第2話 一人目のターゲット "早川 深夜" part2
(あれから大分走ったけどまだ家までもう少しか・・・・・・)
走りながら後ろを振り返ってもさっきのマントの者はいなかった・・・・・・
襲うところを誰かに見つかるのを恐れているのか分からないがとにかく家まで走り続ける
(次の角を曲がればすぐそこだっ・・・・・・・)
ラストスパートだと足に言い聞かせ最後の力を振り絞る
角を曲がれば直ぐに自分のアパートが見える、駐車場を挟んだ先にアパートがあり2階に自分の部屋がある。
そして駐車場に入ろうとした瞬間・・・・・・言葉にできない不信感が湧いた。
(仮に家に行って何か武器を取っても相手にとって一番やりやすい場所になるだけだ・・・)
止まる寸前の足をなんとかターンさせ徒歩5分ほどにある警察署の方向へと走らせる
アパートをそのまま無視して少し走り続けたところで、冷たい空気を吸いすぎて肺が痛くなり足を止めてしまう。暗殺者の追跡を確認するが、誰もいない・・・
(家へと先回りしていたのか・・・?)
振り返った体を警察署の方向へと返すと急に息が苦しくなった・・・
「うぐっ・・・・・!」
目の前には先程の暗殺者が自分の首を片手で掴んでいた・・・
必死に首の手を解こうとするが全く動じずそのまま体を宙に浮かされる。
「家に行ったら私にとって好都合だということを察したようだな、だが警察署に行かれると流石に君を野放しにはしておけない」
やはり自分が家に着くのを待って襲わなかったのか・・・
神社で襲われた時は見えなかったがマントで覆ったマスクの周りには銀髪の長い髪がうっすら見える
「何故僕なんかを狙うんですか・・・・・・」
「教えてどうする」
時間稼ぎも許さない冷徹で低い声が返ってくる
「ここ防犯カメラありますし誰か通るかもしれませんよ、見られたら不味いんじゃ
ないですか・・・」
「そうか・・・・・・安心しろ、誰も助けには来ない」
冬のこの時間に人が通るというのはブラフだったが防犯カメラにはこの光景が写
っているはずだ・・・なのに相手は特に隠す素振りを見せない。
だが時間稼ぎで考えた苦肉の策を実行に移すため僅かに空いた喉でゆっくり息を吸うが、即座に自分の策は読まれてしまい首を掴んでいた手の力がより一層強まる。
「叫ばれては困る。」
こちらの質問に答えるのも嫌になったのかマントのポケットから先ほど持っていたスタンガンを取り出しゆっくりとこちらへ向けてくる。
「運が悪かったのは同情するが、これで終わりだ」
(もう流石に駄目か・・・・・・)
抵抗する力が無くなり自分の運命を受け入れる覚悟を決める。
そしてバリバリと音を立てて光るスタンガンが体に触れる直前目を閉じた。
時を遡ること三日前・・・・・・
どこかの国のとある建物の地下の、部屋にしては大きすぎる一室で五人の男が半円状の机に座りながらその机に囲まれて片膝を地面につけて伏している黒いスーツを着た少女に命令する。
「依頼が終わってすぐに悪いがこの写真の少年を、殺さず確保してきて欲しい。なるべく傷はつけないように頼む」。
「こんな依頼は今まで暗殺を依頼してきた君には異例だが分かっているな、対象に君の素顔などが知られた場合君はこの組織を引退しなければならない」
五人の男のうち一人に続きもう一人が圧を掛けて少女に言う。
「今から渡す依頼の詳細にも書いているがこの少年は日本に住んでいる普通の男子大学生だが、最近この少年が住んでいるあたりで三人の行方不明事件が起こった。そこで我々で議論を行った結果、この少年に次に事件が起こると予想した」
「それからこの少年付近にもう一人捕獲対象がいるがそちらは君ではなく“十香(とうか)”に任せてある。あくまで私個人の憶測だがこの事件は何か大きな問題に繋がっている可能性が高い、頼んだぞ”無冥(むめい)”」
少女は下に向けていた顔を上げ5人の男たちを見つめて何の反応もなく答える。
「御意」
銀髪の髪を後ろで靡かせながら少女はその部屋を後にする。
私の名は”無冥(むめい)”。世界連合組織であるフォーミュラ・ワン(F1)が世界で起こる紛争の種である人物を秘密裏に暗殺するために作った組織”指先(ネイルズ)”に所属する5人のうちの1人だ。
文明が発達し捜索技術が発達した今の時代では一般人が事件を起こせば直ぐに証拠を辿られて捕まえられる。
だが証拠を残さない暗殺者なら別だ・・・・・・暗殺者なら依頼すれば誰でも音を立てず証拠を残さず確実に対象を仕留めたという事実だけをその場に残す。
それを危険に思った世界各国が世界で蔓延る紛争の種となる人物を潰しつつ無差別の暗殺を無くすためF1を作った・・・・・・今では暗殺を依頼する場合は指先(ネイルズ)に依頼するか他の暗殺者に依頼することをF1を通して許可を貰わないければならない。
我々指先(ネイルズ)の仕事は依頼された対象を暗殺することと近頃現れた不許可で暗殺を行う凶悪組織”地獄門(メメントモリ)”の追跡及び確保である。
地獄門は無差別に暗殺を繰り返し今世界中の政府が注意している・・・・・・彼らのリーダーは業界では有名な殺人鬼”ガルシア・エイブ”
20年前に捕まり二年前に死刑判決が下っていたが死刑の前日に看守と入れ変わり脱獄。そして今世界に反旗を翻している。
この建物は外見こそ普通だが中身はF1の極秘施設になっている。F1は依頼された暗殺を管理および審議する五人の上層部・遂行する指先(ネイルズ)・その他様々な役割を持つ構成員で成り立っている。
(まず窓口で依頼の詳細を貰いに行かねば)
一階に上がったところにある事務では指先(ネイルズ)が依頼を遂行するために対象のいる現地へのアクセスと必要な武器の手配を行っている。
「今度は日本とはね・・・・・・あなた行くのは初めてじゃない?”無冥”」
事務の奥から黒スーツを着た女が寝癖のついた赤髪を右手の人差し指でくるくると回しながら出てくる。
彼女の名は”アビゲイル”・・・ここの構成員の中で中々着替えずにあちこちに皺の入ったスーツ・手入れを怠り癖の酷い髪型・寝不足で今にも瞼が閉じそうな細い目と、見た目こそ悪いが仕事は他人の三倍は出来ることで有名だ。
「日本語は習得するには時間が掛かる、さすがに文化まで学ぶ余裕はなかった」
そう言うと「相変わらず学習が早いこと」と返答しながら彼女は奥の自分の机からアタッシュケースと書類の入ったファイルを持ってくる。
「これ。ケースにはスタンガンとハンドガンと近接ナイフ二本それからあなたの素性を隠すためのマントとマスク、そっちのファイルは対象の詳細ね」
「どうも。あなたも少しはゆっくりしてみては」
ケースとファイルを受け取り軽く気づかいをしてみる。
「あら・・・あなたも立派になったじゃない。なに、もう二十四になって焦ってきた?」
こちらの社交辞令を悪い方向に受け取られ窓口の机に右手で頬杖をつきながら悪戯に笑ってくる
「私は仕事で忙しい、期待に応えられずごめんなさいね」
それだけ言って事務を後にすると「”十香(とうか)”なら先に行ったわよ、くれぐれも相手にあなたの顔見られちゃダメだからねー」と手を振って見送られた。
“十香”は私と同じ指先の五人のうちの一人。
指先(ネイルズ)はあくまでF1の者しか素性を知らず、業界の他の暗殺者もF1が公表した指先(ネイルズ)は女性5人で構成されているという情報しか知らない。
指先(ネイルズ)のチームの掟はただ一つ・・・・・・対象に顔を見られてはいけない、というのも顔を見られるというのはそのあと殺そうと殺せまいと暗殺者としてそもそも失格だからである。
念のためそれを防ぐマスクとマントがアタッシュケースの中に入れられる・・・・・・マスクの用途は声と顔を隠す為だが、マントはF1特別性でサーモグラフ・監視カメラなどあらゆる電子媒体カメラに映らなくなる機能を持つ。
施設を出てすぐの道路に止まっている送迎用の車に乗り空港に行く。
空港に着きF1のプライベートジェットに乗って日本に着くまでの間ファイルに入った書類に目を通す。
“早川 深夜(はやかわ しんや)”、大学生二十歳。捕獲理由・・・三人の行方不明者と同じ病院で近い日に出生している。
(あまりにも情報が少なすぎる・・・・・・)
だが調査班の情報によるとこの行方不明事件の現場には痕跡一つなく忽然と消えていたと記載されている。情報が少ないのも仕方ない。
(恐らく”地獄門(メメントモリ)”の仕業・・・・・・)
機内で日本に到着しましたと放送が流れいつも通り自分の中で任務遂行へのスイッチを入れた。
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