十月十日の章

第7話 ジュタイの魔王👶

 体は軽いけど目が重い。目が開かない。未だ暗闇の中を漂っている。ふわふわと浮いている。まだ乃輪ノワ胞船はらぶねから抜け出せない。まぁ、でも心地が良いから好いからな。とっても甘い蜜壺の中だ。


 再び音ならぬ音、声ならぬ声が聞こえる。苺いちゑ様だな。

「おめでとう。本当に一つになれたわね。赤い糸よりも太い絆で結ばれたのよ💛」

「えっどういことですか?」

「あなたわね、乃輪ノワ物語聞きながらHしてた時ね、キンシンソウカン起こしたのよ」

「近親相姦って、実は実の親子だったんですか?」

「先走って言い間違えたわ。心筋梗塞ね。つまりね、あなたの御霊は受精と同時に肉体から離れ、いま受胎して意識が目覚めたのよ。今はジュタイの魔王なのよ」

「じゃぁ、さっきの乃輪ノワ胞船はらぶねは現実だったの?」

「あなたは夢と現の狭間を彷徨っていたの。夢であり現、現であり夢よね」

「僕、世界を滅ぼしちゃったの?」

「安心して。世界は健在よ。あなたの御霊を私の目と耳を同調させるわね」


 目の前に苺いちゑ様が立っている。鏡に映ってるんだな。喪服姿ぐっとくるな。すらりと伸びた長い脚は網タイツで包まれている。しっとりとした若き未亡人って感じだ。そして遺影を掲げている。鼻の下のばしたまま目を閉じている。安らかに腹上死したんだな。いちゑ様のご尊顔を仰ぐと涙ぐんでいる。

「やっぱ僕死んじゃったんですね。悲しませて御免なさい」

「いえ、御霊が肉体から離れてオメデタですもの。悲しいのはそこじゃないわ。だって、あなたの葬式に誰も来てくれないんですもの。あなたのことが可哀相で可哀相で、思わず泣けてきちゃったの」

「確かに僕の葬式に来てくれそうな人が思い当たらない。でも、いちゑママさえいれば、僕は寂しくも悲しくも無いですよ」

「そう、これでも見て慰めてね」


 スパッと黒い幕が上がる。現れたのは、ノーパン・パイパン・ガーターベルトだっ!

 眼福、眼福、嬉しさのあまり成仏しそうだ。お臍の周りに字が書かれている。時計回りに「伏・魔・封・淫」と読むんだろう。そのあたりに僕が居るんだな。そうか、赤い糸よりも太い絆って臍の緒のことなんだ。


「お母さん。鏡の前でブツブツ言いながら、ナニしてるのっ!」

「貴方は硬いわね。……魔王ちゃま紹介するわね。この娘はポコちゃん。あなたのお姉ちゃん」

「私はポコじゃなくて保子やすこです。魔王様よろしくね。こんな人から産まれるなんて、ご愁傷さまです」

 セーラー服姿の少女は、赤面しながら、いちゑ様の縦筋を手で遮る。これが真面な感覚なんだろうけど、もう僕は真面な世界には居られない。

 そういえば、ポコちゃんに見覚えるな。目がクリクリして小動物みたいに可愛らしく、胸は滅茶苦茶デカい。そうだっ、乃輪ノワ胞船はらぶねに出ていた処女のお姫様だ。

 いちゑ様とは、そんなに似てる様には見えない。先入観を持てば、似てなくもない。二人並ぶと、どう見ても姉妹だな。母子って言っても誰も信じないんだろうな。

 それにしても生真面目で硬そうだけど、ポコちゃん好い娘だよな。僕の葬式なんかを真面目に手伝ってくれている。色々駆け回ってくれている。用が出来て席を外してしまった。


「ねぇ魔王ちゃま。ポコちゃんの父親って誰だかわかる?」

「ぇえ……僕の知ってる人?」

「会ったこと無くても知ってる筈よ」

「誰だろ誰だろ誰だろ……んっ~……もしかしてセーラー服オジサンですか?」

「ピンポーン!……御褒美にチラっ💛」

 ひらりと身を振り返して生尻を見せてくれる。桃のよりも甘いお尻たまらない。僕は巨乳派じゃなくて美尻派なんだよな。眼福眼福!


「セーラー服オジサンって作品の中では腹上死しましたよね」

「四十路童貞卒業して本当に人生まで卒業しちゃったの。あなたと同じく御霊が私のお腹に宿ったのよ。そして産まれたのがポコちゃんね」

「クリっとした目は確かに似てるけど、セーラー服オジサンって小太りでチンチクリンでしたよね?」

「あの人ね、若い頃は女装が似合う美少年だったのよ。ポコちゃんは、その頃の姿の生き写しよね」

「ところで、ヤスコ姉さんをどうしてポコちゃんって呼ぶんですか?」

「セーラー服オジサンって、狸の置物みたいでしょ?……それに生前の名前が田貫たぬき保彦やすひこね。今の名前がヤスコ、保子やすこと書いてポコって読めるでしょ」

「いちゑママが女狐系なら、確かにポコ姉は狸系ですよね」

「そうそう狸系の上にリケジョなのよ」

「へぇー凄い優等生なんですね」

「セーラー服オジサンって実は超高学歴の科学技術者だったの。野鐘ノベル賞取り損ねて女装癖発症したらしいわよ。生前の知識や学力はそのまま。学校の勉強なんて馬鹿馬鹿しくて付き合ってられないそうよ」

「飛び級で大学上がっても好いくらいなんですね」

「そうね。この国が大好きだけど、横並びで才能押さえ付ける所は嫌いだわ」

「でも僕なんか大学入り損ねたプー太郎だから、雲の上過ぎて判らないや」

「それで好いのよ。もしも魔王ちゃまにポコちゃん並の才能が有ったら、核を超える大量破壊兵器開発して魔王を凌ぐ超大魔王になっちゃうわね」

「じゃあ、僕は才能無い故に戦争の脅威から人類を救った。そして、いちゑママに宥められて世界滅亡を止めた。二度も世界を救ったんじゃないですか?」

「ふふふ……そう思って好いんじゃない」


 僕の肉体は滅んだ。すでに荼毘にふされていた。僕の御霊と言うか僕の意識、僕そのものは、いちゑママのお胎の中で健在だ。とても居心地が好い。蜜壺の中で居眠りしたり、時々目覚めたりする。

 驚いたことに、僕の葬式は、僕が住んでいたアパート言うか下宿の一階で行われている。集まった面々には驚いた。

 大家のお婆さんと隣の女子大生が来てくれた。今まで知らなかったけど、大家のお婆さんの名前は黒瓜阿礼である。もうお婆さんだけど、お婆さんにしては若々しくて色っぽい。「童貞のまま死ぬくらいなら、お婆さんでも好いから筆おろしして欲しい」と思わないことは無かった。女子大生の方は、名前を黒瓜猩子と言う。大家の婆さんの孫娘なのだ。男を取り換え引き換えしてたのは、いちゑ様と同じく童貞食いだったのか?

 更にやって来たのは、サリー黒瓜である。見た目は四十路から五十路の間の熟女AV嬢である。本名は黒瓜猿女だそうだ。隣の女子大生、黒瓜猩子の母親である。小学校中学年くらいの女の子を連れている。名前は、ましらだそうだ。それぞれ、猿っぽい顔した美女、美少女だ。

 さらに驚いたのは猿ぽい男だ。見覚えが有る。僕に苺いちゑ様のAVを勧めて人生を誤らせた奴だ。結果オーライで、人生の過ちは禍福転じて蜜壺に収まったけど。奴の名は黒瓜猿聞である。浪人時代に知り合った。奴は二浪のすえ和歌田大学に入学した。僕は二浪のすえ浪人生活を諦めた。僕には両親とか兄弟がいた筈だ。疎遠になって、ナニも思い出せない。

 そして何よりも驚くのは、苺いちゑ様との関係である。いちゑ様は黒瓜猿女の娘であった。猿女、猿聞、猩子、ましらは何となく好く似ている。いちゑ様は全然似てないんだよな。黒瓜一族は猿系、いちゑ様は女狐様、ポコちゃんは狸系である。ただし阿礼お婆様は、いちゑ様に似てるかな。

 そういえば、あのアパートの名称は黒瓜荘だった。僕は魔女一族の掌の中で囲われてたんだな。でも蜜壺に収まったことに不満は無い。

 葬儀以来、いちゑ様は僕の旧居に住まいした。僕の大切なコレクションもそのままだ。空き部屋にポコちゃんも越してきた。


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