第24話 政治家の屑

 政治家という人間は大きく分けて二種類ある。


 一つが、この国を根底から良くしよう、という人間。


 寝る間を惜しんでこの国の為になる事を行う善人なのだが、悲しい事にこの国にはそんな政治家は数えるほどしかおらず、日本は世界の先進国に比べて社会福祉の面で遅れをとっている。


 もう一つが、政治家の収入と看板に惹かれてなる人間。


 政治家の年収はピンキリなのだが、上に行けばいく程多くの収入を得る事ができる、それに政治家の先生となると周りからの信頼は厚くなり、賄賂を送ってその威光を借りようとする輩は出てくる。


 残念な事に、この国の政治家の大半が後者の金の亡者達であり、それが日本を根元から腐らせて、貧富の差が出てしまっている、社会福祉や本当に将来、経済成長に必要な政策を行う政治家は数える程しかいない為だ。


「……という訳だ」


 クマは、シケモクをふかしながら、天狗達を引き連れて美智子と共に梶原との待ち合わせの場所の駅前の喫茶店にいる。


「じゃあその、梶原さんは後者に当たる訳なのか?」


 健吾はアイスコーヒーを口に運びながら、クマに尋ねる。


「いや、それは無いわよ、失礼ね」


 美智子は健吾の質問に、怪訝な顔をして紅茶を口に運ぶ。


「まぁ、それは、お前が見て判断する事だ。……先生がお見えになったようだ、粗相のないようにな」


 クマは喫茶店の入り口を見やる。


 半袖のワイシャツに、グレーのネクタイをした恰幅の良い50代の男性は、堂々としている威光を発しながら、周りを見渡して、美智子を見つけ、手を挙げる。


「おじさん」


「美智子。お前馬鹿な事をしてしまったみたいだな、お父さん達は心配していたぞ……」


 この男、慈愛党ナンバー2と呼ばれている梶原英智である。


 国民から選ばれたという自信と、この国を良くしようという使命感で満ち溢れ、店内にいる毎日を怠惰に過ごす学生や、ただ何も考えずに社会の歯車になってしまったサラリーマンとは違うオーラを醸し出している。


「でも、ここにいる人が私の悪口を消してくれるみたいなのよ」


 美智子は、普段はヨレヨレの服装をしているのだが、今回はアイロンをかけたシャツやチノパンをはいているクマ達を指差す。


「そうか……」


 梶原は、クマ達を不審者を見るような目つきで一瞥して、クマの前の席に座る。


「初めまして、阿武隈茂と申し上げます。梶原さんですね?今回はお願いがあってここに参りました」


「お願いですか……」


「お金の無心ではありません、確か貴方には、株で失敗した借金が3000万程あり、浮気をなされて揉めているそうですが、私が提示する条件を飲んでいただければ、借金を肩代わりして、女性問題を解決して、姪の美智子さんのネットの誹謗中傷を全て消してあげましょう……」


「な、何故それを知ってらっしゃるのですか!?」


 梶原は、酷く動揺をした様子でクマに尋ねる、自分に借金があり、浮気をしている事は、誰も知らないと思っていた為である。


 浮気、と聞いて、美智子は思わず梶原を二度見した、梶原の妻とはあった事はあったのだが、妻を見捨てて浮気に走るようには見えなかったのである。


「私は全てを知っております、先日の衆議院解散に伴い株の下落の影響を受けて大損をした事、ここにいらっしゃる美智子さんとは、親戚だという事も……単刀直入に申し上げます、私が借金を全て肩代わりする代わりに、私の仲間になって頂きたい。美智子さんのネットの誹謗中傷も全て消す事を約束いたします、証人はここにいる私の仲間達です。……前向きに検討をお願いできますか?」


「……うーん、お願いできませんか?」


 梶原は、クマに向けて深々と頭を下げる。


 一般人に深々と頭を下げて身の保障を懇願する梶原を見て、美智子は複雑な心境に襲われる。


 $


 梶原との話を終え、美智子は親元へと戻されるようになった。


 シェアハウスの一室、クマ達は夜露を凌ぐかのようにしてそこにおり、4台のパソコンがある部屋でマイコンは『ぼっちsns』を開いている。


「明日以降の流れだが、梶原が浮気をしている仙波奈美恵の夫である帝民党の京極宏を追い詰めて、仙波を梶原から引き離す。あいつらは、影でグルになって、梶原を失墜させようとしているんだ。京極には、SM癖があり変態バーで夜な夜な仙波に内緒でプレイに勤しんでいる噂を聞く、その様子を動画に撮り、梶原から手を引かなければ潰すと脅しにかかる」


 (仮にもこの国を背負って立つ立派な政治家さんが、浮気したり変態バーに出向くなんて、こんな事あって良いのかよ……! 反吐が出るぜ!)


 健吾は、梶原達のことをマイコン達から聞いており、胸がムカムカするような酷く気分が悪い状態に陥る、それもそのはず、彼等は国民の血税で遊びに走っているのだ。


 本来ならば政治家は、常に国民がどうやったら暮らしやすくなるのかどうかを考えなければいけないのだが、大地震の時にも関わらずゴルフや接待に勤しんでいる屑の政治家は存在する。


「今回の作戦の流れだが、先ずミカドは変態バーにいる仲間に頼んで店内にカメラを設置してもらえ、10万ぐらい店主に渡せば了承してくれるだろう。マイコンはこのまま引き続き、ネットで真壁達を監視しろ、天狗とオオカミは、柄の悪い連中が来たら退治だ……」


 クマは椅子を横にずらしながら、パソコンを見ている。


「なぁ、質問あるんすけど……」


「何だ?」


「何故、真壁の親戚に政治家がいるって分かったんだ?」


「それはな、仲間内での情報だ。俺の仲間は色々なところにいるから、ほんの些細な情報でもすぐにわかる。それにな、真壁がホームレス狩りをやろうとしている事はすぐに分かった」


「え?」


「マイコンが、ぼっちsnsを運営しているからだ、ホームレス狩りと検索をかけたらすぐにヒットした、真壁が調子に乗ってホームレスに大怪我を負わせるまでの間、泳がせていたんだ」


「……な?」


 マイコンは、ニヤリと笑い健吾をちらりと見て、再びパソコンの液晶に目を移す。


「と言うわけで、明日から忙しくなるぞ、早く寝ておけ……」


 天狗は健吾の頭を軽く叩く。

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