7-2
「なんだかお忙しいようだから、私は一旦引き上げます」
裁判所に提出するべく、家宅捜索申請書類の作成を終えた新見に、原田が声を掛けた。
「駅前のビジネスホテルに宿をとっていますので、何かあったら連絡を下さい」
ホテルと自身の携帯電話番号をメモした紙を手渡された新見が、
「すみません、ありがとうございます。後で連絡させて貰います。ホテル迄送らせましょう」
と言うと、
「いやぁ、ぼちぼち歩いて向かいます。途中の街並みも見てみたいし、三嶋大社にも寄ってみたい。あぁ失礼しました、物見遊山ではなかった」
原田は屈託なく笑った。
新見は、会議室を出て行く原田の後ろ姿に、深く頭を下げた。
原田が出た後直ぐに、大木が会議室に飛び込んで来た。
「今、階段ですれ違った方は」
新見に尋ねた。
「あぁ、富士吉田署の原田巡査部長だ。わざわざ当時の資料を持って来てくれたんだ」
「そうでしたか、ありがたいですね」
大木は汗を拭いながら、出入口を向き一礼をした。
「ご苦労様、それでどうだった」
鞄から携帯電話を出しながら、
「はい、警部の言うように、捨てたという行為そのものに疑問を感じました」
と、新見に告げた。
「それは、どういうことだ」
大木は状況を説明してから、
「これは自分の推測ですが、週刊誌に挟んでゴミ箱の中に置いたのではないかと……誰かにスマホの中身を見せる為に。犯人が置いたのか、礼子が置いたのかは解りませんが、それでバッテリーを残していたのではないかと」
と、自身の見解を伝える。
新見は、大木の話を楽しんでいるかのように、目を瞑りながら聞いた後、
「そうだな、目立った所に置いたのでは盗られてしまうものな。では、中身を確かめてみよう」
と言うと、スマホの電源を入れた。
(シンプルな画面だな)
スマホを開いた新見はアイコンの少なさに驚いた。ホーム画面に表示されているものを数えると、20しかなかった。
メイン画面には、グーグル検索の細長い楕円と、その下にカレンダーが表示されている。メモ書き機能のあるカレンダーであるが、使用された様子はない。スライドさせると、サブ画面に二十のアイコンがある。電話会社のサービスアプリばかりで、LINE等の通信アプリは皆無であった。
電話のアイコンを開け通話履歴を確認すると、全て削除されたのか、画面は真っ白である。グーグル検索も履歴が消されていた。
「ロケーション履歴は……オフか」
「こちらはどうでしょうか」
大木が横から指を出し画面を操作すると、内蔵されている全てのアプリが表示された。
「鑑識に回して、通信アプリの解析をさせましょうか」
大木が尋ねた。
「こちらにもLINEは無し……いや、ちょっと待て」
新見は、ショートメールサービスのアプリを見つけ開いてみた。
「あったな」
画面の最下位には、九月十七日付けの通信が残されていた。相手は【山ちゃん】とある。スクロールして初回通信から確認した。
・・・・・・
9月3日
「こちらに連絡下さい💖」23:05
「SMSの招待ありがとう✨ホント嬉しいよ。ヨロシクね」23:13
9月5日
「電話はしないでね。これでやり取りしましょう😊💕 お会い出来る日が待ち遠しいな💗🎶💗」22:52
「Erosちゃんに会えるなんて夢みたい✨指折り数えちゃうよ!17日は何時にしますか? 連絡待ってます」23:02
9月10日
「日記サイトやめちゃったんだね😭当日は三島駅周辺で待ち合わせますか?連絡待ってます」21:46
「連絡遅れてすみません😢⤵️⤵️サイトはやめちゃいました。17日は仕事の後に行くのでギリギリかも💦また連絡します💞ps:当日はあのカッコいい車で来てくれるのかな?楽しみです😊💕」23:15
「そうだよ~✨期待していてね。仕事忙しそうだね😰頑張って👊 連絡待ってます」23:35
9月15日
「こんばんは💗当日は18時半頃に会場前で待ち合わせましょう😊三島駅の駐車場に着いたら連絡下さいね。楽しみです✨💕」23:25
9月16日
「よかった~😰連絡ないからドタキャンかと思った💦了解です👍️着いたら連絡します!こちらも楽しみです✨嬉しいよ😁」0:02
9月17日
「こんばんはErosちゃん✨駐車場に車を入れました。これから会場に向かいます😁」18:13
「こんばんは。私も今着きました。こげ茶色のオーストリッチのショルダーバッグが目印です。入り口の近くにいるので声を掛けてください」18:18
・・・・・・
「この通信記録から、山ちゃんという男を割り出してくれ。大至急だ!」
「は、はい。解りました。大至急」
大木の声が震えた。
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