第31話 株とビットコインその①
クマがいなくなった燈火公園は、中心人物が抜けた後な為に気が抜けたコーラのように、皆生気はなく、ホームレス狩りにあったら全滅は必死な具合である。
特に健吾は燃え尽き症候群でバーンアウトしたかのように何をやるにしても気が入らずに、ただ黙々と天狗のトレーニングをこなしているだけである。
(こいつ、生気が全くねぇ!)
「おら! いつまでもしけたツラをしてるんじゃねえぞ! お前には、クマさんがやり残した事をやるんじゃねぇのか!?」
「でもよ、二週間で50億円だなんて一体どうやって稼げばいいんだよ?……俺、クズのままでいいよ」
「……」
天狗は健吾のほおを、思い切りなぐりとばす。
「何すんだよ!」
「ど阿呆! ここが正念場だ! クマさんはお前の、土壇場の悪運を買っているんだよ!クマさんは、お前が覚醒したら、ベーシックインカムなんて楽勝にできると俺たちに話していた! 社会弱者のためにやってくれる、と……!ここでお前が本当の負け犬になるか、それとも、堂々と生きれるのかが掛かっているんだよ。……仮に結果はどうであれ、お前が諦めたら俺は一生お前を軽蔑するからな」
天狗は激を飛ばしながら、健吾を殴りながら、泣いている。
健吾は天狗を殴り返して、口を開く。
「分かったよ! こんな額なんざ、楽勝で稼いでやるよ!そこでミカドとエッチしながら待ってろよ!」
健吾は口元から流れる血をぬぐい、ふらふらと公園の外に出て行く。
「オオカミちゃん、大丈夫かしらね」
「……なあに。あいつならば、必ずやる。死の淵から生きて帰ってきた男だ、俺たちがアイツを全力でバックアップしてやる……」
天狗達は、健吾の背中から、ある種の自信のような、どん底から早く抜け出してやると言ったギラギラした光に包まれているのが見える。
☆
健吾は気がつくと、智美に連絡を入れている。
「はい、超カンパニーの安仁屋ですが」
「安仁屋さん、すよね。今日はお願いがあって電話しました。金の無心ではありません、お金を稼ぐ方法を教えて欲しいのです……
「お金ですか……良いけれども、正社員か派遣社員が契約社員にでもなれば良いんじゃないの?安定とまではいかないけれども、生活に苦労することはないんじゃない?」
「いや、そんなんじゃねぇ! 二週間で50億円を稼がなければならないんだ! そのやり方を教えて欲しい!」
「そうねぇ……株はリスクが高いけれどもそんなに稼げないし、ビットコインなんてどうかしら?」
「ビットコイン……?」
「ネット上の仮想通貨の事よ。それならば、手っ取り早く稼げるかもしれないけれども、ほとんどが一発逆転狙いね、それで良ければだけれどもね。貴方の仲間にパソコンが詳しい仲間がいる感じがするけれども、その人に頼んでみるのはどうかしら?」
(マイコンさんのことだな。確かにあの人はパソコンには異常に詳しすぎるんだ)
「分かりました、有難うございます」
健吾は電話を切り、目をギラつかせながら燈火公園に戻って行く。
☆
「やっぱりね、戻ってきたみたいね」
ミカドは、健吾が戻ってきた姿を見て安堵の表情を浮かべる。
健吾は何かを決意したかのような表情を浮かべ、マイコンの元へと足を進める。
(やはり、こいつ、何か思い当たる節があるんだな……)
先程の生気のない、まな板の上でただ身を捌かれるのを待つだけの魚の如く死んだ目をした健吾はそこにはおらず、ギラついた目をしている。
「マイコンさん! ビットコインについて詳しく教えてくれ! 短期間で50億円稼ぐのは株や博打ではダメだ!稼げるのに限度がある! ビットコインのように、400倍になるものではないとダメだ!」
マイコンは健吾の面構えを見て、ニヤリと笑い、健吾を手招きする。
「教えてやる……だがな、これはリスクが高過ぎる。下手したらお金を全て失うかもしれないがそれでも良いか?」
「あぁ、構わねぇ! このまま何もしねぇよりかはマシだ!」
「分かった、教えてやる。夜にシェアハウスに来い」
マイコンはタバコに火をつけて、健吾をニヤニヤとした顔で見つめる。
(仮にそれがリスクがあるにしてもだ、世の中にリスク無しで稼ぐ手段はねぇ!このまま何もせずに終わるのだけは勘弁だ!……派遣の時のように、毎日を無為に過ごすよりかは、せめて、何かしらのアクションを起こして失敗した方がマシだ!)
健吾はふと、空を見つめる。
「!?」
視線の先にある雲は、気のせいか、クマの顔に見える。
*
ビットコインとは、インターネット上の仮想通貨の事で、2009年にとある日本人が提唱した通貨であり、日本円や米ドル等の法定通貨と同様の新たな通貨であり、かつ、特定の国や地域に限定されない無国籍の通貨として近年注目を浴びている。
だが、その分、通貨価値の変動は激しく、ネット上で通貨のやり取りをする為にハッキング等の被害に遭い易く、何度か数百億円相当のビットコインがハッキングされたり、一時期は4000倍になった価値が大幅に下落したりするなどして、一部の頭のいい人間だけしかやらないハイリスクなものだというのが世間の見解。
シェアハウスの一室、マイコンからパソコンを使って、その説明を受けている健吾は不安な気持ちに襲われるのだが、クマの思いに応えたいという気持ちが恐怖を打ち消した。
「オオカミ、ビットコインはこんなものなのだが、やる気持ちはあるか?」
「当り前だ! やるぞ俺は! どうやってやるんだ?」
「ビットコインを扱うためには、まずスマートフォンやパソコンに専用のプログラムをインストールするんだ、ウォレットと呼ばれる財布や仮想通貨口座情報に相当するシステムを作成するところから始める」
「あ、ああ」
「この買うという行為は、このグラフで見て自分で判断しろ、今のビットコインの価値は、先日の暴落があってから最低値だ、買うか?」
マイコンは、4台のノートパソコンの画面に映るビットコインのグラフを健吾に見せる、それは大幅に下落している。
「……」
「悩んでいる様子だな、まあそれはお前が落ち着いてから決めろ」
「あ、ああ」
「それとな、安仁屋さんの会社は新しい商品を開発したみたいだが、株を買いたいならば決めろ」
「……買う、一か八かだ」
「幾らで買うか?手持ちの金は、クマさんが用意した50億円だ」
「全部ではリスクがあるのだが、一億……いや、二億円分の金で買う」
「分かった、これから手続きしておくわ」
マイコンはノートパソコンを開いて、何やら数字を入力し始める。
(一か八か、こいつの運に賭けてみるか)
マイコンは、色々な情報が交差して頭が混乱している健吾を半ば期待した目で見やり、パソコンに目を戻した。
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