第13話 廃墟に佇むホテル〜嘘?本当に…

「おはようございます。久しぶりによく休めました。」

「ちょっと、ちょっと、おはようございますって…。すでに、16時よぉ。」

「えぇ?もう、そんな時間ですか?結構、早く出たつもりですが…。あれぇ、時計が15時になっていた。」

「あぁ…しまった。時計を1時間早めておいたんだった。」

「えぇ!いつの間に!」

「時間を早めておけば、焦るかなぁ…っと。」

「そりゃないですよぉ。真面目な性格だって解るじゃないですか?」

「そうねぇ。でも、黄泉の国の時間が早いでしょ?だから、私のお守りと言うか…保険ねぇ。」

「確かに…。あのままだと…」

「それよりも、早く、着替えてきてねぇ?」

「はい。」


「あれぇ、おかしいなぁ。食堂から部屋に戻ってきたのに……部屋がないわねぇ?あっちに明かりが見えるから聞いて見るかなぁ…すいません?」

「はい、お客様ですねぇ?いらっしゃいませ?お待ちしておりました。」

「ちょっと、ちょっと、ここは何処だい?ヘルパーさん、お部屋に案内してもらって良いかなぁ?あれぇ、あんたの顔は見たことあるけど…」

「お久しぶりですねぇ?吉岡 カズさん?」

「えぇ!嘘?本当に…。あり得ないわぁ。あなたは澤村 あやめさんですよねぇ?ところでここは老人ホームではないみたいですねぇ?」

「そうですよぉ。よくぞ、気付いてくれましたねぇ?大正解です。」

「そりゃ、今回で奇妙な出来事が2回目ともなればねぇ。」

「ですねぇ?」

「ところで、ひどくないかい?私はあの後、長くないと思っていたわぁ。あぁ、そろそろ、お迎えが来るなぁ。やっと、あの世に行けると思ったら、120才まで生きているわよぉ。物忘れは相変わらずにひどいけど…認知症ではないのが救いだけど、今は車椅子生活よぉ。歩けなくなってねぇ…つらくなってきましたよぉ。」

「そうですねぇ。こればっかりは寿命なもので…すいません。」

「でもねぇ。待たせすぎていないかぁ…心配だよぉ。こんなハガキが届いても、車椅子では何処にも行けやしないし、正直、諦めていたけど…まさかねぇ?ホテルが来ちまうんだから驚いたよぉ。」

「まぁ、あり得ないですけど…今回は、カズさんが歩けなくなって車椅子生活との事でホテルと老人ホームをくっけたのですよぉ。」

「そうなのかい?そうは言うけど…他の入居者だっているじゃないかい?大丈夫なのかい?私の後をいつも着いてくるウメさんがいるけど大丈夫なのかい?私を母親だと思って着いてくるんだよぉ。まぁ、部屋まで車椅子を引いてくれるのは有り難いけど…手はしっかりと動くし、自走は出来るから時々、困ってしまってねぇ?」

「なるほど…。大丈夫ですよぉ。向こうの世界は止めてありますから…」

「そうかい?有難う。」

「では、早速、車椅子から降りてみて下さい。」

「ちょっと、それは無理ですって!歩けなくなってかれこれ10年程になるんだから…」

「カズさん、大丈夫ですよぉ。ここは異空間ですよぉ?あの世とこの世の間にある世界ですよぉ?忘れました?」

「えぇ?という事は色々と出来るのかい?」

「実は…喫茶店を経営していた頃はそれなりのスペースがあったのですが…今は、このフロントのエリアだけと言うか…あくまでも、立ち寄るだけと言うか…。」

「もぅ、はっきりしてよぉ!」

「出来ないんですよぉ。あくまでも、フロントであの世に行ける為にチェックインして、チェックアウトするだけなんです。すいません。」

「そうなんだねぇ…少し、寂しいねぇ?色々と会話をしたかったけど…」

「すいません。では、こちらにご記入願います。有難うございます。では、こちらが鍵になります。ごゆっくりお寛ぎ下さい。こちらのドアからお入り下さい。」

「解りました。こちらですねぇ。」


「えぇ!どうなっているのぉ!こんな事がぁ!」

「お客様、どうなされました?」

「えぇ?あなたは?先程、フロントでこちらの鍵を渡されまして…」

「お客様?大丈夫ですか?こちらは黄泉の国ですよぉ。先程はあの世とこの世の中間点でチェックインをされましたので、こちらのホテルに着いたという訳でして…」

「えぇ!こんな立派なホテルと繋がっているのですか?」

「そうですねぇ。現在、この世は破壊されましたので…あの世と過去の世界とこの世とあの世の中間点があるというのが正解ですが…」

「えぇ?という事は私は亡くなっているのかい?」

「今は亡くなっていませんよぉ。とはいえ、戻れないですが…。戻っても過去というかぁ。」

「よく解らないなぁ。」

「真実をお伝えするのは可能ですが…後悔しませんか?」

「なら、止めておくよぉ。」

「ところで、私は何の為にここに来たのかい?」

「あぁ、そうでしたねぇ。吉岡様に黄泉の国の住民の吉岡和夫さんからハガキが届きましたよねぇ?」

「はい。」

「このホテルでお逢いする事が出来ます。あちらのソファーで座っているのが、吉岡和夫さんになります。では、失礼致します。」


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廃墟に佇むホテル~沢村 輝樹支配人 末吉 達也 @yasu8376

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