第4話 一人目のターゲット "早川 深夜" part4
「しまっ・・・・・・」
横の生け垣から出てきた銃を認識した時既に銃口は私の頭の中心に向けていた。
(サプレッサー付きのハンドガン・・・・・・明らかにそこらの犯罪者ではない)
銃弾が放たれるのを待たずに頭で考えずとも体が動く・・・・・・青年の首を掴んでいた右手を放しそのままマントの内側のポケットからナイフを生け垣に投げて体を後ろに反る。
これ以上無い最適解を生み出したが、至近距離で放たれた弾丸を完全に避けることは叶わなかった。
弾丸が自分のマスクを掠ると同時に投げたナイフが生け垣に勢いよく入っていく・・・・・
「うぐっ・・・・・・」
ナイフが刺さったのだろう・・・・・流石に顔を向ける時間が無かった為ナイフの投げた方向は確実に相手を仕留めるところでは無いが生け垣の奥から苦痛の声が漏れる。
しかし私の方も被害がなかった訳ではない。
弾丸が掠った所為でマスクが僅かにズレて先ほどまで首を掴んでいた青年と目が合う。
(これで私もこの業界とおさらばか・・・・・)
素顔を晒すことは暗殺者として失格であり同時に指先の脱退を意味する。
(この状況をアビゲイルはなんと思うだろうか・・・・・・)
ズレたマスクを戻し即座に腰につけたハンドガンを青年を背中に構え生け垣に発砲する。
(幸いこの方向なら弾丸は家に当たらない・・・・・)
「おい、何を呆けているっ・・・・・・君がいては邪魔なだけだ、さっさと逃げろ!」
腰が抜けたように両手を地面につけてこちらを見る青年に忠告する。
「えっ・・・・・は、はい!」
走り出した青年を確認して生け垣の方向に振り返るがさっきのように苦痛の声が聞こえない。
(仕留めたか)
青年がまだ走って逃げているのをもう一度確認し嘆息する。
(青年はいつでも追える、まずは死体を確認しなければ・・・・・)
生け垣を跳び越え生存していれば撃つ覚悟で銃を構える。
「何っ・・・・・・」
一人しか入れない幅の家と生け垣の間に跳んでライトをつけるがそこに死体はなく血痕すら残っていなかった。
(刺さったナイフを敢えて抜かず出血で跡を残さないようにしたのか。一体何処に・・・・・・もう一人仲間がいて逃げたのか?一先ずあの青年の安全を)
「あぐっ・・・・・・どうしてここに」
(しまった、もうそっちに・・・・・)
急いで後を追うと駐車場にある一つの車のドアにヘコみを入れて倒れている青年とその前に立つ藍色のウェットスーツに私と同じようにマスクで顔を隠した女の姿があった。
「おっと、動かないでくださいね。なるべく争いは避けたいので」
こちらに気づくなりウェットスーツの女は右手で青年の首の襟を掴み逆の手で私に向けて発砲したハンドガンを青年の頭に向ける。
目の前に現れた女の右肩には先ほど投げたナイフが刺さっておりウェットスーツが少し血で滲んでいたが女は気にするほどの痛みでも無いと言わんばかりに平気な顔をしている。
(地獄門(メメントモリ)のメンバーか?対象が人質に取られている以上こちらは何も出来ない・・・・・・)
「何が目的だッ」
「それに答える義理は無いっすね」
口許を歪めながらウェットスーツの女はこちらの詮索に拒否するように答える。
「まずはそっちが持てるスタンガンとハンドガンそれから胸ポケットに入ってるもう一本のナイフもこっち渡してください」
(何故ナイフをもう一本持ってることを知っているっ・・・・・・確かに先ほど使ったが残り一本しかないという保証は何処にもない)
こちらは従うしか無くハンドガンとスタンガンと胸ポケットに入れていた残りのナイフ一本を地面に滑らせるように相手に渡す。
(こちらにもう武器は無い。もし戦闘になれば・・・・・・)
「どもっす、そのままジッとしててくださいよ」
女はこちらの投げた武器を腰に巻いたベルトに装着してこちらをじっと見る。
「それではコイツはそちらに返します」
「何っ・・・・・・!?」
そう言って女はこちらに青年を投げ飛ばしてくる。
青年を抱えて帰ると思っていたが予想外の相手の行動にこちらの平常さを崩され青年を受け取ることに必死になってしまった次の瞬間・・・・・・
投げ飛ばした青年の背後に見えたウェットスーツの女は口角を上げ悪魔のような顔をしており先ほど青年に向けていた銃をこちらに向けていた・・・・・
「そう簡単に渡す訳ねぇだろ馬鹿がッッッッ」
放たれた銃弾は青年の体を貫通し私の腹と腰と左の太腿に命中し、姿勢を崩された私はそのまま青年の体重に乗せられ倒れてしまった。
「ぐっ・・・・・・って、大丈夫か早川深夜っ!」
(間違いなく今ので致命傷だ・・・・・・もうこの青年は助からないっ)
青年は吐血し目を開かない。もう意識も回復できないほど瀕死の状態だった。
(せめてこの青年の身柄だけでも確保しなければ)
暗殺者と戦闘になったことは今まで何度もありそして勝利を収めてきたが、実際このように大きなハンデを背負った状態で戦ったことは一度も無い。
「あぁ、そういう自分の命が危ういってのに他人を気遣う感じ・・・・・・すげぇ癪に触るわ。折角こっちが勝ち誇ってるのにさぁぁぁぁ」
そう言って下唇を噛んで女は青年の足を掴み私の反対側に体ごと捨てるように投げた。
「あいつのことなら気にすんな、どうせ死んでるんだし。それよりウチと遊ぼうぜ”無冥”さんよぉ」
何故こちらの名前を知っているかを疑問に思う前にウェットスーツの女が自分の肩に刺さったナイフを抜くや否やそのままこちらに飛びかかってくる。
(相手の力が未知数な以上迂闊に白刃取りするのはまずい・・・・・)
「ぐっっ・・・・・・」
「うわぁ、手で刃を握るのは肝座ってるよ。流石世界で優秀と謳われる指先(ネイルズ)の一人だけあるねぇ。だけど・・・・・・」
片手でナイフの刃を掴みなんとか胸に刺さるのを防いだが相手は両手で握っていたナイフから右手をを放しハンドガンを取り出しこちらに向けてくる。
(やはり片手を空けていて正解だった・・・・・・)
空けていた左手で銃口がこちらの頭に向く前に相手の腕を掴むが肩に向かっていた銃口から発砲されてしまう。
「うっっっ・・・・・・」
「はははははっ」
ナイフを掴んで血を滴らせている右手が限界に達していたのに気付き右足でなんとか相手の腹部を蹴り前方に飛ばして急いで体を起こす。
「やっぱそう簡単にはいかないっすよね」
ウェットスーツの女は首を回して残念そうに呟く。
しかし私の目はその女の背後に立っていた信じられない人物から離れず、女が言った言葉は私の耳を通り抜けていた・・・・・・
起死回生のオーバードーズ 出雲 大志 @izumo2918
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