第2話 髪
以前は覚えていないが、今のオートには用を足した経験が無い。
彼の身体の仕組みがどうなっているのか不明だが、水分は摂っているのに出るものは出なかった。
もともと事務所か何かに使われていたのか、廃屋には便所というものがあった。勿論、オートにはそこには用は無く、気になったのは洗面所だった。
冷たい水で顔を洗った少年は、目の前に鏡というものがあったのに気が付いた。映った自分の顔をまじまじと見ると、紺色と同じ年齢だというのは説得力がある顔つきだった。
少年は、髪の方へと視線を向けた。
生え際は真っ赤で、そこから先は夕焼けのように黄色へと変化していた。改めて観察すると、これは確かに黄桃の色に近い。ノイリがそう名付けるのも、頷けるオート。
少年は自分の顔を、しっかり見たのは初めてかもしれない。顔つきが海外の人間には見えないので、生まれつきとは考えにくい髪色である。
「かみ……気になるよね」
気づけば鏡には、少年の後ろに立つハクトの姿があった。あっちは根元がピンク色で、毛先が真っ白になっている。
背中の向こうで苦笑いを浮かべたものだから、オートはどういう顔をしていいのか分からなかった。
「元々、黒かったらしいよ。僕もコンも……」
ハクト達の髪色は、魔物に喰われたせいで変化したものだという。
最初からオートも同じ者だ、と感じた一番の理由がそれだった。自ら望んで染めないと有り得ないような色付きが、魔物にされた何よりの証拠らしい。
「なんで、色が変わるんだ?」
オートの問いに、ハクトは首を左右に振った。
「詳しくは分かんない。……けれど、僕の推測なら」
確証は無いから当てにしないで、という意図はあったのだろう。オートは鏡の中のハクトに向けて、小さく頷いた。
「つむぎちゃん達も、魔法少女になると色が変わるから……魔力を持つと、そうなるんじゃないかなって」
もっともらしい推測だが、言われてオートは心当たりがあるのに気が付いた。ノイリもピンクの髪色をしていたが、ハクトの考えを当て嵌めれば納得のいく話だった。
「お前らも……腹は減らないか?」
少年の問いにハクトは悲しそうに微笑んだから、何でそんな表情になるのか理解出来なかった。
「記憶、髪色、魔力、そして食欲か……」
こんなんで本当に人間なのか。そう思ったオートだが、ハクトの顔を見ると何も言えなくなってしまった。特に理由なんて無いが、口に出すと更に彼が悲しむような気がしたせいだった。
俺が何をしたっていうんだ。やり場のない葛藤のようなものを覚えたオートは、自分の黄桃色の頭を掻きむしった。こんな思いをするのなら、ずっと次元に居たかったと少年は感じた。
「……なにやってんの?」
不意の声に今度は後ろを振り向くと、三つ編みの少女つむぎがハクトの後ろに立っていた。相変わらずの無表情なのに、なんとなく雰囲気に立腹が混ざっているように感じた。
オートがぼんやり見ていると、つむぎはハクトを引っ張って何処かへと行ってしまった。
「…………」
よく分からない出来事が続くものだから、少年は辟易としてしまった。こんな思いをするのなら、ずっと次元に居たかったと再び思った。
魔獣少年☆オートマジック・センセーション 直行 @NF41B
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