第23話 真犯人??

「この者たちが、襲撃者か?」

「はい。僕と、」

「宮廷魔法士団第一部隊隊長、エゼル=フロイジャーと申します」

「の、二人で迎え撃ち、拘束致しました。気を失っている者もおりますが、そう時間がかからない内に目を覚ますでしょう」


エゼルと共に襲撃者たちを拘束し、ベルナール公爵の元まで襲撃者を運んだ僕らは公爵様に事情を説明し、夜分に申し訳ないと思いながらも、王都の警備騎士を呼んでもらった。

意識のある襲撃者たちは視線を鋭くして僕らを睨んでいるけれど、ここで何かをしようものなら即座に命を奪われる可能性があることをわかっているのだろう。特に何もしなければ、逃げる素振りも見せない。逃げられないけどね。


「呪詛魔法をシオンに施した者の使い、ということか。それについては彼らを徹底的に尋問し、吐き出させなければなるまい」

「それについては、大方の目途はつけられそうですがね」

「何?」


訝し気に眉を顰めた公爵様に、僕は先ほどの短剣を差し出す。

それを受け取った彼は、刻まれていた家紋を見て目を見開いた。


「……グランツ伯爵家の家紋だな」

「大変マヌケで笑い話にしかなりませんが、彼らがこれを用いて僕を攻撃してきたということは、そういうことだと推測できます」

「馬鹿で阿呆だとは思っていたが、ここまでとはな。いやしかし、考えれば思い当たる節もあるというものだ」

「そうだったのですか?」

「あぁ。シオンに呪詛魔法の痣が現れたのは、あの家との会食があった後だったのだ。その時は顔見せのつもりでシオンも連れて行ったのだが……それが駄目だったようだな。無事何もなかったと思っていたが、こんなことになるとは」


忌々し気に短剣を握る公爵様の手は震えている。

怒りだろうな。愛娘にこんな暴挙を行ったグランツ伯爵に対する。

子があれなら親も相応の人間ということだろう。逆も然り。

最悪──というよりも、あの家は確実に取り潰しになるだろう。いや、呪詛魔法という禁止魔法を使用しているのだから、死罪もあり得る。

どうなろうと自業自得ではあるのだけど、まずは事実確認からだね。まぁ、家紋が入った短剣なんて家の者しか貸し出すことなんてできないだろから、犯人はほぼ確定だろうけど。


少し後に若い男性の執事──確か、アトスという名前だった──が公爵様の傍にやってきて、拘束されている者たちを一瞥。


「旦那様、騎士の方々が到着されました」

「この者たちを地下牢に入れておくように指示をしておけ。それと、後程尋問する内容を記したメモを届けさせるので、そこに書かれている内容は全て聞き出せともな。手荒になっても構わん」

「かしこまりました」

「頼むぞ。二人は、疲れだろう。今日はもう休んでくれ」


僕らに労いの言葉をかける公爵様。

そのお気遣いはありがたいけど、僕らは二人とも首を横に振る。


「申し訳ありませんが、私は王宮での仕事がございますので。ここで私だけ休んでしまっては、部下たちへの示しがつきません」

「僕は騎士の方々と共に、地下牢へ。魔力反応的に、全員力天書ヴァ―チェス以上の魔導書を持っています。脱走されても面倒ですので、僕も傍にいた方がいいかと。序に自白剤の調合も行っておきます」

「そうか。すまないな、色々と面倒なことに巻き込んだというのに」


一礼を返すと、公爵様は「働き者たちだな」と呟いて屋敷の中へと入っていった。

横では騎士たちが襲撃者たちを連行していく。その様子を横目で見ながら、僕はエゼルへと感謝の言葉を述べる。


「ありがとう。タイミングはバッチリだったね」

「遅かったくらいだけどな。ほとんどお前が倒したし」

「拘束してくれてなかったら、確実に逃がしていたよ。王宮の警備もあるっていうのに、申し訳ないね」

「息抜きみたいなもんだから気にすんな。模擬戦の礼を返しただけだよ」

「そっか。うん、了解」


素直に感謝を受け取らないのはエゼルらしい。

彼はすぐに懐中時計を取り出して時間を確認すると、「そろそろ行かないと部下が怒るから行くわ」と言い残し、王宮へと向かって去って行った。


その後ろ姿を見届け、僕も騎士の方々について地下牢へ。

さて、頑張るのはもう少し。まずは──自白剤の調合かな!! とびきり効くやつを作らないと。



その後のことを簡単に言うと、僕が作った自白剤を服用した襲撃者たちは、あっさりと口を割った(割るように作ったんだけど)。

自分たちは雇われた身で、シオン様の護衛をしている僕を殺すことを命じられていたこと。手にしていた短剣は、任務を受けた際に代理人を名乗る執事服の男から渡されたこと。その執事服の男の素性は全くわからないけど、彼が仕えている主人が──グランツ伯爵だということ。


これらの情報を吐いたのは薬の調合が出来上がった今朝方。

すぐにそれらの情報をメモした紙を持って公爵様の元まで走り、メイドさんにお願いしてお休み中だった彼を叩き起こす形に。寝起きの公爵様はかなり気分悪そうにしていたけど、襲撃者から洗いざらい情報を吐かせたと伝えた途端にスイッチが切り替わったようになり、機嫌良さそうに身支度を整えていた。

娘に呪詛魔法をかけた黒幕の正体を掴んだということで、非常に嬉しそうにしていたな。その瞳に映っていたのは闘志そのものだったけれど。

流石は腕の立つ魔法士としても知られる人だ。容赦しないということはとても伝わってきた。


その後、公爵様は王宮へと出向き国王陛下に事の顛末を告げに行ったという。僕は同伴していたわけではないので詳しいことはわからないけれど、陛下はかなり御怒りになられていたという話だ。

まぁ、民の模範とならねばならない貴族が禁止されている魔法を用い、剰え一人の娘の──それも公爵家の娘を陥れようとしたことは到底許されることではない。

陛下は貴族が起こした今回の不祥事を重大に受け止め、事実が確定した後に家は取り潰し、伯爵とその長子は裁判にかけられ厳罰な処分を下すという。

捕縛に関しては宮廷魔法士を数人派遣すると共に、公爵家に任せるとも言われたとか。抵抗するようなら容赦はいらない。そんなメッセージを含んでいると思われる。



そして、公爵様が陛下へと謁見した翌日。


「衛兵はこれで全部か?」


グランツ伯爵の屋敷内で抵抗してきた衛兵を昏倒させた宮廷魔法士──第一部隊隊長のエゼルは、僕とその背後にいる部下の魔法士、そして公爵家の騎士へと問うた。


「そうだと思いますよ」

「俺たちいらなかったんじゃないですか? ほとんど隊長とセレルさんが倒してしまいましたし」

「というかセレルさん本当に能天書パワーズですか? そもそも本当にただの司書? 隊長と互角にやり合ってるし、そもそも魔法技量が達人級なんですけど」


敵地とは思えない程緩やかな空気で雑談を始めるエゼルの部下たち。

国王陛下から派遣された宮廷魔法士は、魔法士団第一部隊の隊員たちだった。エゼルをはじめ魔法士として腕の立つ者たちで構成されていて、正直グランツ伯爵捕縛にしては過剰戦力とも言えるほど。

陛下も心配性だなぁ。


「まぁ、お前たちはいるだけでいいんだよ。人数がいる方が迫力があるだろうし、グランツ伯爵だって怖がるだろ」

「捕まえに来たんだって実感も湧くと思います。それに、捕縛した後の護衛係でもありますから」

「こんなに人数いるんですか?」

「一応だよ。一応。陛下に行けって言われたんだから、仕方ないだろ」


国王陛下の命令なら行かないわけにはいかないからね。

と、そこで前方から汚い怒声が。


「き、貴様らッ!! 一体、何のつもりで私の屋敷に立ち入っておるのだッ!! これは貴族に対する反逆行為であり、死罪に値──ブッ!?」

「はいはい。少し黙っとけ犯罪者」


瞬時に距離を詰めたエゼルが右手を鉄で覆い、頑強なその拳でグランツ伯爵の顔面を殴りつけた。

鼻の骨が折れているようで、妙な形に折れ曲がった鼻頭と噴き出す血。あーあ、容赦ないなぁ。


「が、ああああぁぁッ!!!?」

「はいはい。うるさいから静かにしとけ」


顔面を押さえて蹲る伯爵に追い打ちをかけるように、エゼルは脂肪がたっぷりとついた伯爵の腹を蹴りつける。

悲鳴を抑えて身体を丸くする伯爵に、貴族としての威厳は全く見られない。


「エゼル、そこまで。何も痛めつける必要はないんだ。僕たちは捕らえればそれでいいんだからね」

「別によくないか? どうせこれから拷問で洗いざらい吐かされた後に裁判にかけられて断頭台行きだろう? 別にここで多少なりとも憂さ晴らしをしても、誰も文句は言わないだろうよ」

「恨みなんてあったっけ?」


エゼルは別にグランツ伯爵との関わりはないように思っていたのだけど。

と、後ろの宮廷魔法士の一人が教えてくれた。


「第一部隊の魔法士が昔、その伯爵のせいで家族全員失ってるんですよ。自分の領地で好き勝手やっていたらしいですから」

「余罪ありか……っと、これかな?」


近くの机の上に置かれていた魔法式が記されたメモ紙。

汎用魔法では見たことないし……これは呪詛魔法で確定だろうね。はい、証拠の応酬は完了っと。


「グランツ伯爵。貴方には呪詛魔法行使によるシオン=ベルナール公爵令嬢の暗殺未遂の罪がかけられています。まぁ、後は余罪で幾つもの罪が浮上すると思いますが、このまま王宮地下牢へと連行致します。御子息も同様に連行するよう通告されていますが……何処に隠したんですか?」

「……」


ギリッと奥歯を噛みしめてしらを切る伯爵。

まぁ、最後のプライドという奴かな。別にこの場で喋ってもらう必要はないし、後から自白剤でも飲ませて吐いてもらおう。


「では、お願いします」


ここから先は公爵家の騎士の方々に連行をお願いしよう。

多分、僕らよりも慣れているだろうし。

案外大人しく、絶望したような表情で連行されていくグランツ伯爵。


さて、一体何を狙ってやったのか。

色々と教えてもらおうか。

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