第8話 蜜壺の揺り籠🍯

 僕は蜜壺の中で寝たり醒めたりしている。いちゑ様は僕の独り言を全てお見通しだ。ある時ふと思った。

「僕みたいな冴えない非モテ陰キャは中絶されないかな?」

「私も魔女も、そんなことしないわよ。中絶なんてヒトの雌や雄の身勝手な所業よね。魔王ちゃまを水子にしたら、怒りと憎しみのあまり暴走して魔女も人も滅ぼしちゃうわね。……それにね、私は魔王ちゃまのことが愛しくて可愛くて仕方がないのよ。私の命に替えてでも守ってあげたい。それが嘘偽りない本当の気持ちよ!」

「僕こそ、いちゑママのこと自分の命に替えてでも護りたいよ」


 又ある時思い出した。

「胎ボテいちゑ様のハメ撮り写真有ったな。今あんなことされたら、とっても嫌だな」

「あれね、ポコちゃん孕んでた時の写真なのよ。今でもポコちゃん根に持ってるのよね。それで私ね、ポコちゃんに頭上がらないの。ポコちゃんが、しっかりママで、私の方がダメ娘みたいな間柄なのよ」

「安心したけど、もう絶対にあんなことしないですよね?」

「もう魔王ちゃまは独占欲が強いわね。飼い主の愛を独占したいワンちゃんみたいね。世界に替えて私を独占してね。私も魔王ちゃまを独占するから。……魔王ちゃまの童貞力は無限、まるで原発や核融合炉ね。それに比べ並の童貞は乾電池レベルの自家発電機ですもの。全然レベルが違うわ。私も魔王ちゃま無しでは生きていけないのよ。もう魔王ちゃまの奴隷、家畜、メスイヌ、メスブタだからね。私を見捨てないでね」

 と仰って下さるけど、僕こそ何時か見捨てられるんじゃないかと一抹の不安は隠せない。浮気されたら嫌だけど、それでも嫌いになれないかも。


 蜜壺の中にいると色々なことに気が付く。

「肉食系だと思ってたけど、意外と完全草食系だな。甘い果物が主食で、野菜と穀物が副食なんだな」

「魔女ってね。魔王ちゃまが思ってるほどスケベじゃないのよ。童貞は美味しいんだけど、性欲に溺れてHしてる訳じゃないわ。新鮮で清潔な童貞力、つまり御霊の上澄みを吸い取ってるだけなの。吸血鬼が処女の血求めるようなものね。……それからね、果物、野菜、穀物って光を浴びて成長するでしょ。それを食べて清き光の霊力を取り込んでいるの。それに比べ、肉とかは血の穢れで清き光と対極なモノなの。魔女の霊力を穢し、鈍らせるのよね」

「じゃあ、僕はもう肉とか魚とか食べられないんですか?」

「そう、我慢してね。その代わり私を食べてね。……あとお酒は好いわよ。果物とか穀物から出来てるから」


 いちゑ様は妊娠中でも平気で酒を嗜む。僕にまで酔いが回る。「魔女もね、魔女の子もね、人間とは違うのよ、人間とは!」

 と仰せだった。僕の成長に悪影響は無いらしい。「生まれて飛びててジャジャジャジャーン!」って時は、強力なアルコール耐性を帯びてるそうだ。

 魔女って人の姿と変わらないけど、身体能力が全然違うんだな。まず病気にかからない。医者いらずである。感染症やガン、成人病とは無縁である。怪我しても自然治癒で傷一つ残さない。家の中では一糸まとわぬ裸族生活だ。魔女一族全般がそうだ。ただしポコちゃんは除く。いつでもセーラー服姿だ。黒瓜荘の魔女たちも、僕ら人間の目が届かない所では全裸生活してたらしい。裸は魔女の正装で、衣服は世間体に合わせて着きているに過ぎないそうだ。


 昔の作品でスカトロ趣味のドM童貞が「いちゑ様の黄金を食べたい」とリクエストした。それに対する答えはこうだった。

「無理よ。私がウンチすると思ったの?」

 確かに、あの美しい御紋所から汚物が出るなど想像できない。ビデオで見ても、実際に見ても、そう思う。だが、実際に本当にウンチをしないのである。偶にオナラはするが、臭くないらしい。理由はこうだった。アナルワームと言う魔女秘伝の寄生虫を腸内で飼っているのだ。ある種の魔法生物らしい。腸内でワームホールを形成する。宿主は幾ら食べても太らない。毒物とかも解毒してしまう。宿主は下痢や便秘をすることがない。腸内の健康状態を最適化する。その結果、美肌など美容にも効果てきめんなのである。魔女たちみんな腹中にアナルワームを飼ってるそうだ。食料が無い状態でも、水だけ飲んで日に当たって居れば、養分を光合成して生き続けられるらしい。つまり魔女はお金が無くても生きていける。だから、いちゑ様も他の魔女もお金に執着が無い。お金の悩みが無いので、気前が良くて大らかなのである。

 因みにアナルワームが形成するワームホールは、異次元収納の鍵らしい。お尻の穴から出し入れする訳じゃないが、お尻の穴に手首を突っ込んで出し入れすることをイメージしながら使用するらしい。そのコツは難しく、言葉では説明しきれないそうだ。


「異次元収納も不思議だけど、そういえば、あのタツヤ・ペニドラゴンの杖も不思議だな。なんか曰くが有りそう」

「魔王ちゃま、面白いネーミングするわね。私もタツヤ・ペニドラゴンって呼ぶわ」

「あれは変幻自在の生きた魔童具ですよね?」

「ペニドラゴンの話聞きたい?」

「はい、聞きたいな」

「それはね、私の初めての話なのよ。それでも聞きたい?」

「……うぅぅぅ、ドウシヨ、マヨウナ……ココロノジュンビガ……」

「心の準備が出来たら、何時でも話してあげるわよ」

「どきどきするけど、ちょっとだけなら……」

「ちょっとだけ教えてあげるわね。魔女の処女を奪った魔童子スポルマユーザーはね、魔童具に変えられてしまうのよ。だから魔王ちゃまも、新たに生まれてきたら処女には気を付けてね」

「じゃぁ、ポコちゃんとかマシラちゃんって危険なんですか?」

「でも条件や儀式が必要ね。心から処女魔女に永遠の愛を誓うことよ。それで儀式に則って処女の血を浴びるの。……もしも、中途半端は気持ちで処女の血を浴びると、どんな悲惨な結果になるか判らないのよね。童具でもなければ、ヒトの形もし保てない中途半端なナニかね」

「僕は、いちゑママ一筋なので大丈夫です」

「そうとも言えないわよ。処女魔女の方か強引に迫って来る可能性もゼロじゃないわ」

「判りました。もしも僕が処女魔女を心から好きになって血を浴びたらどうなるんですか?」

「途轍もない魔童具になるかもね。恐らく一振りで世界を滅ぼせるくらいかしら」

「もしも僕がママの初めてのオトコだったら?」

「私が他の童貞たちに抱かれる所を永遠に見続けることになるわね。魔女の格言でもね『最初のオトコよりも最後のオトコに成れ』って言われてるわ」

「僕は最後のオトコってことですね」

「そうよ。だから私は魔王ちゃまだけのモノなのよ」


 蜜壺の中で目覚めるたび色んな話をしてきた。なぜ、僕が魔王に覚醒できたんだろう。他にも魔王覚醒者はいるんだろうか?

 これが最大の疑問だっ!

 ウジウジ考えてると、いちゑ様が御教授下さる。

乃輪ノワ胞船はらぶねのお話してたら、あなたは古の魔王と意識が同調したわよね。それは何代前か判らないけど、あなたの前世の記憶を呼び起こしたのよ。輪廻転生の末、一九九九年七月の満月の夜、魔王ちゃまは目覚めたのね」

「なるほど。それで、どうやって僕を見つけたんですか?」

「井戸の中から女幽霊が這い上がって画面から飛び出す怖いビデオの話知ってるわよね?」

「何となく知ってます。それと、どういう関係が?」

「私の作品ってDVDもネット配信も無いの。ビデオに拘っていたの。それはね、あの怖いビデオみたいに、ビデオに霊力を込めてたからなのよ。ビデオは霊力と相性が好いの」

「じゃあ、僕がビデオに釣られた訳なんですね」

「一九九九年七月の満月の夜、三〇歳を迎える男をリストアップしたの。それで呪符をDMとして送り付けたわ。それで注文返した顧客をモニターしたのよ。でも、魔王ちゃまは、猿聞君から直接貰ったのよね」

「はい、そうです」

「猿聞君はね。AV製作の監督権販売促進スタッフだったの。奇遇なことに、あなたと知り合って、きっかけ作ったのね。やはり運命としか思えないわ」

「僕が黒瓜荘に入居できたのも、仕組まれてたんですよね?」

「そうよ。あなたが住まいを探した時、裏から手を回して黒瓜荘に誘導したのよ」

「でも、どうして僕に狙いを定めたんですか?」

「それはね。まず第一にね、『ビデオ見ながら、ひとりでHしちゃダメだよ。でもね、ガマンできたら、きっと好いことが有るわよ💛』って台詞を真に受けて、愚直に実行してたんですもの。黒瓜荘に誘導したら、その通りだった。第二に、あなたには呪いが掛かってたの。ヒトのメスとは永劫に出逢えない女難の相ね」

「僕は呪いの所為で全然モテなかったんですか?」

「だから、ヒトに似てヒトに非ざる魔女と想いを遂げたんでしょ。禍福は糾える縄の如し。呪いが幸いしたと考えれば好いじゃない。御蔭でヒトを超える存在になれたのよ」


 未だに女狐につままれた気分である。それでも、憧れのいちゑママと恋人や夫婦以上の強い絆で結ばれた。結果オーライで善しとしよう!



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