終天の朔
麻生 凪
序
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一人の人間が他人の人生を横切る。もし横切らねばその人の人生の方向は別だったかもしれぬ。そのような形で我々は毎日生きている。そしてそれに気がつかぬ。人々が偶然とよぶこの「もし」の背後に何かがあるのではないか。「もし」をひそかに作っているものがあるのではないか。しかし、私にはまだそれがわからない。そのことについて考えた本を読んだことさえない。
遠藤周作著 『もし……』より引用
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九月二十二日 諏訪湖にて
漆黒のヴェールを幾重にも織り込み形成された一夜という現象の一刻は、それぞれが同じように見えるも、ひとつとして同じものなどない。
水面を照らす月の名を知らぬ。
五日目の月にはなぜそれに、上弦やら下弦、小望やら十六夜、立待やら寝待など、別の呼び名が無いのかと私は訝った。その月は荘厳なる闇を、湖畔の静寂をもって見事な迄に演出していた。
明けるのだろう、
そうとも、
明けぬことはなかろう。
~新見啓一郎
『事件簿 回想録』より~
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