第3話 一人目のターゲット"早川 深夜" part3


並んでいる机の一角でパソコンを見つめる赤髪の女性はその画面をみて嘆息する。

 

「やってるなぁアビゲイル、”無冥”の調子はどうだ」

 

コーヒーをすすりながら白ワイシャツに青ネクタイをしたガタイのいい金髪のオールバックの男が聞く。

 

「ちょうど今警戒態勢に入ったわ、恐らくこれから対象と遭遇するところね」

 

「自分の心を監視されるって年頃の女の子からしたらどんな気持ちなんだろうなぁ」

 

指先(ネイルズ)には各々一人の脳にマイクロチップが埋め込まれている・・・彼女らはそれを承諾した上で行動し、私たちの仕事は彼女らの感情の起伏が激しくなった場合それを平常に戻し撤退を薦めること。

 

チップには他にも彼女らの位置・視覚情報をこちらに送り届ける機能を持つ。

 

「彼女らああ見えて業界で有名な暗殺者だからそもそも失敗しないし、本人達も気にしてないようだし」

 

「彼女らもいい年した女の子だ、そろそろトレーニング顧問の俺が彼女らのために合コンでも組んでやるかぁ」

 

「職業聞かれたらどうすんのよ・・・」

 

「あっそうだった。アッハッハ」

 



 

「これで終わりだ」

 

片手で首を掴まれ宙に浮いた体は抵抗力を失いスタンガンが体に当たるのを待つしかなかった。

 

走馬灯ようにゆっくりと流れる時間の中で頭に浮かんだ疑問を相手に問う。

 

「あなたがトイレにいた人を殺したんですか・・・」

 

 思わず出た疑問・・・トイレにあった死体は明らかに悲鳴を上げたような表情をしていた、でなければあのように弄ぶようないくつも傷跡を付ける必要がないだろう。

 

しかし今目の前の者はスタンガンを持っている。トイレにあった死体の者と同じ殺し方をこれからするとは思えない。

 

じっと目を閉じてスタンガンが体に当たるのを待っていたがなかなか当たらない・・・・・・薄く目を開けるとスタンガンを近付けてきていた相手の手が止まっていたことに気付く。

 

 「君は・・・・・・何の話をしている」

 

 「あなたがトイレで人を殺した犯人じゃないんですか・・・?」

 マスクがあってよくわからなかったがひどく困惑しているようだった・・・・・・

 

 「あなたが殺したんじゃないなら一体誰が・・・・・・」

 

 言葉を投げかけて沈黙が続いた次の瞬間・・・・・・となりにあった生垣から銃口が飛び出した。

 

 「しまっ・・・・・・・!」


 銃口はマスクをつけた頭の中心をめがけて即座に発砲される。

 

 発砲されたのも束の間・・・・・・マスクの者は凄まじい反応速度で自分の首を放し顔を後方に反らしつつ右手で内側の胸ポケットからナイフを取り出し生垣に投げる。

 

 しかしそんな早すぎる反応でも完全には避けきれず弾丸はマスクを掠り僅かに顔を晒した。

 

 一瞬だけズレたマスクはすぐに元の位置に戻されたが、僅かに見えた銀髪に似合う青眼に端正な顔立ち・・・・・・自分の想像とは裏腹にそのとてもなまめかしき様に

 

 自分は・・・・・・こんな危険な状況に相応しくない感情を抱いてしまった。

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