第10話 持ち帰った成果
「二体の像が立つ神殿、か……」
午後二時。
王宮の改修工事が(?)が終えるまでの住まいとしている屋敷の自室テラスにて。
ガーデンチェアに腰を下ろし、よく冷えた果実酒をゆっくりと味わいながら、僕は像と神殿らしきものが描かれた蛇の抜け殻を眺めていた。
昨夜、修道院に不法侵入して宝探しに興じた結果蛇の抜け殻を入手した後、僕とフィオナは即座に撤退した。勿論、証拠を残さないように儀式を行った痕跡を完璧に消し、兵士にかけた魔法を解除してから。
帰りは行きよりもゆっくりと走ったので、屋敷に到着したのは明け方の六時くらい。警備をしていた兵士にご苦労様と告げ、何故か玄関先で待機していたメイド長と共に屋敷の中へ。その際、メイド長はフィオナの耳元で「大人になられましたね」と言い、フィオナは耳まで真っ赤になりながら「違うからッ!!!」と叫んでいた。やっぱり、懸念していた通りの勘違いをされていたらしい。多分何を言っても言い訳にしか聞こえないので、何も弁解はしなかったけど、いいよね?
あぁ、ちなみにフィオナはまだベッド(僕の)で横になっている。起こそうと思ったけど、枕を涎まみれにして気持ちよさそうに眠っていたので、そのままにしておいた。無理につき合わせてしまったのだし、寝かせてあげたほうがいいだろう。
ということで、僕は昼間から酒を飲みながらまったりしているというわけ。フィオナを置いて図書館に行くことはできないし、屋敷にいる以上調べものはできない。まぁ、休日だから問題ないということで。
「あ、そういえば……」
蛇の抜け殻に気を取られて完全に忘れていた。と、一度自室の中に入り、机の上に置きっぱなしにしてあった古書を手に取る。存在感が薄くなっていたけど、恐らく蛇の抜け殻よりもこっちの方が重要なアイテムだよね。
古書と……蝋燭のついた燭台を持ち、再びテラスへ。
今日は緩やかで冷たい微風しか吹いていないので、外で蝋燭に火を灯しても消えることはないだろう。古書は耐火の魔法が付与されているので、燃え広がることもないし。
椅子に座って
が、いつまで経っても文字が浮かび上がることはなかった。
「次の頁に文字が浮かび上がるわけじゃないのか?」
本来本と言うのは連続して文字が書かれているものだが、固定概念に囚われては謎の古書を解き明かすことはできない、とか?
よくわからないけど、一応全ての頁に炎を当ててみることに。
次……駄目。次……駄目。次……駄目。
幾度となく頁に火を当て、失敗すること十回。
「……お!」
ようやく炎を当てた頁に文字が浮かび上がり、思わず歓喜の声を上げてしまった。どうやら、僕の推理……というか予想は当たっていたらしい。
早速、浮かび上がった文字に目を通すことに。
「えっと、なになに? 『戦士の再生。赤い玉石の心臓をアイグスに返還せよ。さすれば、ガーリアスの守護する玉座へと至る道が開かれん』」
前回よりも更に謎めいた文章だった。場所を示すようなことはどこにも書かれていないし、心臓を返還って……昔の心臓を贄として捧げる儀式でも表しているのか? 流石に自分の心臓を捧げるなんて嫌なんだけど……。まぁ、玉石とか書いてあるし、人間のものではないと思うけどね。
察するに、これは蛇の抜け殻に描かれた神殿を特定した後にすることを表しているんじゃないかな。となれば、あの絵が一体何処の神殿を表しているのか、早々に特定しないと。あぁ、何だかもどかしくなってきた。フィオナを起こして図書館に行こうかな……。
「それに、この文章を見るからに、次は戦いがありそうなんだよなぁ」
古書の頁を見つめ、苦い感情を吐露する。
戦士という文字もさることながら、守護する玉座という言葉もきな臭い。これ、玉座にある何かを手に入れるためには玉座を守護する何かを倒さなければならないってことだよね。
古代の古書に示され、謎の神殿で秘宝への道を護る最強の門番……そそられるね。フィオナのバックアップがあれば、雷天断章でも勝てるかな。
色々と古書について考えながらコップの氷をカランと鳴らし、果実酒で喉を潤す。微かに喉元が熱くなる感覚を心地よく感じながら、そろそろフィオナを起こそうかな、と立ち上がる
と、窓を開けて部屋に入ろうとしたところで、僕は心臓が大きく跳ねあがった。
「──!?」
部屋の中に一人の少女がいたから。
腰元まで届く亜麻色の髪が輝き、丸い同色の瞳は大きく開かれ、瑞々しい口元は僅かに弧を描いている。
どうしてここに……まさか、生霊?
本気でそんなことを思いながら、僕は窓を開けて部屋の中へ入る。うん、ちゃんと見えるので、恐らくは本物だろう。
僕は驚きを隠すように微笑を浮かべ、よく見知った少女に声をかける。
「こんにちは、シオン様。どうしてここに? というか、どうやって入りました?」
「お邪魔してます、セレル様。屋敷の前で馬車から降りたら、メイド長さんが中に入れてくれました。セレル様の自室の場所も教えてくださって、ノックをしても気が付かないので勝手に入っていいですよ、とも」
「反論できないなぁ……」
確かに、さっきまでの思考に没頭していた僕ならノックに気が付くことはなかっただろう。でも、気持ち的には一度くらいノックしてほしい……あ、三回した? それはもう、ごめんなさいとしか言えません。
「で、今日はどうしてここに? 魔法の稽古でしたら、二週間後に予定していますけど……」
「今日は魔法の稽古に来たんじゃないですよ。まぁ、最初はそうだったんですけど、用事が変わりました」
「?」
シオン様の用事がわからず小首を傾げると、彼女は満面の笑みで、しかし背後にとてつもなく不穏なオーラを醸し出しながら告げた。
「昨晩は……フィオナ様と、どちらに?」
「………………な、んのこと、やら」
「メイド長さんに聞きましたよ? 『昨晩はフィオナ様とセレル様は、二人同時に大人の階段を上られたんですよ~♪』って、嬉しそうに」
シオン様が僕の方へと一歩近づき、僕は一歩後退する。逃げ場は……逃げようと思えば逃げられるけど、ないものと思ったほうがいい。
やっぱり、誤解は解いておくのが正解だったかな。でも、あの時言っても言い訳にしか聞こえないし、何よりも証明できるものが何一つなかった。
「シオン様、それは誤解です。僕とフィオナは清い関係で、何一つやましいことはしていません」
「でしたら、昨晩は何処へ行っていたのか……言うことができるはずですよね? どうして話すことを躊躇っているんですか?」
「僕にもプライバシーというものがありまして……」
苦し紛れの言い訳をしながらも必死に思考を働かせるが、状況を打開できる考えは全く浮かぶことがない。一瞬、
結局五分程粘った後、諦めて昨晩のことを話す羽目になりました。
シオン様には、尋問の才能がおありのようで。
■ ■ ■ ■ ■
ワクチン二回目の副反応滅茶苦茶しんどかったです……。
解熱鎮痛剤とか冷却枕の事前準備は必ずしておいてください。普通に体温40度超えますので。
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