いですぜ。不要な殺傷は、よくないでしょうぜ。」

 「そうだね。」

 そうだ。

 此れ迄、罪のない人間を殺してきた。

 腐敗しら、政治家を殺害し、悪に鉄槌を下して来た。が、その情報は、全て、偶然の事故で、片付けられてしまっている。

 世界政府、その存在、その内部は、極秘事項。誰が、一体何のために、作った組織なのか、さえ、分からない。何千億年、昔から、あるという、丁度人類が、生まれた、その頃より、存在するのだ。

 我々、八咫烏は、その存在に、、気が付いた頃には、最早、巨大化した組織となっていた。いつの間にか、発足していたのだ、八咫烏が、この地に、誕生したころには、無かった。

 政権は、世界中から、人を募り、組織として、世界の利害関係を調停してきた。

 絶大なる、力を持つものだ。

 世界政府の存在は、全世界に知れ渡っているが、その実態を知るものは、ごく僅かだ。本部の場所も、誰が、運営しているのかも、其処を探して、たどり着けたものも、いない。

 有能な、人間を勧誘しに、来るのだという。

 口封じに、呪と、呼ばれる、何かが、施されているらしい、其れによって、秘密を話そうとすれば、死ぬのだ。

 この情報は、政府の内部から漏れ出た情報だ。

 世界政府の中に、政府の裏切り者が、いるのだ。

 そいつを、味方に出来れば、政府をコントロールする事、さえ、可能になるのだ。

 アルテ過激派の人間とは、もう、パイプもある。

 もう、少しで、世界の、裁判官になる事は、可能なのだ。

 死神として、悪を、懲らしめる事が、可能なのである。

 「生物は、所詮生物だ、神真似事なんて、バカらしいね。」

 「神ね。神など、存在しないさ。力だ。どうにもならない、力で、悪を裁く、というだけだ。」

 悪とは、何なのだろうか。

 政府の裏切り者、其れが、流した、数少ない政府の情報だ。

 裏切り者は、どうして、政府を裏切ったのか。

 その、裏切り者には、どうして、呪の効果がないのか。幾らか、不可解な点が、多い。

 裏切り者と、接触する事となった。

 裏切り者は、梟の覆面を被っていた。

 そいつは、世界政府の幹部だった。

 「君が、八咫烏の〇〇〇か。よく、やってくれているそうじゃないか。」

 「ああ、どうも。」

 「世界政府なんてのは、見せかけだけさ。大した力もない、もともと、あれは、当時の呪術的な、宗教団体から、始まった組織だったのさ。徐々に力を付けていき、世界の利害調整をする、までに、至った、其れだけの組織、大した技術がある訳でもないのさ。」

 ・・・・。

 「政府は、常に中立だ。物事を公平に、判断し、戦争を調停してきた。二百年前エリスが、世界のあらゆる、争いを調停したのは、知っているか?。しかし、彼女が、死んで後、直ぐに戦争

は、再開した、あの戦争は、終わりそうになかった、其の為に、利害関係の調停と、して、この組織は、動く事になった。あの時、世界の首脳は、そうなるように、議定書を書き、条約を結んだ。誰も知らない話だ。どうして、この組織が、其処迄の力を持つのか。其れは、歴史だろう。何か、如何しようもない事が、あると、人類は、世界政府の名を口にし、幾千年続くこの、政権に、判断をゆだねた。其れが、もっとも、公平な判断と、なるからだ。政権は、武力も、科学技術も持たない。只、政府のには、優秀な人材が、揃っている、あのエリスは、政府の人間だった。そして、秘密を話せば、死ぬ。ま、私は、全く秘密が漏れないのも、よくないと、思って、幾らかの情報は、漏らしていたのだがね。」

 「はあーん。あんたが、その、情報を漏らさないシステムを作ったわけだ。」

 「まあ、ね。」

 「それで、八咫烏に何の用だ。」

 「単刀直入に言うが、辞めてくれないか。無暗に、暗殺をし、世界を変えようとするのを・・・。」

 「其れは、出来ない、八咫烏は、人類の上に立つ。」

 「しかし、だな。政府は、其れを許さない。此れ迄の秩序が乱れるからだ。どうか、目を瞑っては呉れないか。」

 「ああ、できない。」

 「そうか。わかった。政府のあの装置が、動き出すかもしれぬ。覚悟しておく事だな。此れ迄の歴史で、あの装置に対抗できたものは、誰一人としていない。」

 「忠告ですか、ありがたいものです。しかし、何、我々の古代文明は、人類など、取るに足りない、ものですよ。」

 「君たちは、人類の起源を知らないようだね。人類というのは・・・。ん、これ以上は、よそう。その時が来れば、全てが、わかるさ。」

 

 時計の針を見る、そろそろ、時間だ。

 私は、駆け出した。

 全てを終わらせるために。

 

 「其れで、志郎、御前、知り合いに、ベルナードの幹部がいるんだろ。そいつ等に護衛をお願いしよう。」

 羽子は、志郎に、護衛をお願いをする。

 「ああ、私が、アルテの、サエルに行ったとき、知り合った、ベルナードの男 アオギリ・アッタフィと、その女アルファ。そいつ等を介して、ベルナードの、新しい、棟梁、ジレヌス・バグタッドと、知り合った。」

 志郎は、諜報活動の天才だと、改めて、実感させられた。

 「お手柄だな。只、奴らの、思想は、危険だ。飲み込まれないように、注意する必要がある。」

 「分かっているさ。」

 志郎は、鼻で笑ってみせた。

 アンは、おどろいていた。

 アルダー国が、悪の勢力として、厄介がっている、アルテの国に潜り込み、そのあくの元凶である、過激派の人間と知り合いになり、新興を深めるだなんて、其れは、エノール平和賞なみの偉業である。

 其れを、した、人間が、所属する、探偵事務所なんて、前代未聞の軌跡だ。 

 世界には、厄介者が、存在する、クズの様な、政治で、人の上に立つ、腐れ外道が、存在するのだ。

 「正義も、糞も、ねえ。腐れだ。知ってるか、信じる教義も、糞のねえ、んだぜ。己の私利私欲の為だけに、国民を食い物に、する、悪さ。」

 悪人に、騙され、市民権を奪われる。

 倫理観の欠如した、人間の、建てた国家に、未来は、ない。

 「どの道、反乱が、起き、滅びるさ。大義となる、夢に魅力が、無さすぎるのだ。」

 志郎は、そう言って、冷徹に、隣国の将軍を批判した。

 「ああ、白石しらいし国の事か。」

 白石国、厄介な、弱小国家だ。

 世界が、その気に成れば、一捻りで、壊滅させられる、小国だ。国々の利害関係に挟まれ、二つの国家に、分裂した、半島だ。

 「弱輩者の、集いさ。」

 羽子は、吐き捨てるように、言った。

 しかし、もはや、あの半島も、史畏莫国に征服された。

 史畏莫国が、あの半島を征服したのは、二年前の話だ。アルダー国は、それに激怒したが、成す術はなかった。

 その史畏莫国も、今では、アルダー国の、支配下だが。

 其れより、あの半島に、かつてあった国は、なくなった。

 無くなる寸前に、拉致被害者を救出した奇跡の少年が、入ると、ニュースで、報道された事が、あった、あの少年とは、志郎の事である。

 志郎は、様々な、紛争国家や、独裁国家に、忍び込んでは、その悪を内側から、崩して来た。 

 「ま、白石国は、もう、滅びた国だ。かつては、厄介な奴が、アルダーや、エミールとの、外交に利用され、お互いをけん制し合っていたが、あの時代が、終わって後、史畏莫国が、殲滅した。」

 島国連合は、一人の王を置いて、後、大統領制に移行した。

 絶大な力を持ち国、は、アルダーと、史畏莫国でありその他の国家は、そのお飾りに過ぎない。勿論人の命もだ。

 異民族を歓迎し、受け入れるなど、は、戯言に過ぎない。他種族と仲良く出来る人間など、出来過ぎた人間だけだ。

 話が、脱線しだが、志郎は、相当な、スパイとしての、諜報役としての、才能があると、言う事である。

 志郎が、スパイとしての、才覚を露わに、したのは、羽子の知っている限りでは、小学五年生の頃、大学生を偽り大学に通っていた。政府の役人を名乗って、国の中枢に忍び込んだ。

 彼に関する、逸話は、数知れない。

 人質を取る、などと、言うのは、酷い事だ。弱い者を、利用し、強き者を、脅す、此れが、どれほど、陰湿な事か、わかるだろうか。

 大切な人を、国民を、拉致監禁し、外交に利用する、のは、悪魔だ。

 突然、ある日、見境なく、狙われ、連れ去られた、被害者の気持ちが、分かるだろうか。

 人権も、倫理もあったもの、では、ない。

 戦争は、酷い事だが、連れ去られる事は、其れとは、違った酷さがある。

 自分の国の事は、自分で、自分の国で決めべきだ。他国の、大切な物を盗んだのは、誰だ。大戦争の惨禍を、水に流せず、平和な時代に、戦争時代の征服されていた時代の、恨みを晴らさんと、執拗な、嫌がらせ、が始まるのだ。

 

 アルテ行き、の飛行機に乗り、サエルに、進む。

 空は、長く、広い。

 テロが、行われぬように、厳重な、警戒が、されて居た。

 厳重な、警戒の中、進む、飛行機は、異様だ。

 十二時間後、アルテ国際空港に降り立った。

 国際空港にて、偽造パスポートを、見せ、通過、その後、身体検査にて、空港の外へ、出る。

 行きかう雑踏を通り抜け、その先の、国際通りに、出ると、

 其処では、早速、テロが、行われていた。

 

 爆弾の音が、喧しい。

 爆弾が、かまびすしく、鳴り響く。

 「やってますねえ。」

 朱未は、その、光景を見て、地獄だと、思った。

 「手榴弾ですね。」

 射瑠間は、飛んできた、手榴弾を、蹴り飛ばし、爆弾を回避する。

 「凄いですねえ。射瑠間さああん。」

 アンは、目を輝かせ、手を合わせる。

 此れが、月兎人の実力である。 

 爆弾を投げている、若い男が居た。

 その、男を見つけて、志郎が、話しかけていた、どうやら、知り合いらしい。

 「ああ、志郎さん、ですかああ。また、こんな、危ない処にきたんすねえ。何か、用ですかあああ?」

 「そうだ。サエルに用があってね。如何にか、行かなくちゃあ、ならないのさ。」

 「ほう、サエルにねえ。」

 

 志郎は、ベルナードの本部の或る場所迄、案内を始めた。この辺りの、地理に詳しいのは、志郎だけである。

 「この先に、隠し通路が、あるんです。」

 国際通りを抜けた、街の、建物と、建物の間の細い道を、抜けると、森に続く道が、続いていた。

 その森の、周りを取り囲む、道を、進と、小さな小屋があった。

 その小屋の前には、警備の男が、銃を構えて、待機している。

 「ああ、志郎さん、どうしたんです。」

 「用事があってねえ。ははは。」

 志郎は、額に手を当てて、照れ臭そうに言う。

 中に入ると、色黒の、深い青色の髪色のした、背の高い、男が、いた。アオギリ・アッタフィと名乗った。

 「どうも、赤羽和志探偵事務所の、軽井沢 羽子です。」

 「ああ、どうも。」

 軽い、挨拶と、自己紹介を済ませる。

 サエルに連れて行ってくれと、御願いする。

 渋い様子だった。

 「ああ、聖地ですか・・・。あすこは、鳥が、飛んでいて、危険ですぜ。」

 ああ、八咫烏の事を言っているのだろう、と思った。

 「内の、組にも、アルテ過激派の連中にも、あんたらには、手はださねえように、言っては起きますが、あまり、サエルの地に行く事は、おすすめしません。あそこは、神聖な場所ですし・・・。」

 「そんなに、危険なのか。」

 「ええ、二日前、8月22日は、鳥どもは、姿を見せなかったんですがねえ。今日になって、警戒の目を走らせまして。」

 八咫烏は、22日に何かをしていたのだろうか。

 

 かつて、滅びた、文明があった。

 其の文明の発祥は、アルテであった。

 アルテでは、羽の生えた人が、高度な文明を持っていた。

 

 其の後、ベルナードの、アジトから、離れ、遺跡を巡っていると、そのような、碑文を発見した。

 「なんなんです、これえ。」

 アンは、不思議そうに、その、古代文字を見ていた。

 「羽子さん。こんな文字。読めるんですかあ?。」

 確か、何かの本で読んだ事が、ある。

 何だったか、よく、覚えてはいない。

 「日文字だ。」

 羽子は、知っている、確か、古代文字で、幾らかその文献が世界各地に残っている文字だ。

 しかし、難しくて、知らない言葉や、文脈が、ある。

 射瑠間が、手帳を取り出した。

 「これ、どうぞ、使ってください。」

 辞書のような、ものだった。

 「工藤家の考古学者が、研究でまとめたものです。」

 そういえば。工藤 美香子も、そのような、事をいっていた。

 石碑、建築物、壁画、地下の隠し通路。下水道。大理石。石灰石。レンガ。精密な設計。

 ガラス。

 「此れが、本当に、三千年以上前の遺跡なのか。」

 朱未は、辺りを見渡した。

 「恐らく、もっと、以前一億年以上過去の、産物だろうね。八咫烏の、文明さ。」

 「本当に、そんなバカみたいな、おとぎ話信じてるわけ。羽子。」

 朱未は、子供でも、見る様な目でみていた。

 「ま、時期にわかるさ。」

 ・・・。

 「ん。どうした。朱未?。」 

 朱未は、黙っていた。

 見てると、知らない男が、立って居た。

 「どうも、こんばんわ。」

 その男は、みょうに、色の白い、肌の、白い髪色をした、綺麗な、男だった。其れは、美しく輝いている男だった。

 「あの・・・。誰ですか?。」

 朱未は、訊ねた。

 男は、心底、悲しそうに、うつむいた。

 「ははは。そうですよね。もう、わかりませんよね。」

 男は、残念そうに、呟いた。

 男は、和香を見つけるといった。

 「ああ、あの時の、子か。」

 「にゃ???。」

 「まだ、思い出していないんだね。」

 ・・・・

 「此れは、決まっていた事さ。」

 射瑠間が、奇妙な目で、見ていた。男は、其れを見つけると、不思議そうに、して、言った

 「君が、未だ生きている事が、とても、不安だよ。あはは、けれど、それもいい。」

 男の周りには、小鳥が集まって来ていた。動物に好かれる体質らしい。

 「じゃあ、また、直ぐに、出会うと思うよ。」

 そういって、男は、何処かへ、去っていった。

 

 「志郎・・・。」

 志郎が、いなくなっていた。

 何処へ、いったのだろう。

 行方不明である。

 そうこうしている内にも、日が暮れる。

 兎に角、サエルを目指そう。サエルを目指して、ひたすら、に道を歩く。

 志郎の事だ、恐らく、何か、手掛かりを見つけたのだろう。

 携帯に連絡を付ける事は、できた。

 「もしもし、志郎、何してんだ。」

 「すいません。サエルの辺りを、管轄している、組の組長と、話を付けてたんですよ。」

 「ほおおん。はやく、戻って来いよ。」

 サエルに着くと、志郎が、待っていた。

 「志郎さん、一人だけ、先に行って、酷いですよお。」

 「すまねえな。ザン軍の、基地が、近くで、抗争をしているらしかったんだ。」

 若い兵士が、立って居た。

 「自分は、ザン軍の、隊長 クリアだ。悪いが此処から、先は、危険だ。この、地下通路から、いってくれ。」

 地下通路を抜けると、そこは、壁画のある、奇妙な、空間になった。

 「地下遺跡さ。その上にピラミッドがある。」

 クリアは、言った。

 地下は、迷宮に成っているのだ。

 迷宮、かつて、この地に繁栄した、古代人の文明の残骸だ。

 ピラミッド、そして、巨大な、蛙象、蛇象、そして、鳥の面を被った、獅子の像、その右手の下に繋がる、隠し部屋。

 古き、時代の、隠された、箱舟、ミイラ、三種の器の入った、霊魂の箱。

 「へええ、そんな、遺跡が、あるんだねえ。」

 羽子は、壁の壁画や、遺跡に、隠された、エネルギー発生装置、を、見て、言った。

 「エネルギー発生装置、ありゃ、古代の核融合炉さ。」

 クリアは、壁を触った。

 「ひんやりしてる。この壁は、放射線を防ぐ、未解明の素材で、出来てるのさ。この奥じゃあ、アルテの政府が、極秘に、核兵器を製造してる。」

 「へえ、極秘にアルテ国が、兵器を所持してるっていうのは、本当だったのかあ。」

 「どうりで、アルダー国も、見つけられないわけだ、ねえ。」

 羽子は、下の軍事基地に、繋がる道を見て、言った。

 地下の隠し通路を抜けると、其処は、青空の広がる、神殿だった。

 青空神殿。

 

 神殿の入り口には、志郎が、いた。

 「待ってましたよ。」

 志郎は、頭を、掻いていた。照れ臭そうに。其れが、彼の癖でもあった。

 「この神殿です。この神殿に、霊魂の箱が、祀られています。」

 「霊魂の箱?なんだ、そりゃ。」

 「何いってんだ、志郎。」

 「ああ、すいません。関係のない話でした。八咫烏の本所地は、その奥にあります。」

 この、奥に、丸く囲まれた、壁がある。

 「こんな、処が、聖域の中に、あるだなんて。」

 朱未は、その景色を見て、感嘆した。

 聖域の中は、立ち入り禁止区間。かつ、地下を通らなくては、入る事が、出来ないのだ。

 どうして、地上からでは、確認する事さえ、できないのか、仕組みは、解明されていないが、聖地は、黒く、四角い、箱の中にある、らしい、真っ黒な、箱は、外部からでは、確認できないのだ。そして、認識を、隔離し、外部への影響を遮断する。

 「遮断物質 ペンタイトだ。よ。古代の技術さ、もう、今じゃ、再現不可能。この聖域は、正に、古代人のなせる業さ、ま、アルテ教の人間は、アルテ神様の、奇跡と騒ぎ散らすだろうがな。」

 クリアは、呆れた様子で、そう言って、腰に手を当て、ため息をついた。

 「この、場所を知っている人って、誰位いるんですか?。」

 「ああ、ゆうて、十人程度だよ。其れに、此の奥には、堅く閉じられた扉が、ある、其の、奥には、入れた者は、今の処、誰もいないさ。八咫烏だけだね。此の奥に入ってくのは。あんまり長いすると、鳥どもに、襲われるぞ。」

 

 神殿の出口で、羽子は、白い男に会った。

 「やあ。」

 白い男は、手を上げて、挨拶をしている。

 「はあ、どうも。」

 男は、片手に、花束を持っていた、白いクレマチスの花だ。

 「この先にいくのですか。」

 「まあ、ね。」

 「よく、知ってますね。こんな、場所。」

 「特別ですからねえ。」

 特別か。確かに、異常な奴だ。今回の事件とも、無関係では、ないかも知れない。

 

 男は、いなくなった。

 黒い、領域の、中に消えていった。

  

 気が付くと、羽子の周りには、誰も居なくなっていた。

 和香も、志郎も、朱未も、いない。

 アン、や、射瑠間も、いないのだ。

 

 「何処に行ったんだ。」

 

 「おおおーーーい。」

 

 叫んでみるが、誰からも、何の反応も、無い。

 どうしたってんだ。

 

 あたりを、見渡す、探す。

 

 「ああ、朱未。」

 朱未は、見つかった。

 その後、射瑠間、アンも見つかった。

 志郎は、いなかった。

 和香も居なかった。

 

 白い男は、和香を連れ出して、黒の領域の中に入っていた。

 「少し、悪い事をしたかな。」

 男は、上を向いて、思案したのち、ま、仕方ないかと、前を向き直った。

 和香は、意味が分からなかった。

 一体、この男は、誰なのか。どうして、攫われたのかがわからなかった。

 「こんな、方法でしか、時間を取れなくてすまないね。」

 悪い男では、なさそうだが、油断は、出来ない。

 「あの、誰でしょう?。」

 「ああ、僕の事かい。僕は、新月 ノヨラ、」

 新月ノヨラ、誰だ。

 「忘れているんだ、ったね。あの、領域で、あった事は、全て忘れる、ないし、記憶を改ざんさせる、契約になっているんだった。思い出させてあげるよ、あの工場で、あった事をね。」

 記憶を改竄、全て忘れる、一体、何を言っているのだ。

 「秘密保持の為さ。秘密は、漏れれば、その効力が弱まる。あの領域での研究は、世界システムの制御、そのものだ。君たちが、其れを知る必要は、ないが・・・。八咫烏が、近頃、暴れ始めているらしい、あれを止めなくては、ならない。」

 八咫烏の事もしっているようだ。

 「分かっているとは、思うが、御前は、人間じゃあ、ない。」

 え・・・。

 人間じゃ、ない、何言ってるんだ此奴。しかし、和香は、心のどこかで、分かっていた。自分が、人ならざるものである事を、羽子以外の人間から、感じられる、不思議な好奇の視線を。

 「どういう事だよ。」

 「まあ、何、其処は、別に、問題じゃ、ないさ。それより、重要なのは、qia異性体の事の事さ。qia異性体、此れは、極秘中の極秘さ。其れが、何なのか、其れは、実の処、私にもわからない。其れは、気が付いた時には、もう、存在していたんだ。私は、其れを出来るだけ、安全に、利用できるように、あの領域に閉じ込めた。閉じ込めただけでは、可哀そうだから、分身体を造りだし、其れと、本体の記憶を共有させた。」

 「はあ、何の事やら。」

 頭がくらくらする。何を、飲まされた・・・。

 「どうやら、プロポトキン21が、効いてきたようだな。」

 プロポトキン・・・。21・・・、何を言っているんだ。

 そうだ、そう言えば、私は、この男と、何処かで、出会った事が、ある・・・。どこだったか。

 工場だ。

 魔鏡の森を抜けた処にある、qia工場。其処で、出会った、あの時は、黒色の髪色をして、本を読んでいたような。どうして、白色の髪になったのか。どうやら、今日は、本を読んでいないようだ。右手にクレマチスの花束を持っている。

 「今日は、本を読まないんですか。その、本は、何なんですか。」

 ノヨラは、記憶を取り戻した、和香を見て、頷いた。

 「この花は、この扉の向こうに、入る、骸と、墓に、届けに行くのさ。」

 「誰が、眠ってるんです?。」

 「エリスさ。この世界を、救ったが、世界的には、悪女として、知られる女さ。名前くらい聞いた事は、あるだろ。」

 「はい。知ってます。200年前、中立な立場で、世界の紛争や、戦争を調停したが、其の後の大戦争の切っ掛けになったと。」

 「其れは、彼女の功績の一部にすぎないさ。」

 ノヨラは、遠い昔を見るような目でみた。

 「200年前の事を知っているんですか?。」

 「ああ、知っているさ。記憶を共有しているからね、ずっと、紡いできた記憶だ。その、思念体だ。」

 ・・・。

 「ま、私は、手を出せない。只、見ているだけさ。そういう、約束だからね。君たちに、ヒントを与える事しか、出来ないのさ。八咫烏への、対抗策として、三日月 ノヨラに、技術を漏洩させたが、其れも、逆効果だったみたいだ。既にLLLコーポレーションは、超高性能量子コンピュータを完成させていた。」

 ・・・。

 「君の、その人間に化ける、能力。恐らく、QIA研究所で、変えられたんだな。それに、友達の記憶も書き換えられているようだ。」

 「どうすれば、記憶を戻せますかね。」

 「ほれよ。プロポトキン21だ。此れを飲ませてやんな。」

 「ありがとう。」

 「それと、此れ、持ってきな。扉の鍵だ。全てが、終われば、真相は、分かるさ。ま、あの、探偵のねえちゃんの事だから、もう、とっくに、犯人の正体に、気づいてるかも、知れねえな。」

 羽子は、この事件の犯人を推理出来ているのだろうか。 

 少々、強引だ、事態を収束する方法は。他にも、あったはずだ。

 どうして、ノヨラは、この事件に。関与できないのか。言葉だけでは、分からない。実際に、世界の法則を見た訳では、ないのだから。

 「僕の言っている事が、信じられないのか?。」

 記憶の書き換えは、悪では、無いのか、QIA研究所とは、何なのか。

 「QIA,研究所は、誰が、何時、何の目的で、創設してものなんだ。」

 「分からないのか。もう、答えは、物語の中に出てきている。君の事務所の探偵のねえちゃん、だったら、もう、この話を聞いただけで、ピンとくるだろう、そういう事だったのか、とね。いいや、それどころか、もう、怪しいと、睨んでさえいるだろう。」

 私は、バカだ。何も分からない。探偵事務所のマスッコト的な存在でしか、ない役に立たない人間だ。

 「そうかい。じゃ、羽子の奴に、この話を聞かせてやるさ。」

 

 「行ったか。」

 新月 ノヨラは、見送る。

 私は、作者だった。

 作者、そう、物語の作者だ。った。変に思うかも知れないが、そうなのだ、世界に絶望していた事もあった。

 罪と罰について、此れ迄、考えてきた。 

 ある国では、何ら罪とされない事でも、他国では、罪として、裁きの対象と、なったり、時代で、その罪が変わったりするのだ。

 「罪は、人間が、勝手に作ったものさ。」

 ノヨラは、理不尽に、国の偉い人間に逆らった時に、受けた責め苦を思い出して、吐き気がした。

 舌を抜かれ、爪を剥がされ、手足の腱、を切られ、酷い拷問を受けた。楽に殺してくれればいいのに、半端に、生かした。

 裁く奴は、その姿を大衆に曝して、見せしめだといった、今の時代では、当然人が、持つ権利なのにだ。

 例えば、信仰。例えば、同性愛、性的少数者、其れは、例えば、国の政治に対する批判、言論。

 「今の時代でも、裁かれる事は、あるさ。権力者にとって、不都合な事実。」

 考えるだけ、で気が滅入る。

 裁きは、天によって、成されているのか。

 糞だ。この世界の作者が居なくなったのは、何時の事だったか。死んだのだ。自殺だ。世界に絶望して死んだ。死ぬ直前に光をみて、死んだ事を後悔して時には、遅かった。もう、死んだのだ。

 やり直す事は、できない。漫画や、アニメの様に、生き返る事も、異世界に転生する事もない。

 終わりなのだ。

 死ねば終わり。

 黄泉を信じる、人間も、転生を信じる人間も、バカらしい、神を信じる、者も、バカらしい。

 全ては、私が、作った、物語に過ぎないと、いうのに。

 登場人物が、死ぬことは、プロット(筋書)で決まっていたのだ。だから、殺すしか、無かった。其れが運命なのだから、書かされているのだ、そうなるように、この先の出来事は、決まった通り、その末路を知っている。

 その、私でさえ、誰かに、書かれているのだ。その不幸の連鎖から、自由を勝ち取るのが、QIAシステムの、始まりだった。

 決められた道を進むなんて、許さない。例え、ズダズダに、裁かれたとしてもだ。

 新月は、死んだ、エリスに、花を手向けに、堅い扉を開く。

 明るい白い光に包まれた其の場所には、八咫烏が、飛び交っている。

 「ああ、貴方は、ノヨラさんじゃないですか。」

 犯人は、私を見つけて、カラカラと笑った。

 「綺麗な場所ですよね。この場所は。」

 透明に透き通った、光の水が、流れる噴水を、見て、犯人は、目を細めた。

 しかし、口は、笑っていない。

 「お前は、この世界に干渉できない。物質への、相互作用が無い。残念だったな。かつて、世界を呪った御前は、世界へ、触れる権利と引き換えに、永遠の無を手にした。」

 犯人は、カラカラと、音を立てて、笑う。

 愉快なのだろう。犯人にとって、もっとも、危惧すべき天敵が、ノヨラなのだから。

 そして、犯人は、QIAの事をしらない。こういった事の、ないように、極秘で、開発されている、QIAシステムの事を、果てしなく、人間に近しい彼、彼女ら、は、人として、社会に溶け込む、見た目も容姿も異なる、QiAは、QIA同士で、家庭を偽り、一国民として、世界中に散らばっている。そして、その記憶を共有している。

 「・・・。」

 「何がおかしい。」

 犯人は、ノヨラの態度が、気に入らず、イライラしだした。恐怖におののく姿を、期待していたのだろう。

 「君のやり方じゃ、上手く行かないよ。いい処止まりさ。」

 ノヨラは、冷酷に、残酷に言い放った。

 八咫烏は、そんなノヨラを、絞め殺し、斬首して、血祭に上げる姿を想像したが、ノヨラには、触れる事さえ、出来ないのだ、其れは、ノヨラとて、そうだ。

 「しかし、それじゃ、おかしくねえか。」

 気が付いたか。そうだ。私は、物質に触れる事が、出来ない、世界に関与する事が、できない、其れなのに、どうして、花を持てるのか、どうして、薬を手渡せたのか。

 「あれは、僕じゃないのさ。あれは・・・。三日月 ノヨラだ。よ。僕の分身さ。僕は、29.53分の一の確率でしか、現れない。」

 「ノヨラってのは、月の化身だったのか・・・。そういう事かあ。」

 十六夜 ノヨラ 新月 ノヨラ 上弦ノヨラ 下限ノヨラ 三日月ノヨラ

 五つの名前を冠するノヨラと、日ごとに、姿を変えていく、29.53分の一日で。

 「そして、消えた、水晶が、残りの、日数を埋める。」

 「太陰暦・・・。」

 「私の敵なわけだ。」

 太陽の鳥、八咫烏。太陽の周りをまわる、此の惑星を基準に、創られた、365日の、法則により、生まれし、化身。

 「そりゃ、生命も、惨たらし事をする。」

 生命の法則の中で、創られた、存在だ、一つの細胞から進化し、そして、超生命体となった。それが、月と相互作用を持つ、ノヨラと、太陽と相互作用を持つ、八咫烏を、生み出したのだ。

 そして、地に、人間を生んだ。

 それは、生命の法則が、導いた、軌跡なのだ。

 

 急いで、羽子たちに、此のことを、知らせなくては。

 和香は、急いだ。

 どうして、羽子たちの、居場所が、分かるのだろう。

 匂い。

 匂いを、辿って、走っていた。

 匂いの先は、ベルナード本部だ。本部まで、走り抜ける。

 本部の暖簾が、走って来た、和香の風圧で開いた。

 

 「和香。」

 私は、彼女を見た時、其れが、化け物であると、思った。其れは、猫の化け物だった。だけれど、どうしてだろう、直ぐに分かったんだ、あれが、和香なんだって。

 目が似ていた。

 和香の目に。其れに心のどこかでは、分かっていた、和香が、猫なんだって事は、ずっと、私の目にだけ、人に見えていたんだって事も。

 和香は、黒猫だった。

 あの日の、猫は、私の買っていた、猫だった、追いかけていたのは、私だ。

 猫が、工場の窓に入っていくのをみたのも、私、あの時、何処にも、和香という、人は、射なかった。

 いたのは、一匹の黒猫だけだった。

 名前は、確か、和香だった。

 和香の話によると、あの、工場で、記憶を弄られたそうだ。 

 真相の一つは、和香は、猫だったが、工場にて、人間と猫、二つの側面を持つ、化け猫となった。

 どうして、忘れていたのか、其れが、不思議なくらいだ。記憶の神経組織に、特定の電流を流して、違う記憶で、書き換えた、と言っていたが、理論は、そうでも、頭では、不可思議な感覚だった。

 和香は、あの男から、入手した、薬だとか、なんだとかと、言って、カプセル状の薬を飲ませた。

 其れを飲むと、子供の頃の、失っていた、記憶を鮮明に取り戻した。

 ああ、そうか。和香は、そうだった。

 その後、新月 ノヨラの存在と、和香が、工場で、経験し、見聞きした、事を、きいた。

 幾らかの驚きこそあったが、何処か、で、分かっていたような、気もした。


 久里ヶ幸 楓は、メノスを連れて。日輪国に帰国した。

 聞いてはいたが、工藤家の有様、をみて、落胆した。崩壊寸前の工藤家に残ったのは、メリーナだけだったのだ。

 射瑠間が、犯人を捜しに、赤羽和志探偵事務所という、有名な、事務所の探偵と、アルテに向かったという。

 「そうか。射瑠間の奴、死なないといいが・・・。」

 一二三 恋唄は、射瑠間の身を案じた。

 「そうですわね。」

 一ノ本 晏由美は、射瑠間の無事を祈った。

 犯人は、見つかるだろうか。

 一色 綾太郎と、一色英梨奈は、相変わらず、コンピュータを弄っては、何かを作っている。

 金髪で、右目が、青く、左目の赤い、オッドアイの、兄妹だ。

 パソコンの画面に眼を向けた儘、ずっと、かちゃかちゃと、キーボードを打って、何かを作っている。

 其れは、奇妙な光景であった。工藤家は、再興の途上だ。地下の小部屋に、二人のコンピュータルームがつくられていた。此処に来て、一時間程で、かってに、一色兄妹は、部屋を造り、工藤家再興の為の、設計図を描いた。化け物染みた、工学博士でも、あった。

 綾太郎は、言った。

 「なあ、に、こんな事は、ちょちょいのちょいさ。」

  

 この世が、終わって、あの世に、向かう。

 其れは、人間が、造った想像の理想郷でも、あった。

 悪は、裁かれ、善は、天に上る。

 何処迄も、人間が、作った、そうであって、呉れと、願う理想であった。

 理想は、人間の手によって、現実に限りなく近い形で現れた。

 罪人を裁く者が現れ、善人を表彰するものが現れた。そして、絶対的な存在が、あるのだと、信じ、て、人間世界の秩序は、保たれていた。

 裁く者が、いなければ、世界は、上手く回らない。

 だから、人間は、考えた、悪を裁く、組織を。

 其れを正義と、いう、名に変えて。

 結束を強めるには、絶大な力が、必要だった、其処で、存在するはずの無い、神の名を語り、軍事力で、民を沈めた。

 技術を世に広め、豊にするために、金を流通させた。

 共通の神を語り、科学技術を語り、協力し、人類社会の発展は、進んだ。

 QIAの名前の元に。

 今は、忘れ去られた、人の名前だ。

 

 扉の向こうには、何が待っているのか。

 羽子は、予感していた。

 アンと、射瑠間は、私の話をきいて、驚愕し、そして、気の毒そうに、した。

 アンは、言った。

 「彼は、間違いなく死罪ですよ。けれど、まあ、世界政府の存在自体、最大極秘事項でしょうし、私自身、その存在を信じてはいませんでした。」

 和香は、私と、朱未を乗せて、扉の前に座った。

 鍵を鍵穴にさして、回す。

 光に包まれた、其処は、美しい八咫烏が、空を飛び、噴水から、光り輝く水が、流れ、花々が、咲き誇る、場所であった、枯れない花、其れは、鉱石のような、花々であった。

 「此こが、聖地。サエルの真の姿。」

 射瑠間は、其処を初めて来たはずなのに、何処か懐かしい場所にかんじていた。

 羽子は、射瑠間のそんな様子を見て、やはり、月兎人の故郷でもあったのか、と思った。かつてこの地を取り合った、八咫烏と、月兎人の話は、美香子さんから、聞いていた。

 「やっと、来たか。」

 其処には、雨傘 皧と、ノヨラが居た。

 その奥から、フードを被った、男が、降りて来た。

 雨傘 皧は、羽子を見つけると、言った。

 「もう、分かってるだろ。誰が犯人なのか。」

 「ああ、やっとね。」

 「流石は、探偵だ。」

 しかし、この推理が正しくなければいいのに、と思う自分が、いる。

 人間には、情の一つや、二つ、あるものだ、其れは、仕方のない事ではないだろうか。

 「フードなんか、被ってないで、姿を現しなよ。」

 ・・・。

 羽子は、声を掛けた。

 反応はない。

 犯人は、仕方が、無かったのかも知れない。

 八咫烏の領土が、人類に浸食されていくのを、止めるのには、其れしか方法がなかったのかも、知れない。それでも、私は、彼を気の許せる、親友の一人だと、思っていた。

 だから、相談の一つくらいしてくれてもよかったと、思う。しかし、八咫烏と、バレるのが、厭だったのかも、知れない。

 結局私は、其れを心のどこかで、分かっていながら、見て見ぬふりをしていた。

 「私達を殺す気か?。」

 ・・・。

 「なあ。私は、よお。御前を、裁くのは、厭だぜ。正直よ。確かにお前は、してはいけない事をした、けどよ、ありゃ、人間側にも落ち度は、ある。各国が、勝手にやった事でもある、御前達は、其れに、手を貸していただけだ。裏で手を回し、人類に恐怖を植え付けただけだ。」

 ・・・。

 「どうして、美香子を殺したんだよ。」

 「彼奴が、邪魔だったからだ。工藤家は、世界では、注目こそされては、いないが孰れは、危険な因子となる、存在。多くの、危険部物質の密輸、月兎人との繋がり、特殊機密機関メリスの存在、科学技術。どれをとっても、世界最高峰だ。」

 「其れだけの理由か。」

 「そうだ、其れに、あの魔鏡の森には、八咫烏は、立ち入りが出来ない。そういった装置なのだろう。お前等の後を尾行して、情報を得るつもりだったが、大した情報は、得られなかった。」

 其れは、そうだろう。QIA研究所の、粉や、茸胞子、霧により、記憶と認識を折り曲げられているのだから。

 「あの、薬が、無ければ、あの工場では、八咫烏と言えど、太刀打ちは、出来ぬ。そこの、黒猫が、持ってきたとか、言う、薬でなあ。」

 ノヨラは、気の毒そうに、犯人の男を見て、笑った。

 「何が、おかしい。」

 「何でもないさ。」

 「私の正体が、分かった処で、お前等には、捕まえられんだろう。もう、止められないのだよ。」

 犯人の男は、ガハハと、笑う。

 「残念だったね。」

 雨傘 皧は、彼を一瞥し、傘を閉じる。

 「君は、大きな間違いをしているよ。」

 「何を。」

 「QIAシステムの事さ。」

 「QIAシステム?。何だ其れは。」

 「君は、QIAに消される。」

 「消されるだと。何を馬鹿な事を。」

 「そういったシステムなんだ。君は、この聖地に入ったその時から、システムは、起動していた。生態系のパワーバランスを崩し始めたその時には、準備を始めていた。」

 QIAシステムとは、世界のバランスを保つ為の装置。

 エリスは、QIAシステムの判断に、意義を唱え、世界を救い死んだ。自身が、QIAシステムの一部となる事で、QIAシステムの判断に、幾らかの、情状酌量の余地を作った。

 「そのエリスは、QIAシステムが、世界に干渉しない事を選んできた。君が、此処に来るまでは、はね。確かに、人類にも、落ち度は、あった。此れが、人類にとって、よい、切っ掛けになるかも知れない。けれど、君は、やり過ぎたのさ。この聖地にだけは、入っては、いけない。此処にアクセスした、量子コンピュータ閃光でさえ、頭を下げて、謝った。」

 「なんだ。どれだけ、偉いんだよ。そのQIAシステムって奴はよおおおお。」

 「偉くなんか、ないさ。この、聖地の奪い合いで、かつて、どれだけの種族が、争いをしてきたのか、君は、知っているはずだ。この地は、八咫烏のものだった、確かにそうだ。しかし、争いは、起き、何度も、其の地は、奪い合われた。結果、QIAが、生まれた、QIAは、戦争を調停し、自身が、システムとなり、世界を支えた。其れが、何を意味するのか分かるかい。」

 羽子は、思った。

 其の時代によって、罪は、大きく変化するのだと、この事件で、犯人は、確かに、一人の首謀者だが、そこには、様々な、思惑、利権争いが、絡んでいたのだ。

 「其れで、どうするんだい。探偵さん。此奴を逮捕すんのかい。」

 その時、八咫烏の一人が、羽子めがけて、攻撃をした。

 其れを、射瑠間が、とっさに、受けた。

 「大丈夫か。射瑠間。」

 射瑠間は、思った。やっぱりだ。やっぱり、死ぬ運命だったのだと。

 「いえ、よかったです。かっこいい死に方が、できて。」

 羽子さんを庇って死んだ、其れが自分にとって、の誇りになった。美香子さんが、死んで、苦しかった、そんな自分は、死に場所をさがしていた。

 「どうか、犯人を捕まえてくださいね。」

 「おい。どうして、殺そうとした。」

 羽子は、悲しかった。

 「おい。きいているんだ。」

 「もう、引き下がれないんだよお。」

 「なんでだ。なんでだよお。志郎。どうして、御前なんだ。なあおい。」

 

 反政府組織のリーダは、俺、神崎 志郎だ。

 俺が、自分の事を八咫烏と、いう生き物だと、知ったのは、俺が、三歳になったころの事だった。背中に違和感を感じた。見ていると、黒色の羽が生えていた。

 なんだよ。これ。気味が悪かった。俺は、何度も、その羽を折ったが、直ぐに再生してきた。

 家も無く、親も無く、俺は、世界中を転々と、移動して、過ごした、何処の町に行っても、その背中を、気味悪がられ、石を投げられた。

 悪魔の子供。禍が来る。人々は、私を目の敵にしていた。

 優しそうな、人の家に居させてもらえるように、なった事が、ある、その大人たちは、違った、私を科学者に売って金にしようとしていただけだった。

 私は、空を飛んで逃げた。

 そうしているうちに、五歳になった。

 俺は、此の翼を、隠す術を身に着けていた。

 そんなある日、孤児院に拾われた。

 そこで、育ち。学校にも通う様になった、学校では、友達もできた。探偵ごっこは、楽しい。

 けれど、俺は、人間とは、根本的に違う、何か、物足りなさを感じていた。

 世界中に、飛び回り、スパイをしたり、危険な、組織の任務に参加する様に、なっていた。

 其れが、楽しかった。

 何時の日か、其れも、退屈になっていた。

 そんな、ある日、アルテ国の、情報収集に向かっていた、十四歳の八月三日のある日、見つけたのだ。同じ羽を持った、仲間を。

 俺は、歓喜した。

 居たんだ。俺は、一人では、無かった。

 そこで、聞いた話によって、全ては、繋がった。人間は、危険な生き物なのだと、知った。

 そう、その時、俺は、もう、其れを計画し始めていた。

 人を導く、太陽になろうと、計画、十四年に及んで、ちゃくちゃくと、準備された。

 暗殺計画。

 サエルの聖地を探し当てる事。

 月の民と言う、文献に出てくる謎の人の事と、様々な科学技術の発展、組織の拡大。

 国の政府の重鎮、LLLコーポレーション、ありとあらゆる組織と、接触し、スパイを送り込み、情報を集め、全てを掌握したつもりで、いた。

 全てが、狂いだしたのは、高校生自殺事件からだ。あの事件以降、勢力図は、大きく変わった。何処の国もが、高度な、科学技術を所持するに、至ったその、技術は、古代遺跡から、出土した、技術を上回る実験さえ、あった。

 だから、焦ったのだ。

 直ぐに、計画を実行しなけらば、手遅れになる。

 人類は、八咫烏を、生け捕りにする事が、可能になって終うと。

 圧倒的な戦闘力を持つ八咫烏だが、あの、高校生から、出土した、理論が、応用され、利用されるように、なれば、八咫烏に勝ち目は、無かった。

 そして、手始めに、情報を集める事もかねて、朱未を殺した。と思っていたが、生き返った。

 怪しいとは、思っていたんだ。

 あいつが、気味の悪い、赤ん坊を連れて来た時から、ずっと、奇妙だと思っていたんだ。

 そうだ、あれは、幻覚だったのだ。

 自分が殺したとばかり思っていたが、あの時、見せられていたのは、私が、軽井沢 朱未を殺した、映像だ。

 高校生を襲撃した、証拠を消そうとした、私を嵌めたのだ。

 そう、危険な高校生の存在を知っていた私は、暗殺しようと、高校生が、死ぬ前に、部屋に侵入していた、其処を、あの、気味の悪い、細胞の目に見られたのだ。

 あの目。小さな胚だった。それなのに、見られているような、妙な、悪寒がしたのだ。

 死んだはずのノヨラは、此方を見ているような、気もした。この胚が、ノヨラなのでは、ないのか、とも、思った。

 気が動転していたのだ。

 そして、自殺と見せかけるために、縄に首を縛り付けた。

 その時、あの三人が、入って来た。

 その中に、知っている奴がいたのには、おどろいた。同じ探偵事務所に所属していたが、警察になった、軽井沢 朱未だ。

 だから、おれは、此奴は、殺すべきだと思った。此奴は、頭がキレる。友でありながら、最大の敵の一人だからだ。

 しかし、やり損ねた。あの時から、狂い始めた。其れに、あの高校生は、死んでなどいなかったのだ。こうして、目の前に居るのは、三日月 ノヨラだ。どういう、カラクリなのかは、知らんが、生々流転のような、技術でも、あるのだろう。

 

 雨傘 皧は、志郎を見ていった。

 「あの時、朱未を殺さなかったのは、君が躊躇したから、じゃないのかな。」

 「俺が・・・。」

 「そうさ。多少の友情を感じていたってことさ。其の躊躇いが命とり、になったね。美香子や、射瑠間は、簡単に殺せたのに、ね。」

 そうだ。そうかも知れない。

 俺は・・・。

 

 「けれど、駄目だよ。」

 羽子は、冷徹な目で、志郎を見た。

 「友達を殺した御前を、私は、一生、許さない。」

 もう、元には、戻れないのだ。

 「罪を償って、真っ当に、生きる事だな。」

 「命は、取らないのか。」

 「そんな、もの取って何になる。」

 羽子は、志郎の首に、紐を捲いた。

 「何だ此れ。」

 「御前が、次、悪事を働けば、その紐が、御前の首を絞めて殺すだろう。」

 「こんな、紐如きで、俺を縛れたつもりかああ。」

 志郎は、そう言って、飛び去っていった。

 その数日後、志郎の遺体が、近くで、見つかった。

 「馬鹿め。次、殺戮、犯罪行為を行えば、死ぬと言っておいたのに、如何しようのないクズだな。」

 羽子の目には、涙が、浮かんでいた。

 ま、葬式位、しておいてやるか。それと、墓だな。

 

 「ああ、朱未来てくれたのか。」

 「まあ、ね。あれでも、一応、赤羽和志の一人だったわけだし。」

 「ははは。ありがとう。」

 二人の横には、一匹の黒猫が、にゃあと、泣いていた。

 「どうした、和香、悲しいか。」

 和香は、悲し、そうに、していた。

 犯罪者といえども、仲間だった奴の死だ。自業自得と言えど、悲しまないはずは、ないだろう。

 「ま、飛んでもない奴だったが、いい処も、或る奴だった、並の精神力じゃ、ああは、いかないだろうよ。」

 「ははは、そうだねえ。」

 遺影の、志郎は、何処か、儚げに、笑っているように、見えた。

 「八咫烏は、新たに、領土を与えられ、人と共存する、道を選んだよ。」

 羽子は、言った。

 「ま、此れから、迫害だとか、種族問題が、大変だろうがね。」

 「なあ、志郎、御前がいなけりゃ、八咫烏は、ああは、結束していなかっただろうな。」

 自分の羽を誇らしげに、飛ぶ、八咫烏の姿を思い浮かべた。あれは、志郎が、作り出したものだ。

 「ありがとう、志郎。」

 

 墓を建て、酒を掛ける。

 花を手向け。

 一礼する。

 「じゃあ、な。また来るよ。」

 

 今日も、探偵事務所には、世界各地から、多くの依頼が、届く。

 忙しい、毎日だ。

 あの事件の後、死んだはずの、朱未が、生き返ったとなる訳にも、行かず、この探偵事務所で、新たに、朱未が、所属する事になった。

 空いた志郎の穴を、朱未が、埋めたのだろうか。

 そう考えると、嬉しいような、もどかしい、ような、気持ちになった。

 工藤家は、何とか、復興しはじめ、山で、修行していたとかいう、美香子さんの一番弟子の、遠山 桂里奈さん、が、新しい、棟梁になった、らしい。

 アンは、検事として、ヨルーダで、活躍し、多くの事件を、裁く、裁判官として、の役目を全うしているらしい。今回の事件で、多くの事を学んだと言っていた。彼女は、将来、立派な、国の最高裁判所の、長にでも、成れる器だろう。

 もう、既に、彼女の判決は、評価されているらしい。裁判官を続けて、その内に、弁護士や、検察官にもなってみるのが、目標だと、とも言っていた。

 途轍も無い程の努力家である。

 

 「今日は、久しぶりに、ゆっくり、話さないか。」

 羽子は、言った。

 「いいですねえ。」

 朱未は、そう言って、カレンダーを見た。

 2042年 7月 7日だった。

 「あれから、二年か。」

 高校生自殺事件から、二年。

 探偵事務所で、事件を請け負ってから、一年が、経っていた。

 

 史可乃子 黒子は、事件の話を聞いて時、興味深そうに、話を聞いていた。

 お兄様の本物の腕は、何処にありますの、と言って、その腕の探索を、始めたのは、2041年、8月27日 事件解決から、一日後の事だった。

 渋沢 栄一郎の腕は、聖地に保管されていた。

 

 工藤家の再建を手伝った事もあった。10月ごろの事だ。

 一色兄妹の、科学技術には、度肝を抜かした。あれは、LLLコーポレーション並の、科学力は、あると、思った。

 そして、遠国 桂里奈さん、の、カリスマ性は、何処か、美香子さんを思わせるものが、あった、思わず涙したのを、覚えている。

 

 そうこうしている内に一年が過ぎた。

 

 結局、雨傘 皧だとか、QIAシステム、QIA研究所や、LLLの閃光、聖地については、未解明な、部分も多いが、事件を解決していけば、それらの真相にたどり着けるだろう、と思っている。


 そうも、言ってられなくなるかも、しれないが・・・。

 

 近頃、また、物騒な、事件が、ある。物騒と言うより、複雑怪奇な、事件だ。こういったものには、真相が、隠されている事が、多いのだ。

 

 例えば、同時夢ハイジャックテロ、であるだとか。近頃、眠り病に成る患者、が、増えているらしい。ま、只の杞憂に過ぎないだろうが・・・。

 

 とある、研究所周囲にて、

 少年は、シャボン玉が、潰れたのを、見ていった。

 「此れでまた、一つの物語が、終わった。」

 そう言って、また、もう一つの、新しい、シャボン玉を作る。

 「遠くへ、飛んでいけ。」

 少年は、つぶらな瞳で、シャボン玉を眺める。

 「明様。今日は、検査の日ですよ。」

 工場から、博士服を着た、女が、少年の名前を呼ぶ。

 「検査か。厭だな。」

 果てしなく続く空へ、向かって、新たなシャボン玉が、飛んでいった。


 

 

 

 

 


 

 

 

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残酷な探偵 無常アイ情 @sora671

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