シクラメン

霧夜

シクラメン

「もう前には絶対戻りたくないなぁ〜!

今、すっごく楽しいもん。」


そんな久しぶりに会った彼女からこんな風に言われた瞬間に私は私の事は全てを否定されたように感じた。


絶対という呪いをつけてまで発せられた言葉は強く私を突きつけた。

大切に仕舞ってあった宝箱を割られたような、大切にしていたペット同士が共食いを始めたときのように。


そんな私は苦笑いをしながら「そうだよねぇ」と曖昧に取り繕うように相槌を打ってた。


やっぱり過去に縋っていたのは私だけなんだなぁと悲しくなり彼女の可愛くて綺麗な顔を近くにいるのにぼんやりと見つめた。


思い出を勝手に美化して過去の事にされてしまったのが辛くて過去に少し引きずり込まれていた。



そーいえば。

気がついたら彼女は一番上にいて私は下から二番目くらいになっていたなぁ。


最初は私から声をかけて可愛いに目覚めていなかった彼女は地味な私とも仲良くなり意気投合した。その頃から私にとって彼女は世界一可愛くて綺麗で眩しくて太陽みたいだった。

でも平和な事ばかりだけではなくて。

学年が上がっていくにつれていつの間にかクラスの中には明らかな格差が生まれていた。


結局可愛い彼女はいじめっ子に気に入られ仲良くなっていった。


いじめっ子の仲間になり顔の可愛さの上に

キラキラした何かを手に入れてしまったあの子はとても輝いていた。私と隣にいるよりも。


でも私はそれが許せなかった。私だけを置いてくなんてずるいよ。


私知ってたよ。私以外の子にも大親友!って言ってたのも。私の事いじめて悪口言ってた子と仲良し始めたのも。


そんな思いが爆発しいつかの日私は彼女の前で

お前はずるい、裏切りだと一度だけ泣いた事があった。

すると彼女も可愛い瞳から涙を流して「ごめんね」と謝ってきた。

違う。そうじゃない。私が聞きたいのは謝罪ではなく彼女の一番になりたかっただけなのにな。そういう所で可愛さや純粋さは武器になる。ずるい。凄く。


その時はなんで裏切ったのなんて思っていたがその裏切りと思っていたものは私の思う通りにいかなかっただけで幻想を押し付けていただけできっと裏切りではなかったのかもしれない。

少なくとも鈍感で純粋で人の渦巻いた汚い感情を知らない幸せな彼女にとっては。


可愛くて華奢で声が高くて頭も良くて運動神経も良くて明るくてこんな事実にもずる賢い馬鹿で純粋で人に渦巻いた汚い感情に気づけない幸せな彼女にとっては

毎日夜になると眠れなくて

将来の事や顔の事考えるとしんどくて

浴びせられる鋭い言葉や不安で毎日死にたくて死ぬ事ばかり考えてる私の気持ちなんて一ミリもわからないと思うしわかってほしくない。

そんな事を言うけれどけれど結局私も彼女の事何もわかってなかったんだなぁと思う。

彼女は私の事を今でも親友というけれどお互いにきっとあの頃の様な思いはないし

きっと彼女は私以外の沢山の子にも親友と言っているだろう。




「ねぇ?聞いてる??」


「ごめんね!聞いてるよ。」


「でも私嬉しいんだ。こんな素敵な友達に出会えたこと。これからもよろしくね。大好き」


こういう所が大嫌いで大好きなんだと強く実感してしまう。ああ、可愛いって、純粋ってずるい。



これからもよろしくね!と言っているけど

きっともう高校に行けば「お誕生日おめでとう🥳また遊ぼう!💓」と言いながら遊ばない女子ならではのなんとも言えない関係になって過去の親友になってしまうだろう。

憎んでも嫌っても好きになっても。

それでも思い出だけは確かに目の裏に焼き付いて消えない。


だけれど私は大人になって同窓会で彼女に会ったらきっと中学の頃は楽しかったよねと綺麗な思い出にして笑い話や酒のつまみとして話すかもしれない。


そして彼女はいつか私の名前を忘れてしまうだろう。

でもあの時たしかに私という存在がいたということを名前や顔は覚えていなくてもいい。

彼女に綺麗な思い出だけじゃなく全部含めた事実として記憶の中の片隅にいれたらいいなと思う。


「私も大好き。これからもよろしくね」


なんて半分真実で半分虚言を吐きながら。

彼女の長い長い睫毛を見つめてふと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シクラメン 霧夜 @_1142_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ