6-4

 原田は会議室奥にある長テーブルの椅子に座り、

「天野 礼子から通報があったのは午後4時くらいでした。急行すると玄関のかまちに腰かけていて、制服の私を見るなり無言で仏さんのところ迄案内したんです」

 と、鞄からコピーした書類を取り出しながら話し始めた。


「これが当時の供述書と捜査内容です。あとこちらが、私が調べた御光の家の資料」

 と言うと、黒い綴じ紐で纏められたA4版の二つの資料を新見に渡した。


「ありがとうございます。拝見します」

 両方の資料に目を通していると、


「さて、どちらからお話ししましょうか」

 と原田が尋ねた。


「御光の家と祖父、康夫さんとの関係からお願いします」


「はい。ここにも書かれていますが、康夫さんは御光の家で働いていましてね。元来農業を営んでおりましたが、息子の交通事故で慰謝料を払う際に農地を手離して、それでも払いきれなかった分を御光の家の教祖 大原 光洋に肩代わりしてもらって」


「それから教団にお世話になったと言うわけですか」


「そうです。農業体験の講師として働きながら借金を返していました。ですが……借金をする際に、光洋を受取人として生命保険に入らされているんです」


「生命保険に……金額は」


「死亡時三千万ですね。その辺が引っ掛かるんだが、まぁ、本人手書きの遺書と現場状況に、おかしな点が無かったもので自殺と判断されました」


「保険金は、支払われたんですね」


「はい」


「康夫さんの検視報告ですが、致命傷は後頭部の打撲傷とありますね。木が折れて落ちた時に頭を打ったもの……とありますが」

 捜査報告書を読みながら原田に尋ねた。


「柿の木の下に、高さ六十センチ程の石灯籠がありましてね。落ちた際に後頭部を打ったようです。血痕が付着していました。ロープの絞首圧迫で、既に意識は無かった状態で落ちたようです」


「康夫さんが亡くなってから半年後に、奥さん、礼子のお祖母さんが亡くなられているんですよね。自殺を知った時の様子は、どんなでしたか」


「随分と取り乱していて、泣きながら、なぜ と繰り返し叫んでおりました。見ていて辛かった……」


「天涯孤独となった礼子はその後、御光の家を頼ったということでしょうか」


「詳しい経緯は知りませんが、そうせざるを得なかったんでしょうな」


 新見が捜査資料を読み返していると、早川から報告が入った。


「警部、斎藤が動きました。先回りしていた捜査員からの報告で、車を止めておいたスーパーから自宅には帰らず、そのまま沼津市高島町にあるマンションに入ったそうです」


「高島町のマンション……」


「はい。マンションの管理会社に確認したところ、斎藤名義の部屋がありました。マンション住人への聞き込みでは、中年女性が出入りしていたと……ガサ入れ出来ませんか」


(取調室での早川の無念……)

 新見は瞬時に、

「はい、解った。直ぐに家宅捜索令状を手配する。必ず手掛かりを見つけてこい」

 と、早川に力強く頷いてみせた。


 二時間後、裁判所から捜索差押許可状が発行され、早川と捜査員四名、鑑識課から一名が家宅捜索に出動している。

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