プロローグ

はじまり

 さくのよに

 ひかりはあるの

 わたしにはわかる


 しんじつだけを

 てらしだす

 みえないひかりが

 あなたをいぬき

 そこにおちるかげ


 ほのぐらい

 そのかげが


 わたしのすべて




「被害者のノートパソコンに書かれていた最後の日記です。サイトへの投稿は確認出来ていません」


 大木からの報告を受け、新見はこの事件に底知れぬ闇を見た気がした。

 あなたと書かれた人物が真犯人だと仮定した場合、今までの捜査方針が全く意味を持たなくなる。


「過去の日記をすべてプリントアウトしてくれないか、これがダイイングメッセージだとしたら……」

(被害者は犯人を擁護している)と、後に続く言葉を呑み込んだ。

 なぜそう感じたのかは解らない。只漠然とこの日記には、惻隠そくいんじょうがあるように思えた。


『真由理』

 殺されることを覚悟して書いたもの、いや、望んでいたのか。


「ダイイングメッセージ……なんですか」

 大木は訝しげに新見を見つめた。


「それと、日記サイトに書かれた過去のコメントも合わせて調べてくれ。そのコメントからガイ者の人間関係が見えて来るはずだ」



 事件は三日前に起こった。

 静岡県JR三島駅南口前に建つ地上六階建てビルの屋上で、絞殺された女性の死体が発見された。


 発見日時は九月十八日午前二時十分。

 夜間清掃員二名が休憩をとるために屋上に上がると、フェンス角に設置された街灯の下、北西に頭を向け右横臥位で女性が倒れているのに気が付いた。清掃員の一人が声を掛けたが反応が無い為、近づき見ると眠っている様子である。「ここで寝たら風邪をひきますよ」と話し掛けても起きないので、左肩を揺すったその時に死んでいるのが解ったと供述している。

 

 絞首痕があることから殺人事件と判断。検視官による現場検証及び遺留品からの身元確認後、所轄の病院に搬送され司法解剖が行われた。

 被害者の側に落ちていたショルダーバッグ内の運転免許証から、市内在住、天野礼子38才、女性と判明。死亡推定時間は、発見時刻の被害者体温三十四・五度、その一時間後に測った体温三十三・九度、外気温二十度、生きていた時の体温が三十六・五度として計算され、経過時間は三時間。即ち、前日十七日の二十三時頃と算定された。裏付けは司法解剖の結果待ちとなる。

 死因は絞首痕から、正面から両手で首を絞められたことによる窒息死と判定。発見後間も無く三島警察署に捜査本部が設置され、直ちに捜査が開始された。

 

 三島警察署長からの要請もあり、捜査本部長に県警の新見にいみ 啓一郎けいいちろう警部が任命され、着任迄は、副本部長に任命された所轄の川村かわむら おさむ警部補が指揮をとった。

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