第15話 前兆

めちゃ短いです。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


同時刻。


俺は魔法学校敷地内にある教員寮の自室で、一人苛立ちを募らせていた。

床には割り砕いたガラスコップの破片が散乱しているが、流石にあれはやりすぎた。学校長から一先ずの謹慎処分を言い渡され、ついカッとなってやってしまった。他の部屋の職員に聞かれればあらぬ噂を……いや、今更か。

既に謹慎処分など下されている時点で、噂などたち、俺の評価はどん底にまで落ちているだろう。

正式な処罰は追って通達と言われているが、どうせクビだ。


「くそッ、なんであんな低位階の司書なんぞのために!」


考えれば考える程、苛立ちは募る。

俺は生徒のことを思い、図書館には行かない方がいいと助言をしてやったのに。

元はと言えば、あの図書館の宮廷司書が全ての元凶だ。能天書パワーズなどと低位の魔導書でありながら偉そうに……俺が一騎打ちでもすれば、簡単に実力の差を思い知らせることができる。

無論、郊外での私闘は禁止されているが、模擬戦はできる。何度も申し込んでいるが、奴は頑なに受けようとしない。自分が弱いということを見せたくないからに違いない。

実力が伴わない奴は魔法士を名乗る資格すらないというのに……。


「……クソ。俺に、あの司書を屈服させるだけの絶対的な力があれば──」


俺は自分の契約した魔導書を見つめながら呟く。

自己評価ではあるが、俺も魔法士としてはそれなりに優秀だろう。でなければこの学校の教師など務まらんからな。

しかし、幾ら優秀といえども、ただ存在するだけで相手を屈服させることができる力はない。そんなものを持っているのは、世界で六人の『天神』だけだ。

彼らの持つ、熾天書セラフィムの力だけ……。


叶うはずはないが、夢見たことはある。

あんな絶対的な力を手にして、誰に指図されることもなく魔法を振るいたい、と。まぁ、そんな夢はとうの昔に捨てているが、それでも今の現状になれば、考えたくもある。

そんな力を持っていれば、俺はこんな目にあわず、寧ろあの司書に処罰がいくのだろう。


「はは、熾天書とは言わずとも、智天書クラスの力があればな。今更そんなことを望んだところで、意味はないが──」

『叶えてやろう』


突然室内に響き渡った声に、俺は咄嗟に立ち上がって天井を見た。

今、確かに天井辺りから声が聞こえた気がしたんだが……と、早まる鼓動を自覚した時、再び声が。


『貴様の願いを叶えてやる。他者を屈服させる、圧倒的な力を』

「……なんだ?お前は、誰なんだ!」


姿の見えない相手に対する恐怖や困惑を隠せない。

俺は咄嗟に声を荒げて問いかけると、声は天井ではなく壁から響いた。


『我々は『ダンテ』。力を求める強き者に、道を示し続ける者だ』

「ダンテ?強き者?な、なにを言っているんだ」


意味がわからない。我々、ということは組織か。その目的が道を示す?何を言っているのかさっぱりだ。

だけど、何故か。俺にはこの言葉が非常に魅力的に聞こえる。

まるで、この言葉を否定することが烏滸がましいような……。


『どうする?選ばれし強者への道を、進みたいとは思わないかね?』

「──はい、思います」


そう答える以外、何がある?

全て、この声は正しいのだ。このお方の言うとおりにすれば、俺は必ず強大な力を手にし、あのクソッたれな司書に一矢報いることができるのだから。


『いいだろう。貴様に絶対的な魔人の力を授けてやる。幸い、貴様と同様の処分を受けた者が他にも数名いるようなのでな。折角だ。実験がてら、それら全てで行ってみようではないか!』

「はい。感謝致します」


既に俺は従順な犬も同然の身。

俺の全ては──『ダンテ』の未来のために。

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